108話 日が沈むまで
後書き修正。
目の前の暗闇から優しい力が流れ込んでくる。どこまでも広がる闇――モーブ様だ。
ぼくとディオス、それとモーブ様ははっきり見えるのに他は真っ暗で何も見えない。
「まったくラズマは無茶するなー。コルキスもだよ。デッドリージャーニーを使わないでアレになれば、こんなボロボロにならなくて済んだのに」
モーブ様が頭を撫でてくれたらあっという間に痛いのが癒える。気持ちいい手だなぁ。
「ぼくアレは上手くコントロールできなくて。不完全変身するとこの辺り一帯を消し飛ばしちゃうと思ったんです」
それにさ、アレはカッコ良くもないもん。
「それでもよかったんじゃないかな。僕はコルキスが無事なら良いんだしね。今のところはだけど」
モーブ様は優しい声のままの自分に張り付いて来たディオスをそっと抱き抱えた。
「ねぇディオス。闇雲に魔素を吸収すれば良いって訳じゃないからね。適正魔法を増やすのは可能性が広がるけど、その分強大な力を得にくくもなるんだよ。ディオスはあの子とは違うんだから。もし、これまで無魔法だけを成長させてたら終焉の純白なんて敵じゃなかったはずだよ。何を目指すのかコルキスともっと話し合ってごらん」
目指すものか……ぼく、考えたことなかったよ。ディオスがこっちに来てしょんぼりしたように揺れてる。
『なんでモーブが出てくるの!? 約束が違うよ!』
どこからかな。ラズマの怒声が聞こえてきた。
「約束って言うならラズマだろ? 負けそうになったからって力を解放しっちゃってさ。コルキスたちはアルフじゃないんだから、僕が守らなきゃ塵も残さず消えてたよ。地面にも深い穴を作っちゃってアドロススルが怒ってるよ」
アドロススル……っ!?
『だってだってコルキスのくせに生意気なんだもん! アルフのことだって秘密を知ったから懐いたんだよ! ボクはコルキスなんか認めてあげないんだからね!』
秘密……それもあるけど、ぼくは兄様の血の美味しさが1番の決め手だったんだけどな。
「うーん、どちらかと言うとコルキスの基準は血の味だと思うけど……とにかく、ラズマが補助する終焉の純白を倒したんだからコルキスとアルフが一緒にいることは認めるように」
くふふ。モーブ様はちゃんとぼくのことを分かってくれてる。嬉しいな。
『ええー!?』
「まさか大精霊が約束を破るなんてことしないよね? 僕とロポリスと約束したでしょ?」
『う……でもでも一緒にいるのだけだからね! コルキス本人は認めないもん!』
ちょっとは仲良くなれたと思ってたけど、そう思ってたのはぼくだけだったんだ……。
「うんうん、まあそれでもいいよ。ところでラズマ、後ろを振り向いてごらん。吃驚するほど恐い顔した大地の大精霊さんがいるから。言ったでしょ、アドロススルが怒ってるって」
『え? ヒッ……や、やあアドロススル姉さん。え、ちょっと、何? 止めてよ、ボクまだアルフと――』
「やれやれ。ラズマは当分お説教かな。じゃあコルキス、僕も行くね。アルフじゃないけど、とりあえず我慢してね」
うわぁ……モーブ様がぎゅってしてくれた。安心感が凄いよ。もう少しこのままがよかったけど、ぼくの頭を撫でて帰っちゃった。景色も元に戻ったね。
「うわっ、凄い大穴。深そ~」
さっきはなかった大きな穴をディオスと覗き込む。内側はキラキラした物でガチガチに固まってた。
「おい、コルキス様。何が起こったのか分からないが、私を放ったらかしにし過ぎじゃないか?」
後ろからロンが声をかけてきた。
「あ、そうか。ごめんね」
ロンの側に来たのはロンを吸血してぼくの回復をしようと思ったからなんだけど、ロンは自分を気にかけてくれたって思ったのかな。
七星連撃の影響で動けなくなったロンをヒストリアで状態を確認したけど……
「ぼくの吸血じゃ回復できないみたい。大人しく155分寝転がってなよ。ぼく達は帰るけどね」
「なっ!?」
「くふふふ、冗談だよ。怪我は治してあげるし、動けるようになるまで魔物から守ってあげるよ」
あからさまに傷付いた表情をしたロンの隣で、ぼくはディオスと成長について話し合うことにした。
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俺たちはピンボールウィザードを倒した後、アグアテスの中層をウロウロして時間を潰していた。
依頼にあった新種の魔物はロポリスとラズマのことだから調べる必要がない。だから代わりに報告するアグアテス中層における魔物の分布図を作ることにしたんだ。
途中、ルトルを身請けした冒険者とその仲間たちを見つけた。死体からたくさんの赤い芽が生えていたから、コビトホオズキマキに襲われたんだろう。
ルトルが自由になれると喜ぶかと思いきや涙を流してお祈りをしていた。その後、何でもするから新しい主になって欲しいと頼んできた。
身請けの印がある限り主が必要だと言って胸を見せながら。その印は思った通り奴隷印で、ルトルが騙されていたんだと確信した俺はその頼みを受け入れた。
本当は奴隷はいらないけど、そうしないとダンジョン内で主を殺した容疑に問われかねないし、また娼館に戻される可能性が高いからだ。
と言っても奴隷印に魔力を流せない俺では主になれないので、仕方なくロポリスにお願いして主となってもらった。そしてルトルの希望を優先し、俺に貸し出すという形になっている。
人形から上半身を出したロポリスを光精霊と説明したら、たいそう驚いてたな。
ちなみにロポリスなら奴隷印くらい余裕で消せるんだけど、将来を考えるとこのままの方が良いらしい。詳しくは教えてくれなかったけど、奴隷印には世間に知られていない本来の効果があるそうだ。
「ふう、疲れたな」
『そうね。休憩にしましょ。アルフお茶淹れて』
「お茶は私が。こちらの段差へかけくださいお待ちください。お茶のあと、よろしければ足を揉みほぐしましょうか?」
ロポリスの張ってくれた結界の中でルトルがマッサージを提案してきた。
「うん、ありがとう。でも今は大丈夫だから」
断るとルトルはしょんぼりしてしまった。
『やってもらいなさいよ。ルトルは役に立ちたいのよ』
そうなんだろうか。今まで酷い扱いを受けてきたから、そうしないといけないと考えているんじゃないか?
