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101話 受注と改名と喧嘩

後書き修正

 エティアは満面の笑みを浮かべ、手続きをすると言いって姿を消した。ギルドマスターも、とても嬉しそうにしている。さっきの鋭い目つきとは大違いだ。


 それに新種の魔物の正体を突き止めるか、有力な情報を持って帰ったら、ギルマス権限でCランクまでランクアップさせてやると言うから驚いた。ロポリスが自分とラズマの事だって笑ってるから、依頼は何とでもできそうだけど……。


「いきなりCランクってどうなのかな?」


 ギルドマスターの部屋を出て廊下を歩きながらロポリスに相談してみる。


『さあ? 好きにしたらいいじゃない』


 そっけない返事だな。もうちょっと、相手してくれてもいいじゃないか。


「でも、どうして新種の魔物の調査だけでランクアップさせてくれるんだろう」


『そんなのミツギカラスと仲が良い冒険者に恩を売っておく為でしょ。きっとこれから宝石グミを納品しろって催促が凄いわよ。あんな事、言わなきゃ良かったのに』


 ロポリスが鞄のから浮かび出て、空中に光で文字を書き始める。


 えっと、脳……足りん? 


 コ、コイツ――俺はロポリスが入っている人形を力一杯掴んでやった。


『あら? あらあらあら? この私にこのような悪戯(おいた)をして良いのかしら?』


 お、これはもしかして相手してくれてもってのを感じ取ってくれたのか? じゃあここからは全部、わざとらしく大袈裟な仕草で言い返さなきゃな。


「俺の機転でマクルリアの冒険者ギルドに連絡するように仕向けたんだぜ? それを脳足りんと言われちゃあかなわねぇな」


『フッ……では、問うわ。何故、都合よくロンが冒険者ギルドにいたと?』


「そんなの偶々(たまたま)だろ? そういう偶然も含めて俺が素晴らしかったって事だ」


『楽観的で羨ましいわね。貴方が、おつむぺったんな事を言い始めたから、私がドゥーマトラに連絡したのよ。直ぐにロンをマクルリアの冒険者ギルドに行かせるようにってね。彼がいなければ余計話が拗れてましてよ?』


 更に、現状アルコルの塔から脱出できた冒険者はCランクの1パーティーを除いて、あとは全部Bランク以上。しかもBランク冒険者でさえ結構な死者が出ている。そんななのにFランクの俺が107階の黄色い宝箱で転移してきたなんて誰も信じてくれない、とロポリスは続けた。


『どんな現実離れした話でも、それに合わせるようロンに指示をしたのも私。お分かりかしら?』


 ロポリスが優雅な仕草で人形にぶっ刺した箒を動かす。穂先を靡かせてるのは髪の毛のつもりか?


 俺の魔力が減ったから、あれは魔法……無駄使いだなー。


『あ、ごめんあそばせ。もしかして最近の子は、こういう行為でお礼あそばすのかしら?』


「すみませんっした! お陰で助かりました!」


 ロポリスを離し1歩下がる。腰の角度は90度、曲げる速度は全力で謝罪。


 ああ、この感じ懐かしい。


 突然ロポリスが妙な敬語を使う高飛車な姫口調になると、俺は教育のなってない新米従者を演じて遊ぶ。本当はこれにドリアードが加わって真に姫プごっこが完成する。たまに他の精霊も加わる事がある。


 よくこうやって遊んでたな。元々は王族として偉そうにしすぎないために考案された俺専用の教育方法だったらしいけど、いつの間にかただのごっこ遊びになっていた。


『よくってよ。心が広い、それが姫ですもの。さ、エスコートなさい』


「はい、姫!」


「え、姫? あの、謝罪の声が聞こえて……何かありましたか?」


 勢いよく顔を上げた先には、困惑顔のギルド職員が。


 おぅ……見られた。


『どうしたの? 早くエスコートなさい』


 無慈悲か!!


 ロポリスは続行する気満々だ。


 しかし、これはそういう遊び。全ての決定権は姫にある。そして勝手に演技を止めると、そいつに酷い罰が下される。


 城でも執事やメイドに見られようが、笑われようがやり続けていた……ただ、赤の他人に見られる羞恥は比べ物にならない。


「失礼、姫が通る……ります、道を――」


「姫、とは何でしょう?」


 食い気味に質問止めて! 恥ずかし過ぎるから!


