116話 ゴツッとしたもの
後書き修正。
『んー、美味しい!』
「本当だね」
「ガガ」
ロポリスたちはオムライスを食べて幸せそうな顔をしている。確かに美味しい。だけど俺は金翅鳥のことが気になって仕方がない。
「お口に合いませんでしたか?」
食べる手を止めたルトルが心配そうに聞いてきた。
「え、いや……」
『どうせ金翅鳥のこと考えてたんでしょ。いいのよ、放っとけば』
「そうだよ兄様。別にメゴゼック王国が滅んでもアシピルペア義母様がいるもん」
アシピルペア義母上か。確かにメゴゼック王家の血という意味ではそうかもしれないけど……
『それにあそこはドラゴンが増えすぎてるわ。前に勇者が討伐したフレアドラゴンって覚えてる? あれは元々メゴゼック王国にいたのよ。それが住処を追われてカイメル王国に行ったんだから』
このままじゃ今後もそういうことが増えていく、と言いながらオムライスを食べ終えたロポリスはコルキスのオムライスに狙いを定めている。
『近々、均衡を保つために大精霊であそこの新しいドラゴンたちを殺して回る予定だったのよ。アルフのお陰で楽できそうだわ』
え? 今、均衡を保つって言った? 大精霊のロポリスが?
「そうなの? それはちょっと残念だなぁ。ぼく、大精霊のお仕事見てみたかったよ」
コルキスの言うとおり、世界の均衡を保つことも大精霊の仕事だってモーブから聞いたことがある。よほどのことが起きない限り手は出さないと言っていたのに……そんなヤバいくらいドラゴンが増えてるのかよあの国は。
カンッ! キンッ! と鳴り出した金属音に包まれながら、見合いで行ったメゴゼック王国を思い出す。
『不死になったらいつか見られるわよ』
「はぁはぁ、そっか。うん、分かった……」
コルキスはロポリスのスプーン攻撃を嫌い、ディオスの中に入ってオムライスを食べ始めた。グルフナはそ様子を見て自分のオムライスを一口で食べきる。
うーん、大精霊が直接手を下すような状況ならロポリスの言う通り放っとけばいいのかな。でもメゴゼック王国の人たちも死んじゃうだろうし、なにより――
『本当にアルフは気にしなくていいのよ。あの国の連中は私たちがドラゴンを殺したら間違いなく攻撃してくるわ。思い上がってるから大精霊とか関係なしにね。そうなると当然、最も優しい私以外の大精霊はメゴゼック王国を消し去るはずよ。だから滅亡するのがちょっと早まっただけなのよ。血筋がっていうのもコルキスの言ったとおりじゃない。それにメゴゼック王国が無くなったからってドラゴニュートが絶滅する訳じゃないでしょ?』
ロポリスはそう言って俺のオムライスを奪おうとしてくる。
その卑しい手を防ぎつつ考える。そりゃ、メゴゼック王国はとんでもない侵略国家でもあるから無くなれば少しは平和になるかもしれない。唯一、俺の見合いが上手くいきそうになった所ではあるけど……プフヘネも痛い思いをするんだろうか。いや、それはそれで喜びそうだな。
「ルトル、ぼくお代わり。大きさは半分でソースはいらないから」
コルキスがディオスからお皿だけ出して言う。
『私も!』
「はい。少々お待ち下さい」
ルトルはお代わりを作るために再びオムライスを食べる手を止めた。
「ルトルが食べ終わってからでいいよ。あと、俺のお代わりも頼む」
俺の防御をあさましくも掻い潜ったロポリスにオムライスを半分以上食べられたからな。ったくロポリスのやつ、お代わりするなら最初から頼めよな。
「は、はい」
ルトルはオムライスを食べ始めた。
急いで食べてる……逆に悪いことしちゃったかな。
『ねえアルフ。さっきプフヘネのこと考えてたでしょ。彼女ならミュトリアーレにいるから巻き込まれないわ。それに彼女なら、例え巻き込まれたって平気よ』
「え、そうなのか?」
知らなかった。じゃあ、もう少ししたら会えるかもしれないんだ。そっか。ミュトリアーレにいるのか。楽しみができたな。
『そうよ。だから金翅鳥のことは本当の本当に放っとけばいいの。むしろ私はレッサーガルーダをあれに変異させたアルフを褒めてあげるわ。ドラゴン狩りなんて面倒なことしなくていいんだもの』
ロポリスが良い子良い子と頭を撫でてくれる。そのまま残りのオムライスも撫でるように奪っていったけど。
「アルフ様!? す、すぐ作ります。ですが、その……もしよければ手伝って頂けませんか?」
ルトルもロポリスにオムライスを奪われたようで、声をかけてきた。少しモグモグしているのが可愛い……ん、可愛い?
