100話 泥棒と疑われた
後書き修正
俺がブライトツリーで首の傷を癒している間に、午後からの予定を話し合って決めた。
先ず、フーラに会いに行く。
コルキスにかかっていた月魔法のリメリエラが、俺のミステリーエッグのせいで卵になってしまったからだ。もう1回かけてもらうんだとさ。
先天属性の相性は俺にはよく分からない。なんたって先天属性無しだからな、俺。属性による、「生理的に無理」とか「ちょっとしっくりこない」みたいな感覚は経験した事がない。
次は宝石グミを納品するついでに冒険者ギルドで安全かつ簡単な依頼を受ける。Fランクの俺は、最低でも2ヶ月以内に2件の依頼をこなさなければいけない。コルキスはEランクだから半年に2件。
俺の冒険者活動といえば、メネメス国でグレスと行ったアイスブックの採集だけ。そろそろ、冒険者らしい事がしたい。
コルキスには宝石グミを納品したら、それが2件目だと言われたけど、俺はこれぞ冒険者といった活動をしたいんだ。といっても、Fランクは町の雑用や薬草類の納品、弱い魔物の素材納品なんかがメインになる。Eランク以上になると魔物の討伐依頼や簡単な護衛依頼も増えてくるらしい。
ちなみにコルキスは俺と距離をとり、ずっと眉間に皺を寄せて睨んできている。ロポリスの力と俺が纏う太陽の気配とやらがそうさせるんだろう。最近は甘えてくるコルキスばかり見ていたからか少し寂しい。
で、夜は寝るまでの間にラズマとコルキス、それぞれと2人っきりで話しをする。ダンジョンで約束しちゃったからなあ……。
意外な事に、ロポリスが話が違うと文句を言ってきた。そういやダンジョンで観光や買い物がしたいと言っていたな。
俺もそれに同調したっけ……けど、人間は直ぐに心変わりする生き物なのだ、悪いなロポリス。さっきコルキスに抱き付いてミステリーエッグを発動した時に分かった事もあるし、試してみたいんだ。
なかなか納得しないロポリスに、手に入れた宝石グミの1/3をあげると言ったら2/3なら許すとごっそり持っていかれた。他にもセントのコレクションから、エルナナイフ、ホロメヴィ、クリマトゼラロッドを掻っ攫っていった。
的確に俺が欲しい物を持って行くあたり、ロポリスは結構怒っていたのかもしれない。
後でちゃんと謝っておこう。
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「依頼はコルキス達で良さそうなの選んどいてくれ。あ、俺のは安全で簡単なやつで頼むぞ」
あれから少しして、俺たちは岩窟の町に2つある冒険者ギルドのうちのチルヒウサ支部に来ていた。
さっきまでサウヒルチ側にいたのに、わざわざゴーレムトロッコに乗ってこちら側に来たのは、フーラたちの拠点の宿がこっち側だからだ。
ただ、宿を訪ねるとフーラたちは既にアグアテス探索に出かけた後だったんだ。だから仕方なく先に冒険者活動に取りかかることにした。
リメリエラの効果がないコルキスは、ロポリスが近くにいると聖光属性の力にあてられて辛いと言う。結果、コルキスは嫌がった――ラズマはもっと嫌がった――けど、フーラに会うまでは別行動となった。
ロポリスとグルフナは俺と、ラズマとディオスはコルキスと行動を共にする。
「分かってるよ。あと兄様、その太陽の気配は自然にしてたら夜になっても消えそうにないよ。そんな状態の兄様と2人っきりなんてぼく絶対嫌だからね。夜までになんとかしといてよね」
恐ろしく冷たい声で言われてしまった。まるで浮気を見抜かれた時のような……いや、浮気したこともそんな経験もないけどさ。なんとなくね。
『ボクは気にしないよー。アルフがどんなになってもアルフだもん。ぽっと出のチビ蝙蝠には理解できない崇高な考えだろうけど』
止めろラズマ。コルキスを挑発するのも、人形に入った状態で俺の頬っぺたにキスするのも。離れるとき、超絶嫌そうな顔をした人形が目に入って傷付くんだよ。
「ほ、ぼくだって兄様のこと……」
コルキスは口を尖らせゴニョゴニョ言いながら、ディオスを連れて依頼書が貼り出される掲示板へ向かった。
掲示板はコルキスの背丈より微妙に高い位置にある。掲示板の縁に手をかけて背伸びを……あ、諦めた。浮かんで依頼書を確認し始めたな。
