115話 アルフの孵化とレッサーガルーダの卵
後書き修正
コルキスに運んでもらいレッサーガルーダの巣から少しだけ離れた岩山の上へやって来た。
遅れてグルフナがレッサーガルーダの卵を2つ触手で抱え込んで来る。自分よりも大きな卵を抱えているせいで、触手が千切れそうなほど伸びきっていた。
「ありがとうグルフナ」
「ヴォグェ、ギッ」
後で俺の卵を食べさせてよ、か。
「分かった」
姿が変わった影響なのか、性格も前とは微妙に違う気がする。俺の役に立てて嬉しそうなのは変わらないけど。
「レッサーガルーダの卵でなにするの?」
コルキスがディオス中から聞いてくる。
「孵化を試したいんだよ。生き物の卵に使ったことなかっただろ?」
俺の固有スキルは、孵化、ミステリーエッグ、托卵、と卵に関するものが多い。いつの間にか発現していた孵化だけど、生き物の卵を孵化させる場合は注ぐ魔力の量を自分で調節しないといけないらしい。
魔力を注ぎ過ぎると変異したり卵の中で死んでしまう。他と同じようになら自動でしてくれればと思わなくもない。正直言ってできる気がしない。しかし俺にはできる弟がいるのだ。
「コルキスならヒストリアで卵に注ぐ魔力量を正しく把握できるだろ?」
「たぶんね。でもさ、孵化が成功して産まれてきたレッサーガルーダはどうするの?」
あ……考えてなかった。そうか、魔物の卵だとそういう問題があるのか。
「ゲゲゲッ!」
ほうほう、成る程。 それは良い考えだ。
「グルフナが食べるって」
グルフナの食道楽って固有スキルは美味しい物を食べると魔力や体力を――
「ああ、モグモグを使うんだね」
納得といった風にコルキスが言う。
モグモグ? あー、そういえばそんな固有スキルもあったな。
「えーと、モグモグってどんな固有スキルだっけ?」
「ギュウル……」
しまった。
グルフナがしょんぼりしてしまった。もっと自分にも興味を持って、と。ごめん。とりあえずグルフナを撫でて誤魔化そう。
「モグモグは食べた物を記憶できるんだよ」
「記憶? それだけ?」
それが何の役に立つんだ……はっ!
駄目だ駄目だ。そういう考えは良くない。その言葉を言われてどれだけ傷つくか俺は身に染みて分かっているだろう。
「基本的にはね。たまーに、食べたものの固有スキルとかと同じ効果を発動できるカードを吐き出すみたいだよ。可能性はほぼゼロだけどね」
要は魔核みたいな物を吐き出すのか。可能性が少しでもあるなら使ってればいつか吐き出すってことじゃないか。普通に凄いと思う。
「凄いなグルフナ」
「グゥ!」
良かった。グルフナが元気になってくれた。
「本当に可能性が低いから期待しない方がいいよ」
「それでも凄いことだ」
可能性があるって分かっているだけで気持ちは上向きになる。
「よし、じゃあやるか。孵化を使うからコルキスはヒストリアを頼むぞ。最初は普通に孵化させる」
「くふふ、ぼくと兄様共同作業だね」
嬉しそうにコルキスが笑う。
ミステリーエッグで作った卵を孵化させる時は、自動で必要量の魔力が消費される。今はそれと全然違う感覚だ。わかってたはずなのに違和感が半端ない。レッサーガルーダの卵にいくらでも魔力を注ぎ込める気がする。海に放水する……みたいな感覚かな。したことないけど。
「あ、もういいよ」
おっと、もうか。言われなきゃ本当にわかんないなこれ。
孵化を止めると同時に卵の殻がボロボロと崩れていった。
「キュピ! キュピ!」
出てきたまあまあな大きさの雛が綺麗な声で鳴いた。成体の赤い身体とは違って雛は濃い茶色をしている。雛は羽をバタつかせながらヨチヨチ歩きで俺の前に来た。その目はしっかりと俺を捉えている。
「結構可愛いんだな」
「そう――」
「ギュビ!」
「…………」
「…………」
俺とコルキスはまさに凍り付いた。
なあ、グルフナ君や。もう少し空気を読んでくれても良かったんじゃないか?
