110話 大遅刻の待ち合わせ
本文と後書き修正。
ギルドマスターへの報告は、予定どおり「新種の魔物と出くわさなかったが、恐らくアルコルの搭から転移してきたんじゃないか」とした。
実際、目撃された人形は俺はたちと一緒に転移してきたわけだし。中身が違うだけで嘘ではない。それにダンジョン内で魔物も罠にかかることは間々ある。ギルドマスターも1つの可能性だと頷いていた。
ルトルについてもダンジョン内で奴隷が主を変更したということで取り調べと魔道具でのチェックを受けた。結果は問題なし。しかもルトルを騙して売り払った娼館には冒険者ギルドから秘密裏に調査が入るとのこと。
ただマデイルナン公国では奴隷が合法化されているし、どんな酷い扱いも許されているとあって、今すぐどうこうできる訳ではないらしい。
ルトルには言っていないけど、ルトルの妹と彼女を身請けした冒険者の調査も俺個人で冒険者ギルドに依頼を出した。クランバイア金貨500枚の報酬なら高ランク冒険者が徹底的にやってくれると思う。経費は別途請求可としておいたしね。
こういう調査専門の冒険者もいるらしく、ギルドマスターが直々に指名依頼にしてくれると約束してくれた。
で、今回の調査結果だけど実に微妙な評価だった。
けれどアグアテス中層における魔物の分布図はとても評価してもらえ、その功績としてDランクに昇格。ふふ、コルキスを抜いたぞ。
冒険者ギルドから出ていく時に受付を覗いてみた。あの綺麗なラミア族や蝶人は巨大な光柱と突如現れた大穴の対応で出払っていた。
「アルフ様?」
少し残念に思っていたらルトルに心配された。
「あのさルトル。これから俺の弟と合流するんだけど、約束の時間に凄く遅れてるからめちゃくちゃ怒ってると思うんだ。しかも性格がなかなか気難しいっていうかなんていうか……」
「問題ありません。アルフ様と同じくご奉仕いたします」
いや奉仕とかじゃなくてもっとこう……はぁ。既に月が高い位置にある。疲れてるしこれからが正念場だから、また後にしよう。
にしても今日は満月だったのか――
「うわっ!?」
「オゲァ!」
「アルフ様!?」
月に見とれて歩いていたら謎の液体が飛んできた。けど、グルフナが触手で防いでくれる。
すると色んな方向から次々に液体が飛んでくる。さすがにグルフナもすべては防ぎきれず俺はびしょ濡れ。ルトルも身を呈して俺を守ってくれた。だから皆びしょ濡れだ。なのにルトルは自分にお構いなしで俺を拭いてくれる。
「遅い遅い遅い!! 兄様遅すぎるよ!!」
そんなルトルを突き飛ばして、勢いよく俺の首に齧りついたのがコルキス。そのままフガフガ怒りながら凄まじい勢いで吸血していく。
「吸血してやらないんじゃなかったのか?」
からかい混じりの声がした方を見るとルトルを受け止めたフーラがいた。あ、フーラだけじゃなかった。液体が飛んできた方向からディオスやカエン、ロッシュたちも現れる。
「さっきはあんなに怒ってたのに、変なの~」
「……」
テリンダートがカエンに近付きながら言う。ロッシュも何か言ったかもしれない。
やっぱり怒ってたかコルキスは。今は吸血に夢中だけど……おや? そういえば太陽の気配とやらは消えたんだろうか?
「ふむ、コルキスがそんなに夢中になるとは。俺も味見してみるか」
ルトルを立たせたフーラが呟く。
「あの、アルフ様……この方々は一体」
フーラにお礼を言った後、ルトルが戸惑いながら俺を見てきた。とりあえずべったり抱き付いて吸血し続けるコルキスを紹介した。
当のコルキスは無反応だったけど。
「はあ……ごめんなルトル。今のコルキスはちょっと駄目だ」
ここで吸血を止めさせてもコルキスの気分を害するだけだろう。いっそのこと満足いくまで吸血させれば遅刻のことを忘れてくれるかもしれない。
「は、はい……」
コルキスは放っといてフーラたちを紹介していく。但し、奴隷ではなくパーティーメンバーとしてだ。
「アルフ様のルトルと申します。どうぞお見知り置き下さい」
ルトルが皆に頭を下げる。
「アルフの……」
ロッシュがルトルに近付き肩を組んだ。コミュ障だと思ってたから積極的に仲良くなろうとするなんて意外だ。
とか思ってたらフーラがコルキスの首根っこを掴んで俺からひっぺがし放り投げた。コルキスの牙が首に食い込んだ状態でだ。なんてことするんだ!
「おいコルキス。飯を食いに行くんだろ。吸血で腹を満たす気か?」
痛いし血が止まらなくて焦っているとフーラが俺の首に口を付ける。一瞬グルフナが防ごうとしたけど、まだフーラ怖いのか俺の後ろに隠れてしまった。
「叔父上? まさか……ダメ!」
何やら薄い膜で覆われて空中に固定されているコルキスがジタバタし始めた
「なるほど。これは極上の味だな」
フーラがシタバタするコルキスの顔を見てニヤリとする……お、血が止まってる。
「叔父上! ぼくの兄様に手を出すなんてどういうつもりなの!? それに兄様も! なに大人しく吸血されてるの!? そういうの浮気っていうんだよ、汚いことなんだよ!」
膜の中からコルキスが怒鳴る。
「リメリエラと陽避け薬の報酬を貰っただけだ。ちなみに口止め料は別だからな」
「うー。もうダメだからね! 今度から別のにしてよね!」
「ケチだな」
フーラは肩をすぼめてコルキスを突つく。
膜が消えて自由になった途端コルキスが抱き付いてきて、俺の首を執拗に擦り始めた。
「ちょ、痛いって」
「ダメ! 綺麗にするの! 兄様の血はぼくのなんだからね、ちゃんと自覚してよね! ぼく以外に吸血させるなんてもうしちゃダメだからね!」
いや血は……俺のだぞ? 一体いつからそんなことになったんだよ。
「いいから早くご飯を食べに行きましょうよ」
自分の髪の毛を弄りながらイアがその毛先を見ながら言う。俺たちのやり取りに心底興味ないんだろう。
「そうだな。えーっと、こっちだ」
フーラが歩き始める。
俺は一心不乱に首を拭き続けるコルキスを抱っこして後を追った。
~入手情報~
【名称】陽避け薬
【分類】魔法薬
【属性】月
【希少】☆☆☆☆☆☆
【価格】共通金貨270枚
【コルキスのヒストリア手帳】
陽光を避ける魔法薬。
浴びるか飲むかすると太陽の光が当たらなくなる薬なんだよ。大量に浴びると太陽に関する何かしらの影響を打ち消すこともできるよ。チガテーニペッキィ幼体が原料なんだ。月属性の薬は他の属性に比べて高価なことが多いんだよね。叔父上に作ってもらったけど相場同じ価格請求するなんて欲張りすぎだよ。