「姫は姫です。さあ姫、お手を、フッ……」


 ロポリスめ、目を離した一瞬で人形をドレスアップさせやがった。箒にもやたら勇ましい顔の姫を……危うく笑いそうになったじゃないか。ちなみに姫プ中はその雰囲気にそぐわない感情を露にしても罰が与えられる。


「では参りましょう、姫」


『ええ。では、ごきげんよう』


 念話で言っても聞こえないのに、ロポリスはノリノリだ

なとにかく、深く聞かれる前に立ち去ろう。


 俺は羞恥を隠しながらヤバイやつを見たという顔をする職員の横を通り過ぎ、コルキスの元へ向かった。



#########



「何だとこのクソガキ!」


「舐めてんのか!!」


「オットー! 手加減してやれよ!」


「ルデロもほどほどにしなさいよ」


 ロポリスをエスコートして歩いていたら、怒声が響いてきた。冒険者同士仲良くすればいいのに。


「騒がしいですね、姫」


『貴方の弟のせいじゃないかしら?』


 コルキスが? 


 そんなはずないだろ。コルキスは最近優しくなったんだぞ。冒険者と喧嘩なんかしないって。


「聞こえなかった? クソ雑魚のお前らじゃ失敗するから、その依頼はぼくがするって言ったんだよ」


『そーだそーだ、クソ雑魚ー!』


 ロポリスに言い返そうとしたとき、苛ついたコルキスの声と、楽しそうなラズマの声が聞こえた。


「……そうみたいですね」


 何やってるんだよコルキス。


 とりあえず現場に急ぐ。そこではコルキスが若い冒険者と睨み合っていた。


 ディオスは天井に張り付いている。誰も気付いてないようだから隠形でも使ってるんだろう。あれはいつでも攻撃してやるって考えてるな。俺には分かる。


『貴方が収めなさい。見ていてあげるわ』


 はっ!?


 冗談だろ? 姫プ状態のままであれをどうにかできる訳がない。そうじゃなくても危ういのに。


 あーでもやらなきゃ罰が……酷い罰が……や、やるしかない!


「ゴ、ゴホン! 姫の御前だ、喧嘩は止めろ!」


「ああ!?」


「何だデメェ!」


「あ、すみません。何でもないです……」


 怖っ! 何でこんな怖い顔ができるんだよ。姫プなんて無理無理。ロポリスに中止のサインを出す。


『えー、もう終わり? つまんないわね。ま、いいわ。罰は考えとくから』


 くぅ、罰……何されるんだろ。ヴァロミシアに比べればましだけど、ロポリスもなかなかに強烈な罰を考えつくんだよなぁ。


「あ、兄様! もう遅いよ! ほら、これが兄様の依頼ね!」


 コルキスがくしゃくしゃに丸めた依頼書を投げて寄越す。いくら近付きたくないからって、こんな渡し方しなくてもいいと思うんだ兄様は。


「おい、まだ話は終わってねぇだろ!」


 オットーがコルキスに掴みかかろうと近寄る。が、それは叶わなかった。


 予想通り、天井のディオスがあっという間に絡め取ったからだ。あまりに速かったから、オットーが消えたと思った人もいるんじゃないかな。ちなみにルデロも一緒に絡め取られていた。2人とも白目剥いてるけど、ディオスのやつ何したんだ。


「なんだもう終わりか」


「なんなのあれ? 気持ち悪い」


 この声はさっき2人を煽っていた声だ。受付嬢だったのかよ。ラミア族と蝶人パピヨン……綺麗だな。あ、違う違う。受付嬢なら喧嘩は止めてくれよ、職務怠慢だぞ。


「もういいよディオス、ありがとう。ほら行くよ兄様」


 コルキスは受付嬢に向かって歩き出す。俺を大きく避けるようにして。ディオスも絡め取った2人を乱暴に吐き出しそれに着いて行く。コルキスにばれないよう威嚇をしてくるあたり、あいつは相当に性格が悪いとみた。


『ねぇねぇアルフ、さっきのって姫プだよね。ボクも混ぜて』


「もう終わったよ」


『えー!? ロポリスとだけ遊ぶなんてズルい!』


 煩いラズマは放っておこう。俺もコルキスを追いかける。


「おいコルキス。ちょっと話があるから待ってくれ」


 振り返ったコルキスはぶすっとした顔だ。


「それ以上近付かないで。話って何?」


 くぅ……なかなかに傷付く台詞だな。コルキスの背後で嬉しそうにぐねぐねするディオスにちょっと苛つく。いやいや、生まれて間もない使い魔に腹を立てるなんて大人げないぞ俺。深呼吸、深呼吸だ……。


