105話 ピンボールウィザード
後書き修正。
やるからには絶対成功させたい。
ピンボールウィザードはある程度の空間があれば、そこを自分に有利なフィールドにしてしまう。さっきの突起物なんかがそうだ。ただし、攻撃手段はほぼ魔法のみ。離れていればミステリーエッグを発動中の俺なら危険は少ないと思われる。ただ……
『あまり知られてないけど、ピンボールウィザードの近距離攻撃って魂を直接破壊するのよね』
俺の頭に乗ったままピンボールウィザードがいる場所へ案内してくれているロポリスがポツリと言う。
それだ。俺も城で魔物の生態を勉強したときに心底怖いと思った攻撃。触れられただけでその部分の魂が壊れるそれは、俺が憧れるイステ義母上の固有スキルによく似ている。
魂が壊れると肉体も損傷するし、魂が元に戻るまで肉体は決して治癒しない。魂を元に戻す方法は時間をかけた休養か、極級の聖光魔法くらいしかない。つまり大概の場合、死んでしまう。
ロポリスがいるから大丈夫だと思うんだけど……罰って言ってたし手助けは期待できないんだよなあ。
「どうして俺なんかの為にピンボールウィザードを?」
俺をおぶったルトルが息も切らさず聞いてくる。俺の体力が少ないと聞いたルトルは背負って移動すると聞かなかった。
片腕なのに抜群の安定感だ。ありがたいけど、ロポリスの案内を俺がルトルに伝える面倒臭ささもある。
「まあ、乗り掛かった船っていうかさ……元に戻す方法があるんだしそれなら最後まできちんとした方がいいだろ?」
当たり前だけどルトルにロポリスのことは言ってない。
「ありがとうございます」
その言葉は本当に感謝しているといった感じがありありと伝わってくる。でも頭に変な人形をくっ付けて気色の悪い……もとい個性的なハンマーを持った俺はどう見えるんだろう。きっと感謝はしてるけど、だいぶ変人とか思われてそうだな。
『あ、次はあの階段を左よ』
俺はなんでかルトルに嫌われたくはないなと思いながら、ロポリスの指示を耳元に囁いた。
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『あその丸い部屋にいるわよ。じゃ、私は寝るから。終わったら起こして』
ロポリスの案内で着いたのは7つの階段が繋がっている半球の部屋だった。
ピンボールウィザードとは俺1人で戦う。
戦闘中、ルトルにはグルフナを持って部屋の外で待機してもらう予定だ。グルフナの光があれば魔物もあまり近寄って来ない。ただ、光っていられるのは5分が限界。戦闘が終わる度に俺の卵を食べていたのは、消費した魔力を回復する目的もあったらしい。
何個か卵をグルフナの近くに残しておこうかとも考えたけど、速攻で倒さないとマズイ気がして卵は全部攻撃に使うことにした。
最悪、魔物を食べることもできなくはないらしいが、それも結局危険なのでピンボールウィザードは5分以内に倒さなくてはいけないと決めた。
ちなみにこれは移動中ロポリスにグルフナを鑑定してもらい考えた作戦だ。めちゃくちゃ怖いけど、きっと大丈夫。遠距離から卵でボッコボコにすれば俺でも倒せる。
「それじゃあ、合図したらそれを部屋に投げ入れて。その後は少し離れてグルフナと待機で」
不安そうなルトルに笑いかけ安心させる。どんな状況でも笑顔を作れるのは王族のお得意なんだ。自分の不安も一緒に飲み込んでピンボールウィザードがいる部屋の入り口に近付いた。
中を覗くと無数の突起物と浮遊物、それに食事中のピンボールウィザードが見える。
大きな肉塊に齧りついていて隙だらけだ。齧られる度にビクビク動くそれはおそらく冒険者だったんだろう。周りに装備品が散らばっている。ルトルの腕が無事ならいいんだけど……
「さっきと同じで先手必勝。でも逃げられないように、先ずスーサイドガーゴイルのドロップ品を投げ入れる」
俺は自然と作戦を呟いていた。
スーサイドガーゴイルのドロップは転移封じの石。魔力を流さなければ効果を発揮しないそれは俺には使えない。だからルトルに投げ入れてもらい、あとは部屋の外からピンボールウィザードにひたすら卵をぶつける。
タイミングが命。少しでもずれたら向こうも攻撃体制に入るだろう。そして魔法が効かないと分かると近距離攻撃で魂破壊に切り替えるはずだ。
深呼吸を数回。ルトルに合図を出す。
転移封じ石が部屋に投げ込まれた瞬間、俺は全ての卵をピンボールウィザード目掛け最大速度でぶつけにかかった。
「はぁ!?」
絶対に仕留めたと思ったのに卵はピンボールウィザードをすり抜けてしまった。ほぼ同時に肉塊とピンボールウィザードの周りが四角形に切り取られ反転する。
「くそっ、何らかの魔法で回避されたのか」
「ゲヒッゲヒッ」
グルフナに負けるとも劣らぬ汚い声を発したピンボールウィザードが炎の魔法をいくつも発動する。ここにいてはルトルを巻き込んでしまう。
俺は咄嗟に部屋の中に駆け込んだ。しかし燃え盛るは炎は直接俺には放たれず、突起物や浮遊物に向かっていく。
炎が突起物にぶつかるとより大きな炎になり、浮遊物にぶつかると分裂して別の突起物や穴、回転する三角形の何かに向かっていく。
俺も卵を操作してピンボールウィザードを攻撃する。しかし、尽く躱されてしまう。もっと練習しておけばよかった。
フラテムが素早く動くものに当てるのは難しいから、毎日課題をこなせって言っていたのに最近はサボっていた。そのツケが回ってきてしまった。でもなんでこんな時に!
