9話 レベリングに行こう
本文を少し修正。それに伴い後書きに【魔物図鑑】を追記。
んーーーんっ! よく寝たー。
今日は朝からレベリングに行く。昨日の夕食で父上と母上に頼んで午前の座学は無しにしてもらった。
2週間ぶりに目覚めたってことで3人だけの食事。しかも俺の好物ばかりだった。あらかじめドリアードのサラダを食べてたお陰で全部美味しく食べることができた。
ちなみに俺が眠り続けた原因を作ったドリアードは母上にこっぴどく怒られたらしい。
「アルフ……っみゃむにゅ」
勇者はまだ隣で寝ている。ドリアードの蔦に絡まれて寝苦しそうなのに幸せそうな顔してるな。
「お早うアルフ。勇者の奴、アルフが寝たのを確認したら速攻くっつこうとしてたぞ」
まったく油断も隙もないな。ドリアードに見張り頼んどいてよかった。
「ありがとうドリアード。今日の夜も見張り頼むな」
「あぁ、わかった。それにしても早起きだな」
「うん、今日のレベリングに早く行きたくてさ。後で皆に発表することあるからドリアードも楽しみにしててよ」
「何だ発表て? 女じゃなくて勇者と結婚でもするのか? ジルがぶちギレるぞ」
ドリアードがいつものニヤニヤ顔で言ってくる。
「冗談でも止めてよ。もっといいことだよ」
「……そうか、じゃあ楽しみしとくよ」
さて、準備するか。
治癒ポーションとか治癒ポーションとか治癒ポーションとか……いや、怪我したら困るからさ。
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俺は今、巨大な樹の前で勇者を待っている。
その樹には人が2人並んで入れるような大きな穴がぽっかりと空いていて、勇者が中を調べに行っている。
「レベリングするならダンジョンがいいな」
と出発前に勇者が言っていたけど、無視して近くの大森林に来た。
俺は1度だけダンジョンに入ったことがあるけど、あんな怖い所はもう入りたくない。なのに産まれたてのダンジョンらしきものを発見してしまう悲劇。
「ソウタ様遅いわね。私も行ってみようかしら」
勇者と出かけた事を聞き付け、馬車に乗って追いかけてきたジル姉様が呟いている。
「ジル姉様はここにいて下さい。私1人では魔物に遭遇したらすぐにやられてしまいます」
「大丈夫よ。アーシャもクライスもいるじゃない」
確かにアーシャとジル姉様付きの執事のクライスがいるけど、2人とも戦闘向きじゃないじゃないか。
「やっぱり私も行ってくるわ。クライスとアーシャはアルフをお願いね」
「「畏まりました」」
畏まらないでよー。
「ジ、ジル姉様!! 行かない……で……」
颯爽と穴に飛び込んだ姉様に俺の言葉は最後まで届かなかった。
うぅぅ怖いよ。
「アルフレッド様、ご心配なさらないで下さい。私もクライスも2人であればBランクの魔物なら問題なく倒せますので」
え!?
「そうだ。俺達王族付執事やメイドは万が一に備えて戦闘訓練も受けてるんだ。アルフはじっとしていればいい」
「ちょっとクライス!! アルフレッド様に何て口の聞き方を!! 申し訳ありませんアルフレッド様」
「ふんっ」
戦闘訓練て初耳なんだけど。
「いや、それは別にいいよ。それより戦闘訓練って……アーシャ戦えるの?」
「はい。王族付きのメイドになるためには上級魔法と体術の修得が必須ですので。私も何度かアルフレッド様に近付く不届き者を排除しておりますよ」
「そ、そうなのか……」
全然知らなかった。
アーシャはどこからどう見ても争い事とは無縁の華奢なメイドなのになぁ。それに上級魔法が使えるならメイドじゃなくても引く手数多だろうな。
俺のメイドでいてくれて良かった。
「アーシャとクライスは何の上級魔法が使えるの?」
アーシャはたぶん水魔法だと思う。いつも喉が乾いたら綺麗な水を出してもらってるし。飲める水を出せるって凄いことなんだぞ。
「私は上級魔法なら風魔法が、あとは水魔法と土魔法が少々使えます」
「俺は風魔法と氷魔法が得意だ。火魔法も少し使える」
アーシャがクライスの足を蹴ってるけど、クライスはシレっとしてる。にしてもアーシャは風魔法使いだったのか。10年も一緒にいても分からないもんだな。
「ピピピッ!!」
「ピキィィィ!!」
2人と話していると横からハミングバードとビッグキャタピラーが現れた。
「アルフレッド様は後ろへ!」
アーシャが俺の前に飛び出し、クライスがアイスニードルを唱えた。
細く鋭い氷が2匹の魔物に突き刺さる。
「ピィィィ!!」
「ピギィィィ!!」
一瞬で地面に縫い付けられモゾモゾ動く2匹の魔物。
ビッグキャタピラーが糸を吐き出したけどクライスと問題なく避けるとビッグキャタピラーとハミングバードの口を氷で塞いでしまった。
「何で止めを刺さないの?」
不思議な事をしてるクライスに聞いてみた。
「何言ってるんだ。今日はアルフのレベリングだろ。止めはアルフが刺すんだよ」
あ、そうか。
「うん、わかった。ありがとうクライス。それとアーシャも」
「勿体無き御言葉。ではアルフレッド様、こちらを」
「一発で止めをさせよ。ビッグキャタピラーは気持ち悪いから嫌いなんだよ」
「うん」
俺はアーシャから木の槍を受けとると、ビッグキャタピラーから倒した。ハミングバードは見た目が可愛いからちょっと罪悪感がある。