ああ、なんて事だ。一連の行動がとても可愛いと感じてしまう。今すぐその背中を抱きしめたい。
『コルキスなんか見てないでボクを見て。あんなバレバレの可愛さアピールなんかに騙されちゃ駄目だよ』
ラズマ曰く、さっきのはコルキスの計算による可愛さアピールらしい。あと魅了をちょっと。
全然そんな風には見えなかったけどなぁ。
「はいはい、それよりラズマはコルキスと一緒にいるって決めただろ。早く行けよ」
『ぶー、アルフと一緒が良かったのに』
文句を垂れつつもラズマはコルキスの後ろに飛んで行った。しっかし、あれで人形の胴体だと良く言えたもんだな。
今のラズマは自分の周りを飛んでいる5つの鍵を使って感じの悪い人形の胴体を再現している。かなり雑だけど。
首だけ、胴体だけの人形は目立つから止めて欲しいと伝えたらこうなったんだ。
ロポリスは本来頭がある位置に自分の箒をブッ刺して穂の部分を顔だと言い張っている……もっとできるだろと思う。2人とも大精霊なんだからさ。
「はあ、じゃあ俺も納品しに行くか。ロポリス、フォローしてくれよ」
『気が向いたらね』
鞄の中のロポリスは怠そうに返事をした。
頼りないロポリスにため息1つプレゼントしてから、受付窓口にいたグリモアニアの男に声をかけた。
グリモアニアとは、簡単に言えば魔導書や魔法書といった、いわゆる魔書と呼ばれるものから体が出ている種族。なかなかに珍し種族で特定の魔法オタクであることが多い。このグリモアニアはエティアと名乗った。
「少々お待ち下さい」
高く買い取ってくれそうなサファイアグミとデュモルチェライトグミを査定用のトレーに出すと、ピクリを眉毛を動かして下がってしまった。
「ロポリス、何かマズかったかな」
『マズいもなにも……サファイアグミは希少で高価なのよ。普通Fランク冒険者が納品する品じゃないわ、ああなって当然ね』
は?
「じゃあ何でさっき話し合った時に止めなかったんだよ」
『てっきり、ガーネットグミみたいな比較的手に入りやすい、安価なのを納品すると思ったのよ。しかもデュモルチェライトグミまで出すなんて。面倒臭いから寝る』
え、ちょっと……ロポリス?
冗談だよな、ちゃんと助けてくれるよな?
『……』
ロポリスは何も言わなくなってしまった。
「ギルドマスターがお話したいと申しております。畏れ入りますが、こちらへお願い致します。こちらは私がお持ちしますね」
「え? は、はい……」
戸惑いを引きずりながら宝石グミを持ったエティアに連れられギルドマスターの部屋に来た。岩が剥き出しのかなり荒々しい部屋で、痛そうな岩石の椅子に厳ついおじさんが座っている。俺はその真正面に立たされた。
エティアが宝石グミをギルドマスターの机にトレーごと置くとおじさんが喋り始める。
「俺がギルドマスターのマークルだ。率直に聞く。盗んだのか?」
マークルが宝石グミを指差しながら聞いてくる。視線だけで人を殺せるんじゃないかってくらい鋭い。
これは変に誤魔化さず、堂々と受け答えした方が良いな。
「盗んでません。俺はミツギカラスと仲が良いんです」
『馬鹿』
何だよロポリス、だったら何か助言してくれれば良かったじゃないか。
「ミツギカラスと仲が良いだと?」
「はい」
ほんの少しだけマークルの表情が和らぐ。本当にほんの少しだけ。
「では、ミツギカラスがお前と一緒にいないのはなぜだ? ストーキングカラスとまで言われるあの魔物がなぜ?」
ストーキングカラス?
何それ。そんな異名があるのかよ……おい、聞いてないぞロポリス。
「まだ子供だからダンジョンから出ない方が良いらしくて」
確かセントとコルキスがそんな話をしていた。
「なるほど。そのダンジョンはアグアテスか?」
これは正直に答えていいもんなのかな。もし、アグアテスにミツギカラスがいると分かると、間違いなくセントに関する依頼が出される。冒険者に追い回されるセントを想像すると可哀想になってきた。
『アルコルの塔って事にしときなさい』
ロポリスが心底、面倒臭そうに助言してくれる。
アルコルの塔は俺達しか知らない名前だから、皆は何て呼んでたっけ?