数回突起物に当たった炎は青く変色し、ついに俺めがけて襲いかかってきた。卵を戻しカムフラージュしつつミステリーエッグで炎を卵に変える。
その間にもピンボールウィザードは別の魔法をバンバン放っている。
なんとかこの状態のうちにカタをつけたい。でも……
「どうして当たらないんだよ!」
ピンボールウィザードの魔法をいくつも卵にして、武器は増えてるはずなのに。
戦いになってから何分経った?
ルトルが気になって一瞬だけ外に目を向ける。その一瞬を狙っていたかのように、ピンボールウィザードが近距離攻撃を仕掛けてきた。
「うわっ!」
少し触られてしまった場所はほんの小さな痛みが走っただけで、あとは血が出ている感触しかしない。でも、そこに手をやると2センチくらい抉れていた。
掠っただけかと思ったのに……クソッ!
「ゲッゲゲッ」
嗤ってやがる。
たぶんピンボールウィザードは気付いたんだ。魔法は効かないけど、魂破壊は抜群に効いてると。
思った通り、そこからは魔法を目眩ましに近距離攻撃ばかり仕掛けてきた。俺も卵で応戦するけど、たまに掠るくらいでほとんどダメージを与えられていない。
一方、俺は色んな所を触られて満身創痍だ。
「コルキスに使うなって言われてるけど、hブーストで――」
――あ、前から飛んでくる氷塊にピンボールウィザードが写っているのに気がついた。
俺の直ぐ後ろで頭に触ろうとしている。不思議だ。景色がゆっくり動いていく。氷塊が卵になり始めると同時に避けようとするも、ピンボールウィザードの手が髪の毛に触れているのが分かる。
終わった……やっぱり俺にはAランクの魔物なんて無理な話だったんだ。一瞬でも勝てるだなんて考えたのは思い上がりだった。そんな後悔と共に父上や母上やジル姉様、コルキスの顔が浮かんでくる。
ごめん、コルキスの言う通りだった。コルキスがいれば全然ちがっただろうな。
本当、俺ってクソ弱いな。なんかもうスッと魂が抜けていくような安らかな気持ちに……
「ギエェギャーー!!」
「うぉっ何だ!?」
諦めて目を閉じた瞬間、ピンボールウィザードが苦しそうに叫び始めた。
急いで距離をとって振り返る。
目に飛び込んできたのはピンボールウィザードの内側から草花みたいなものが大量に出てきている光景だった。
もがくピンボールウィザードの全身にその草花が広がっていきあっという間に包んだかと思うと、それは身体にめり込み、ボトボトとピンボールウィザードを切り刻む。そして細切れになった肉片と生い茂る草花の奥に見えたのは無地の卵。
草花は役目を終えたといわんばかりに萎んでいき、無地の卵に張り付いてあのダマスク柄になった。それからピキピキと音を立てて卵が割れ、中からは暗緑色のローブが出てきた。
「何だこれ……」
俺は突然の出来事に呆然と立ち尽くしていた。
「アルフ様、大丈夫ですか?」
どれくらいボーッとしていただろう。気が付くとグルフナを持ったルトルが側に来ていた。
「あ、ああ。たぶん倒せた」
ピンボールウィザードを倒した実感があまり無い。でも、突起物などはすべて消え去っている。
そうだ。終わったらロポリスを起こさなきゃ。
「起きてくれロポリス。たぶん終わった」
頭の上で小さないびきをかいているロポリスを揺さぶる。
『ふあ~あ、終わったのね。それで腕はどこ?』
気持ち良さそうな声でロポリスが聞いてくる。これは寝ていなかったな。寝起きのロポリスは絶対に気だるい声を出す。
「ギュウー」
腕はいつの間にかグルフナが回収してくれていた。
「ありがとうグルフナ」
『んー、思った以上に喰われてるし汚いわね。これなら腕を生やした方が楽そうね』
ん? 今のは幻聴か何かか? 腕を生やすだって?