『いいから。主の私にはルトルの気持ちが分かるのよ』
そういえば奴隷印で結ばれた主従関係にはそんな効果もあるって聞いたことある。
「えと……やっぱりしてもらえるかな」
「はい! 喜んで!」
しょんぼり顔がパッと笑顔になった。タイタン特有の光の粒を放つ笑顔……本当に喜んでるんだな。
「アルフ様の肌はスベスベですから、きっと少量のオイルで済みますね。余ったオイルは就寝前に全身を揉みほぐしす時に使いましょう」
『お茶は後でいいわ。先にアルフ揉んであげて』
なんと!
ロポリスが俺を気遣ったぞ。これは怪しい。いったい何を企んでいるんだ。
一方、嬉しそうな声で返事をして足を揉みほぐし始めるルトル。
「んっ……凄く気持ちいい」
「アルフ様に喜んでいただけて嬉しいです」
城に勤めている専門家よりも遥かに上手じゃないか。これだけでお店を持てると思うぞ。さっきまで悪いとか思っていたけど、夜にまたやってもらえるのが楽しみになってしまった。
『あと少し調べたら帰りましょう。そろそろ日が沈むわ』
ロポリスの優しい声はどこか哀れみが含まれていた。
~入手情報~
【大地の大精霊アドロススル】
土を司る大精霊。
土の大精霊、巨岩の大精霊、大地の大精霊と進化してきた大精霊である。彼女の力により世界中で肥沃な大地が多くなっている。サバサバした性格ではあるが、怒らせてしまうと非常に長い時間お説教されてしまうらしい。ラズマとは姉妹のような関係とされる。2つの宝珠と1つの羅針盤が常に周囲を飛び回っている。精霊のなかには彼女を巨乳姉さんと呼ぶものもいる。
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【タイタン】
身体の大きな種族。
巨人族とも呼ばれ神域に好んで住み着くことから神々の子孫とも言われているが、確かなことは分かっていない。心優しい者が多く容姿も優れており、本当に嬉しいときの笑顔には光の粒が一瞬だけ現れる。すべての能力が高くなる傾向にあるが成長期は短く、幼少期から計画的に育てなければGランク魔物にさえ殺される可能性がある。また、他種族と関わることが少なく珍しい種族でもある。
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【種族名称】
コビトホオズキマキ
【先天属性】
必発:植物/土/水/火
偶発:風/毒/光/影/無/竜/呪/命/死
【適正魔法】
必発:植物
偶発:土/水/火/雷/風/毒/光/影
【魔核錬成】
初期等級:B
他、詳細不明
【初期スキル】
お祭り騒ぎ/ちょこまかフォーメーション/レッツキリング
【固有スキル】
播種/籠中農耕/寝床鬼灯/甘露酸漿/プンスコ
【通常ドロップ】
葉っぱ/花びら/背負い籠/手提げ籠/ホオズキ農具
【レアドロップ】
魔核/葉野菜/寝床鬼灯/甘露酸漿/大切な種
【アルフのうろ覚え知識】
小人型の植物魔物。
ハーフリングの半分程の大きさで可愛らしい見た目をしているが極めて狂暴な魔物だ。たいていの場合10体以上で行動してるから実際はBランクではなくAランク相当じゃないだろうか。どの個体も背負い籠か手提げ籠を持っていて、背負い籠には農耕具に似たヤバい凶器が、手提げ籠には葉野菜に似た恐ろしいマジックアイテムが入っている。殺した獲物の死体に種をばらまき繁殖する。その実がホオズキに似ているため名前の由来になっている。俺はレアドロップ品の寝床鬼灯が欲しい。
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【名称】奴隷印
【分類】契約具
【属性】全属性
【希少】☆~
【価格】販売禁止
【ロポリスの鼻ほじ解説】
ダンジョンでのみ手に入るマジックアイテム。
奴隷印で身体に印を刻まれ、その印に魔力を流し主登録されると主に決して逆らえなくなるの。数千年前からダンジョンで奴隷印が発見され始めたんだったかしら。あれきっかけで奴隷が爆発的に増えていったのよねぇ。それ以前も奴隷はいたけれど、ただの焼印を押したり隷属魔法という特殊な魔法を使っていたわね。それらは現代では完全に廃れてて、使用できる者は限り無くゼロに近いわ。そうそう、奴隷印を刻まれると成長が著しく阻害されてしまうのよ。ちなみに奴隷の是非や扱いは国によって様々よ。