「勿論手伝うよ」
一旦考えるのを止めよう。凛々しいルトルが可愛く見えるなんて考えすぎて頭が疲れてるんだ。
俺はルトルと一緒にオムライス作りに集中することにした。
『ま、ドラゴン狩りを楽しみにしてた大精霊もいるんだけどね』
「え、じゃあ怒るんじゃないの?」
『コルキス、さっきも言ったけどそれは私の知ったことじゃないわ。だって今日メゴゼック王国が滅んだとしても私のせいじゃないもの。何故か突然現れた金翅鳥のせいよ』
「あ、知ーらないって言ってたのはそういうことだったんだ」
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結局俺は金翅鳥を放っておくことにした。
ロポリスとコルキスは乗り気じゃない。つまり俺だけで……そんなの絶対に無理だ。無責任かもしれないけど、侵略と虐殺を繰り返してきたメゴゼック王国にバチが当たったんだと考えよう。
「オムライス美味しかったなー。特にお代わりで食べた兄様の血をソースにしたのが……食べたいな」
隣で暇そうにしているコルキスがチラッと俺を見てくる。
そう、あのあとコルキスはオムライスに俺の血をかけてくれと強請んできたんだ。
信じられない発想だったけど、あまりにも必死に言うからかけてやった。そしたら世界で1番美味しい料理だって騒ぎ始めたんだ。
「また今度な」
『私、今は何も食べたくない』
パンパンに膨らんだ人形の腹を擦りながら、ルトルの頭の上に寝転がっている。少しオムライスと同じ美味しそうな匂いを発している。
どんだけ気に入ったのか知らないけど食べ過ぎだっての。
「ちぇ、兄様のケチ。宿の料理は微妙そうだったのに……」
その言いぐさよ。コルキスが野宿は嫌だって言うから、わざわざコースを少し逸れてこの町に来たんじゃないか。しかも1番高い宿屋に泊まりたいって宿を決めたのは自分じゃないか。
「私の血で良ければ後でお作りしますよ」
「ルトルの血かぁ……ルトルの血は甘いからオムライスには合わないかなー。お菓子を食べるときはお願いね」
「分かりました」
なんだそれ。結構怖い会話だな。普通、ヴァンパイアは血を料理に使ったりはしない。そのままが1番美味しいとメファイザ義母上も言っていた。食べ物に血をかけるのはコルキスがヴァンパイアハーフだからか。
『それにしてもわざわざ隠れてやることないんじゃない?』
ロポリスが面倒臭そうに言ってきた。
実は町に来たんだから要らないものを売ろうと宿で提案したんだ。そして今回は大々的にやるんじゃなくて、知る人ぞ知る掘り出し物がある店としてやろうと。
「明日には出発するのに知る人ぞ知るなんて意味が分からないよ」
そう言ってコルキスはディオスをもにゅもにゅし始める。
「でもこれならお客が殺到なんてことにならないだろ? あれは本当に疲れるんだよ」
それにちゃんと分かる人には分かるようにしてある。ロポリスに魔力を当てなきゃ見えない文字で案内を書いてもらってるんだ。といってもロポリスが満腹で動きたがらなかったから、家の壁とか道の上とかに数ヵ所だけだけど。
「ねえ暇過ぎるよ兄様。ぼく遊んで来てもいい? あ、そうだ! ついでにお店の宣伝もしてきてあげるよ。ちゃんとこっそりするからいいでしょー?」
「いいけど、危ないことや悪いことするなよ」
「やった! 行くよディオス!」
俺の注意に一切返事をせずコルキスは飛んで行った。
『……私はあそこで寝てるわ』
ロポリスは眠たそうな声で、唯一日が当たる所へ移動する。途中、何故かルトルがビクッとしたのは何だったんだろう。
「ア、アルフ様……よろしければ私にもたれ掛かりませんか?」
「へ? 何で?」
自分の椅子……ってもただ木箱なんだけど、それを俺の座る木箱の真後ろに移動させたルトルが不思議な提案をしてきた。
「と、友達同士というのは2人きりになると、どちらかにもたれ掛かるものなんですよ」
若干吃りながらルトルが教えてくれる。
「え、本当に? そんなの聞いたことないけど……あ、でもまてよ……」
物語でもそんな描写はなかったが、これはもしかしたらタイタンだけの習慣なんじゃなかろうか。獣人の習慣が意味不明なものが多かったように、もしかしたらタイタンにもそんなのがあるのかもしれない。
「分かった。じゃあ、しんどくなったら交代な」
ふふ……それにしても友達か。ルトルからそう言ってくれるのは嬉しい。違うな。超絶嬉しい。
「は、はい!」
なんだか緊張気味な声で返事をしたルトルが、もたれ掛かった俺の腹にそっと手を回してくる。
変わった習慣だなぁ。でも俺は学習する男だ。無闇にその種族の習慣を否定してはいけない。しかも俺にはそれを利用して傷付けてしまった前科があるぶん、ルトルを傷付けるなんてことは絶対したくない。
「重くない?」
チラッとルトルを見上げる。顔が少し赤い。我慢してるっぽいな。
「交代しよう」
「え!? いえ、まだ全然時間が経ってません。もっとこうしていて下さい。それに重たくもないです」
ルトルは手に力を入れて拒否した。結果、もっとルトルに近付く形にな。
ん? 何かゴツッとした物が背中に当たっている……ベルトか?
「辛くなったらちゃんと言うんだぞ」
「はい」
言葉にはしなかったけど、日陰に座り続けていたからルトルの体温がちょっと嬉しかった。
~入手情報~
【名称】レッサーガルーダの卵
【分類】魔物卵
【属性】命
【希少】☆☆☆☆☆☆
【価格】共通金貨670枚
【ロポリスの鼻ほじ解説】
レッサーガルーダが産んだ卵。
緑と白の斑模様で、人間の成人男性の腰辺りまでの大きさがあるわ。この卵に聖光属性の魔力を注いで作られた料理には、数時間だけ食べた者が他人から向けられる恋愛観感情に感化されやすくなる効果があるのよ。
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【名 前】アシピルペア・デス・クランバイア
【種 族】マザードラゴン(人間形態)
【性 別】女
【職 業】王妃/ドラゴンヒーラー
【年 齢】1134歳
【レベル】154
【体 力】999
【攻撃力】999
【防御力】999
【素早さ】10320
【精神力】10540
【魔 力】30290
【通常スキル】育成/調教/命令/竜体術/権謀術数/戦術/戦略
【固有スキル】母性/復活/状態異常無効/女体変化/子育て/ドラゴンの知識/パーフェクトヒール/エクサスリカバリー/ドラゴンテイム/マザーブレス/マザーズカレス/オールマザー
【先天属性】竜
【適正魔法】竜魔法