雛と見つめ合っている最中に食べることないだろ。可愛い産声の次が断末魔とか辛いんですけど。
「……衝撃的な食べ方だったね」
「ああ、夢に出てきそうだ」
その食べ方とは、先ずグルフナの頭部が放射状に割れその内側に無数の鋭く細かい牙が現れる。そして、おそらく口であろうそこから針を飛ばしレッサーガルーダの雛に突き刺すと、雛はドロッドロに溶けてグルフナに吸い込まれていく、というものだった。
岩肌に残された湿った跡が哀しみを誘ってくるよ、本当。どうして食道楽みたいに触手で包む食べ方じゃないんだ。
「ゲゲギィー」
そうか、美味しかったのか。それは良かったな……。嬉しそうな鳴き声で次も早く、とグルフナが催促してくる。
「分かったよ。でも次は変異させてみたいんだ。どうなるかしっかり見たいからすぐ食べちゃ駄目だぞ」
「ゲッ」
おうおう、ご機嫌声の返事だな。
「はぁ、やるか」
「うん」
今度も同じように魔力を注いでいく。たださっきと違うのは、注いだ魔力がある量を超えると魔力の消費速度が激増した事だ。これは魔力を注ぐというより吸い取られているみたいだな。
「くっ、また随分と……」
「まだまだだよ兄様」
さっきの10倍ほどの魔力を注いだ辺りで卵の下に光る輪が現れた。それはゆっくりと浮かび上がり、頂点まで行くと卵に吸い込まれていく。それは魔力を注ぐほど現れて、その都度同じことを繰り返した。
そのうち光る輪が現れなくなり、今度は卵の模様が震え始める。徐々に模様から光が漏れていき、それは雲の隙間から光が差すような景色に似ていた。
「もうちょっとだよ」
「分かった」
すべての模様から光が漏れ出た瞬間、卵は何事もなかったかのように元の状態に戻った。
「失敗……か?」
「まだだよ!」
「ゲーァ?」
コルキスがかなりの剣幕で言うから焦る。グルフナは早く食べさせてと言いたそうな雰囲気だ。
「集中して! あと注ぐ速さを落として!」
「そ、そう言われても……」
必死に魔力の勢いを殺そうとしても、とんでもない勢いで吸い込まれていくんだ。これ以上魔力を絞ろうとしたら孵化が止まる。
「もう! じゃあぼくが合図したら同時に孵化を止めて!」
「いや、同時とか――」
「時間ないから! せーので止めるんだよ!いくよ……せーのっ!」
「うわっ!?」
コルキスの合図で孵化を止めたら、バンッという破裂音が鳴り突風と卵の殻が襲ってきた。
危うく岩山から落ちるところだった。
それで孵化どうなったんだ? 失敗? 成功?
さっきみたいに産声が聞こえない。あと、魔力を使い過ぎてちょっと気持ち悪い。
「上だよ!」
「げっ、なんだあれ!?」
見上げた先にいたのはまるで仰々しく装飾されたかのような翼を持った巨大な鳥。そいつが羽ばたくと全身が金色に輝き、頭上には大きな光の輪が現れた。
「キューン!」
巨大な鳥は俺を一瞥して鳴き、猛スピードで飛び去ってしまう。
「……ぼく知らないよ」
急にそっぽを向いて冷たい声を出し俺から距離を取り始めたコルキス。
「な、なにがだよ?」
「……」
黙るなよ!