「あのな――」


 煽ってくるディオスをできるだけ視界に入れないようギルドマスターとのやり取りを話す。


「そうなんだ。じゃあその依頼書はあそこで寝てる2人にあげなよ。それEランクでも受注できる依頼だから」


 淡々と返事をしたコルキスは、また俺から離れるように進み始めた。


 オットーとルデロはEランクなのか。コルキスと同じなのにどうしてあんな喧嘩をしたんだろう。


 ま、いいか。それより一応コルキスが選んでくれた依頼書を確認しようかな。もしかすると俺好みの依頼かもしれないし……なになに、故障したゴーレムトロッコの運搬?


 あんな重そうなの運ぶなんて、俺には文字通り荷が重い。というかなぜこれを選んだんだよコルキス。言われた通り床に転がされたオットーとルデロにあげよう。


 依頼書をそっと置いた時、エティアが受付からアルフと声をかけてきた。実はさっき受注のついでに、登録名の変更もお願いしていたんだ。


「受注と改名の手続き完了しましたよ。準備金と登録証をお渡しするのでこちらへどうぞ」


 冒険者登録をして半年以内であれば、1回だけ登録名を変更出来るという規約がある。本来はイキったルーキーが、痛い名前で登録した場合の救済措置なんだけど、俺はボロが出る前にと変更を申し出た。