『それにアルフもボロボロね』
疑問をよそにロポリスはゆっくり浮かび上がると、ルトルの傷跡に近付く。
「え、あの……アルフ様、こ人形は一体?」
混乱気味のルトルに頷いてそのままでいるよう伝える。
ロポリスがそっと傷跡を触る。そして何を思ったのか、自分が入っている人形の腕を引き千切った。
うえっ、人形から血が滴ってる。
「何これ!?」
『黙ってて』
ロポリスは面倒臭さそうに言い、千切った人形の腕を突然ルトルの傷跡に捩じ込み始めた。
「うああああ!」
ルトルは痛みで叫び声をあげ、暴れようとしたがグルフナの触手に押さえ込まれている。途中で叫び声をあげなくなったルトルは唇を噛み必死に痛みを堪えている。
『これで良し、と。じゃあアルフはミステリーエッグを解除して。今から魔法を使うから』
確かにミステリーエッグを発動してるから魔法を使うには解除しなきゃだけど、ピンボールウィザードを倒したんだぞ。もうちょっと労ってくれてもいいと思う。
『ブツブツ言ってないで早く解除しなさいよ』
「分かったって」
ミステリーエッグを解除したのを確認したロポリスは、小さく揺れて魔法を発動した。ルトルの傷跡と人形の腕が付いていた場所に赤い魔法円が現れる。見たことない魔法円にちょっと興奮する。
魔法円は動きながら解れて白くなり……ああ、魔法円の文字が手の形になってるのか。お、俺の頭上にも綺麗な白い魔法円が現れた。綺麗だ。でも全然解読できない。
『フルゴルリッテラ=レナトゥス』
最後にロポリスが魔法名らしき言葉を発した。
すると、いつもロポリスの周りにある小龍の腕輪が3つに別れ、文字でできたルトルと人形の指先から身体の境目まで移動していく。俺の所にきた腕輪は大きくなって、俺を輪中に入れる。
腕輪は一瞬だけ身体に触れると離れ元の1つに戻った。
「凄いな」
腕輪が通った後のルトルの腕は綺麗な肉体になっていた。勿論、俺の怪我も治癒している。何故か人形の腕もルトルと同じような腕になっているのは気になるけど。
「ギギィ!」
グルフナも興奮しているみたいだ。
『成功っと。余裕ね』
と、なんてこと無さげに言うけど俺の魔力が相当な量減ってるから、今のはかなり凄い魔法だったに違いない。言いたいこと聞きたいことも山のようにあるが、ちょっと見直したぞロポリス。
「ありがとう。疑ってた訳じゃないんだけど、ロポリスって本当に凄いな」
『前に言ったでしょ。私はやればすごーく出来る子なのよ、すごーくね』
得意気に1回転するロポリスがちょっと可愛い。箒の刺さった人形に入っているけども。
ルトルは信じられないものを見たという顔で、何度も再生した腕を動かしたり触ったりしている。
「で、ロポリス。今の魔法円なんだけ――」
『それよりピンボールウィザード倒した方法がなんなのか知りたいでしょ? あれがアルフの新しい固有スキル。托卵よ』
ロポリスは俺の言葉を遮ってまた頭に乗っかると、托卵がどういう固有スキルなのかを語りだした。
~入手情報~
【名称】托卵
【発現】アルフレッド・ジール・クランバイア
【属性】無し
【分類】供物型/固有スキル
【希少】☆☆☆☆☆☆☆
【ロポリスのしっかり解説】
ミステリーエッグで作り出した卵を任意の対象に埋め込むことができるわ。すると対象は強化されちゃうんだけど、対象の魔力が卵を作るのに要した魔力の1/3以下になった瞬間、卵の柄を象徴した効果で対象を死に至らしめた後、自然と孵化するの。卵から出てくるものは対象に関連付けられた何かになるわ。この固有スキルを解除する為にはアルフ自身が対象に口付けをして卵を破壊しなくてはならないけれど放置もおすすめよ。時間が経って卵が対象の魔力に馴染めばその対象の魂を贄にして新たな魔物の卵になるんだから。使い道たくさんよ。
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【名前】イステ・ト・クランバイア
【種族】グリモアニア
【職業】王妃/魔法等管理人/
【年齢】不明
【レベル】不明
【体 力】不明
【攻撃力】不明
【防御力】不明
【素早さ】不明
【精神力】不明
【魔 力】不明
【通常スキル】
不確かな愛/魔法等管理/権謀術数/戦術/戦略
【固有スキル】
タ=ウ/ウ=ユジ/イ=クア/トビ=シガサ/コソノン=ゲジ
【詳細不明】
不明
【先天属性】
無し
【適正魔法】
無し