『なによあれ!? 今の金翅鳥でしょ!? どういうことよ!?』
ロポリスが慌ててやって来た。感じの悪い人形から出てるから本気の慌てようだぞこれ。
「兄様のせい。兄様が孵化でレッサーガルーダを変異させたの」
「はあ!!?」
俺を指差してコルキスが罪を擦り付けてきた。
「お、お前も共犯だろ! 嬉しそうに共同作業だねって言ってたじゃないか! おい、こっちを見ろ、俺の目を見ろコルキス!」
『何やってるのよアルフ……あれはガルーダの中でもぶっちぎりにヤバいのが進化するのよ。分かる? ガルーダが進化するのよ?』
え、それってつまり、SSランク以上の魔物ってことじゃ……。
『あーあ、あっちはメゴゼック王国がある方ね。可哀想に、あの国は今日で滅亡かしら。知ーらないっと』
「ちょ、ロポリス! 何とかしてくれよーーー!」
『い・や・よ! 私はオムライスを食べるの!』
オムライスって……おい、嘘だろ?
「そっかー。兄様のせいで最も古い王家の1つが途絶えるのかー」
「ギィゥゥ」
コルキスは既にどうでもよさそうだし、グルフナは金翅鳥を食べられなくて残念がっている。
いや、お前ら……どうしてそんな他人事なんだよ!
~入手情報~
【メゴゼック王国】
ドラゴニュートが多く住む国。
最も歴史ある王家の1つが治める国であり、ドラゴンを神として崇めている。大陸の東側に存在しており国家面積は世界一、多種多様なドラゴンが生息している。この国の王族や貴族は皆ドラゴンに変じることができる。また、寿命を全うしたドラゴンの素材を使った装備品等が手に入りやすい事で有名な国でもある。なにかにつけてドラゴンのためとのたまい、侵略や違法行為を正当化している。なお、クランバイア魔法王国とは仲が良いらしい。
~~~~~~~~~
【名称】モグモグ
【発現】グルフナ
【属性】聖
【分類】型/固有スキル
【希少】☆☆☆
【効果】
魔力を消費して食べたものを記憶できる。極極稀に食べたもののステータスにある何れかと同じ効果を発揮する、使い捨てのカードを吐き出す事がある。
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【種族名】ガルーダ
【形 状】巨鳥型
【食 用】可
【危険度】S
【進化率】☆☆
【変異率】☆
【先天属性】
必発:聖/火/風/雷
偶発:土/毒/水/氷/闇/竜/呪/死
【適正魔法】
必発:聖/火/風/雷
偶発:土/毒/水/氷/闇
【魔力結晶体】
すべての個体に発生
【棲息地情報】
ポラン聖密林/ニッスリー彩雲海/エルブ聖山などと推察
【魔物図鑑抜粋】
厄災級といわれるSランクの魔物で、赤い身体と美しい極彩色の翼が特徴的。個体によって腕が多かったり、翼が多かったりと姿が違う場合もあるが総じて強大な力を持っている。ここ数百年、目撃情報は一切ない。
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【種族名】金翅鳥
【形 状】神鳥型
【食 用】不明
【危険度】SSS
【進化率】-
【変異率】-
【先天属性】
必発:聖光/火/風/雷
偶発:竜/呪/死
【適正魔法】
必発:聖光/火/風/雷
偶発:-
【魔力結晶体】
不明
【棲息地情報】
不明
【魔物図鑑抜粋】
金色に輝く巨大な鳥の魔物。
大厄災そのものである。Sランク以下のドラゴンを好んで捕食する習性があるらしいが、目撃例は無く過去の文献に載っている程度、伝説上の魔物というのが現代の認識である。突出した強さのガルーダのみが進化できる魔物と言われている。
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【名前】アルフレッド・ジール・クランバイア
【種族】人 間
【性別】男
【職業】冒険者/王子
【年齢】15歳
【レベル】45
【体 力】90
【攻撃力】10
【防御力】10
【素早さ】15000
【精神力】45
【魔 力】45050000
【通常スキル】無し
【固有スキル】孵化/托卵/復元/魔力成長率激増/hブースト・ミステリーエッグ
【先天属性】無し
【適正魔法】無し
【異常固定】完全忘却