 だって適当に考えたアルファドという偽名、呼ばれても上手く反応できない事が多かったんだよ。


 あ、喧嘩の原因は知らないけど、弟が申し訳なかったと伝えとこう。


「気にしないで下さい。うちは冒険者が喧嘩しても放置なんですよ。問答無用で罰金ですから。さすがに、破壊行為に及びそうな時は止めますけどね」


 とてもイイ笑顔でエティアが言う。ちょっと怖い。


 罰金は居合わせた受付職員の臨時収入。喧嘩した全員が受付職員1人につき共通銀貨10枚支払うらしい。喧嘩の人数が多いほど受付職員の懐が暖まる。


 どういう経緯でこんな決まりになったのかは、聞かないでおこう。きっと紆余曲折あったんだろう。


 コルキスの方を見ると、しっかり共通銀貨20枚を支払わされていた。





 ##########



「兄様は、ぼくの大切さを痛感すればいいんだよ」


 相変わらず不機嫌声だな。


 俺の乗るゴーレムトロッコの前を走る、もう1つのゴーレムトロッコでコルキスが呟く。ガタゴト鳴っているトロッコの音に掻き消されず、妙にはっきり聞こえてきた。


 コルキスは谷底に生息する魔物の討伐依頼を選んでいた。チガテーニペッキィというキノコの魔物で、Eランクだ。確か幼体は魔法薬の原料になるんだっけ。


『ボクの大切さもね! ふん!』


 ラズマも不機嫌だ。こっちはさっきの放置が原因か。


「私に迷惑をかけている事も痛感してもらいたいものだな」


 これはコルキスを膝に乗せたロンの文句。何故かトロッコ乗り場で俺達を待ってたんだよ。


 はあああ。前のトロッコから漂う3人の不機嫌ムードせいで、心地よい風や雄大な景色がちっとも楽しめない。


「ロン、さっきはありがとう。感謝してるよ。ところで、何で居るの?」


 雰囲気を変える為にもロンに話しかけてみる。


「コルキス様に呼ばれたんだ。小腹が空いたんだと」


 そう言ってコルキスに噛まれた腕を見せてくる。


 なんだ? 胸がざわざわしてくる。


「今の兄様なんか吸血してあげないもん」


『ボクもアルフなんか触ってあげないもん!』


 またもやコルキスが呟き、ラズマが叫ぶ。2人の中で、俺がそれらをして欲しいと思っている前提なのが理解できない。


「兄弟喧嘩か? そういうのは私を巻き込まずにやってくれ。ダンジョンと村の事で手一杯だというのに、まったく」


 とか言いつつ、ロンはコルキスの頭を撫でている。昨日アルコルの塔ではコルキスを毛嫌いしていたのに、1日で何があったんだよ。


『コルキスは眷属にツーンデーレよね。ロンもそうだけど』


「ツーンデーレ? 何それ魔法?」


『勇者が言ってたのよ。勇者の居た世界では2人みたいなのをそう呼ぶんですって』


「ん? それ答えになってなくないか? ツーンデーレの説明をしてくれよ」


 異世界語の意味は、事細かに説明してくれないと分からない。


「お前の兄は精神汚染の呪いでもかけられたのか? 貴重なレアドロップ品である感じの悪い人形を千切り、態々(わざわざ)小さな箒を刺して話しかけるとは」


 ロポリスと話していたら、ロンが哀れんだ目向けてきた。ちゃんと念話で返事をしてくれてるんだけどなあ。


 前にシルフィが似たような事を言っていたけど、やっぱり人形に話しかけると、そんな風に見えるんだな。


「すまん、聞こえていたか。時間ができれば相談にのってやる。だからそんな顔をするな」


 そんな顔? よく分からないけど自己完結してくれたならいいや。言い訳を考えなくていいし。


『フッ……』


 ロポリスが笑いを堪えている。精神汚染とか言われたのはロポリスも原因の1つなのに、楽しそうでなによりだよ。


「そろそろ路線が別れる」


 アグアテスのあるテーブルマウンテンに近付き、ゴーレムトロッコは大きくカーブしていく。ロンが言った通り分岐点が見えた。


「それじゃあまた後で! 気を付けるんだぞコルキス!」


「気を付けるのは兄様の方だよ。クソ弱いんだから」


 コルキス達のゴーレムトロッコが離れて小さくなっていく。それでも、コルキスの呟きはよく聞こえてきた。

~入手情報~


【姫プごっこ】

ロポリス、ドリアード、アルフのごっこ遊び。

ロポリスは姫、アルフは教育のなってない新米従者、ドリアードは姫以外という配役で、姫が止めと言うまで続けなくてはいけない。勝手に止める、状況にそぐわない感情を露にする等のルール違反を犯すと、それはもう酷い罰を与えられる。元々は情操教育の一環としてジールとロポリス考案したのだが、いつしか「いかに自然と他者を陥れるか」といった遊び変化していった。ある意味で王族に必要な技術を磨く訓練ともいえる。意外にもアルフの勝率は高い。なお姫プのプとは、幼いアルフがロポリスの役のモデルとなった他国の姫をプと呼んでいた事に由来する。


~~~~~~~~~


【ラミア族】

女性しか産まれない蛇獣人。

下半身が大蛇のようになっている美女しかいない種族であり、他種族の美男子を一族数人で共有し子を作る。また、目玉を取り出して遠くを見る事ができる。素早さと怪力が自慢で、魔法も並み以上の実力者が多い。睡眠をそこまで必要としない種族でもある。


~~~~~~~~~


蝶人パピヨン

大型のフェアリー。

人間とほぼ同じ見た目だが、美しい羽根と触角が生えている。卵から産まれ、幼虫、蛹、蝶人の幼児と姿を変え成長していく。幼虫と蛹の期間は合わせて1ヶ月程度。その期間、両親は決して側を離れず、交代で自らの魔力を食料として与え続ける。魔法と悪戯が得意な種族である。


~~~~~~~~~


【共通銀貨】

冒険者ギルドが価値を保証している仮想通貨。

正式名称はヒウロイト銀貨といい、冒険者登録証に記録される。ヒウロイト王国及び冒険者ギルドで買い物をする際にも使用できる。また、世界中の冒険者ギルドで、任意の国の通貨に両替できる。レートは日々変わるので損をしないように気を付けた方が良い。


~~~~~~~~~


【種族名】チガテーニペッキィ

【形 状】茸型

【危険度】E

【進化率】☆

【変異率】☆☆☆☆☆


【先天属性】

 必発:土/火

 偶発:水/風/雷/光

【適正魔法】

 必発:-

 偶発:土/火/水/風/雷/光


【魔力結晶体】

 幼体期にのみ発生

【棲息地情報】

 アギルゲット谷底森/エデスタッツ樹海/ラズマ茸海など

【魔物図鑑抜粋】

幼体の時期は動き回ることができずグロテスクな見た目をしており、キノコの傘には赤くとろりとした液体が滲み出ている。その液体を獲物に飛び散らせ攻撃する。飛び散った液体は人間の手の形となり獲物の肉体を千切り取っていく。成体になると体当りや胞子を使い獲物を苗床にしようとする。幼体は魔法薬の材料になる一方で、成体にはこれといった価値がない。なお無毒だが味はよくない。

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