クライスの御膳立てでサックリ魔物を倒せちゃったな。今のでレベル上がったかもしれない。勇者にこっそり鑑定してもらわなくちゃ。
それからしばらく何も起こらず、アーシャの持ってきてくれた魔物図鑑を読みながら勇者とジル姉様の帰りを待った。
「おーい、アルフ!」
おやつを食べていたら勇者が木の穴から声をかけてきた。
「やっぱり産まれたてのダンジョンだった。部屋も少ないし地下4階までしかない。たいした魔物もいないな。あと、ここはコアダンジョンっぽいからアルフも安心して入れるぞ」
いや、別に入りたいわけじゃないよ。
コアダンジョンだろうと、マスターダンジョンだろうと怖いことに変わりない。
「どうしてもここじゃなきゃ駄目なの?」
「そうだ! ジルもさっそく宝箱見つけたみたいだしな。もっと探さなきゃって張り切ってるぞ」
姉様……
「アーシャとクライスは入り口を見張っててくれ。アルフ、おやつは後にしろ。早くレベル上げたいだろ?」
「「畏まりました」」
クライスは少し不満げに、アーシャは無表情で返事をした。
「わかったよ。ソウタ兄ちゃん絶対俺から離れないでよ!」
「あぁ、だから早く来いって」
俺は食べかけのおやつをアーシャに預けて勇者と一緒にダンジョンに入った。
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「ところでソウタ兄ちゃんって何だ?」
「勇者様がアルフレッド様にそう呼ぶように言ったそうなのよ」
「チッ! ぽっと出のくせに兄貴気取りかよ」
「そうね、ぽっと出のくせに」
「お? お前もそう思うか。珍しく気が合うな」
「アルフレッド様に不必要にベタベタしちゃって。なんなのよ!」
「そうなのか? 許せねぇな。俺なんか15年かけて……」
2人は3人が帰ってくるまで勇者の悪口で大いに盛り上がった。
~入手情報~
【名前】クライス・ハウデル
【種族】人間
【職業】執事/魔法剣士
【年齢】21歳
【レベル】43
【体 力】1023
【攻撃力】1739
【防御力】1210
【素早さ】1002
【精神力】318
【魔 力】1957
【スキル】
剣術/斬撃数増加/消費魔力微減/執事力
【固有スキル】
魔法剣
【先天属性】氷
【適正魔法】氷魔法-上級/風魔法-中級/火魔法-下級
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【名前】アーシャ・ムンク
【種族】人間
【職業】メイド/魔法格闘家
【年齢】25歳
【レベル】51
【体 力】1923
【攻撃力】2012
【防御力】842
【素早さ】1799
【精神力】438
【魔 力】2084
【スキル】
格闘/鼓舞/連撃/攻撃力増加/消費魔力半減/メイド力
【固有スキル】
魔法拳
【先天属性】風
【適正魔法】風魔法-上級/水魔法-中級/土魔法-中級
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【名 称】魔物図鑑
【分 類】魔法図書
【希 少】☆
【価 格】クランバイア金貨96枚
【内 容】
魔物の詳細な情報が記載された図鑑。アルフの読んでいるものは魔法王国製であり、記載された魔物につて新しい発見があった場合、発行元がオリジナルの魔物図鑑に追加情報を書き込めばそれが反映される優れもの。図鑑に記載された危険度は冒険者ギルドランクと一致している。進化率は進化のしやすさを表し、進化先を上位種と定義している。同じく、変異率は変異のしやすさを表し、偶発の先天属性や適正魔法が発現した個体を変異種としている。魔物は全身に素材価値があるものも、他の魔物素材の方が優れていたり量の問題などで、現地で解体し一部を持ち帰ることがほとんどである。
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【種族名】ハミングバード
【形 状】小鳥型
【食 用】可
【危険度】E
【進化率】☆
【変異率】☆
【魔力結晶体】ほとんどの個体に発生しない
【棲息地情報】森林
【先天属性】必発:風/偶発:水・火・影
【適正魔法】必発:風/偶発:水・火・影
【魔物図鑑抜粋】
歌うような鳴き声で獲物の意識をぼんやりさせて肉を啄む。偶発属性やその適正魔法をもつ個体は変異率が大幅に上昇するため危険である。
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【種族名】ビッグキャタピラー
【形 状】幼虫型
【食 用】可
【危険度】F
【進化率】☆☆☆
【変異率】☆
【魔力結晶体】進化する個体のみ発生する
【棲息地情報】森林または草原
【先天属性】必発:植物・土/偶発:風・水・火
【適正魔法】必発:植物 /偶発:土・風・水・火
【魔物図鑑抜粋】
1メートル程の大きさで、粘着質な糸を吐き出す肉食の魔物。個体によってはまったく異なる姿に進化する魔物である。
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【名 称】アイスニードル
【分 類】初級氷魔法
【効 果】☆
【詠 唱】リネリア型基礎言語/乱文可
【現 象】
細く鋭い氷柱で敵を攻撃する。