えーと……
『はぁぁぁぁ。ヘパサ川の塔よ』
そう、それそれ。ありがとうロポリス。でももっと普通に言ってくれると嬉しい。
「ヘパサ川の塔です。マクルリアの町近くに新しく出現したダンジョンの」
「ああ……1週間くらい前に出現したっていうあれか。ふむ、矛盾しているな。メネメス国のマクルリアからこのアギルゲットまで来るのにそんな短期間では不可能だ」
再びキツイ表情で問い質してくる。この様子じゃ他ダンジョンへの転移トラップの事はまだ知られていないのか。
俺はセントとのやり取りをアルコルの塔であった事として話した。勿論、転移トラップに引っ掛かってアグアテスに飛ばされた事も。
なかなか信じてくれないから、他にもアルコルの塔の外観や内部、周辺の木で出来た村やスジャク族が取り仕切っている事も話した。
ついでにアグアテスの入出記録を確認してもらおう。脱出時の記録しか出てこないはずだ。
すると確認の為にマークルが矢文鳥籠を使い、マクルリアの冒険者ギルドに連絡をしたところ、たまたまそこに来ていたロンが上手いこと話を合わせてくれたらしい。
さらにアグアテス入出記録係にも確認し裏がとれた。お陰でどうにか信じてもらえた。
「悪かった。宝石グミなんてFランクが持ってくるような代物じゃないんでな」
「そうですね。そもそも滅多にない事ですが、他国の高難度ダンジョンの深部、それもミツギカラスの巣から取って来るのが普通です。あの魔物と仲良くと聞いた時は信じられませんでした。申し訳ありませんでした」
マークルとエティアが謝ってくれる。
ついでに、ミツギカラスの生息が確認されているダンジョンは2つしかないと教えてくれた。
アルコルの塔は3つ目となり、今後は探索をする冒険者が今以上に増えるだろうとの事だ。
探索か。うーん、攻略なんて絶対不可能だし、ミツギカラスもたぶんいない。本当にこれで良かったんだろうか……死者が増えるだけのような気がしてならない。
「では、内訳を説明する。サファイアグミが金貨185枚、デュモルチェライトグミが金貨150枚。合計金貨335枚だ。今回は謝罪の意味も含めて少し高めにさせてもらった。本当に悪かったな」
ギルドマスターのマークルが直々に宝石グミの買取金額を説明してくれる。金貨にも色々あるけどと思い聞いてみたら、冒険者ギルドで金貨と言えば共通金貨のことを指すらしいと教えてくれた。
というか、宝石グミってこんなもんなのか。高い、貴重、みんな欲しがるって聞かされてたからもっと高額かと思ってた。共通金貨335枚なら俺の――
『期待外れって思ってるようだけど、共通金貨335枚って平民なら家族で何年も遊んで暮らせる金額なのよ。まったく、ジールが甘やかしたせいね……』
そ、そうだったのか。お小遣い1ヶ月分より少ないから大したことないと思っちゃったよ。
「ところでだ、お前はあのスジャク族の長が認める冒険者らしいじゃないか。なあ、エティア」
「はい。ヘパサ川の塔を中層辺りまでなら苦もなく探索でき、頼りなると仰っていましたね」
ん? なんだ? 俺はロンと話した事はほとんどない。良い感じに話を合わせてくれたらしいけど、余計な事も言っていたくさいぞ。
「実は昨日アグアテスで新種の魔物が現れたらしいんだ。人形型の魔物って事は分かってるんだが、どうにも目撃情報に統一性がなくてな。調査依頼を出してるんだが、よければお前にも受けて欲しい」
え、それってロポリスとラズマの事なんじゃ……。
「本来はCランク以上でなければ受注できないのですが、ロン様があなたならアグアテスの中層は余裕、Bランクと同等の実力だと仰っていましたし。中層まででかまいませんので是非調査をお願いできないでしょうか? 報酬は弾みますよ」
ロンってえらい信用されてるんだな。でも、ダンジョンは今朝行っていたし、また行くのは嫌だなあ。
『受けたらいいじゃない。ミステリーエッグを試したいって言ってたわよね。それに気付いてないようだから言うけど、アルフの固有スキルに托卵ってのが発現してるのよ』
な、なんだって!? 新しい固有スキル!? それは是が非でも試したい!
「やります! 調査依頼を受注させて下さい!」
しかし俺は浅はかだった。
数十分後、ロポリスに唆されてホイホイ調査依頼を受けた事を心底後悔する羽目になるとは、これっぽっちも思っていなかった。
~入手情報~
【名称】エルナナイフ
【分類】調理ナイフ
【属性】火
【希少】☆☆☆
【価格】共通銀貨150枚
【アルフのうろ覚え知識】
料理が美味しくなるかもしれないナイフ。
料理上手な魔法使いエルナが使っていたナイフのレプリカ。効果にはムラがあり、必ずしも美味しい料理が作れるわけではないが不味くはならない。料理が苦手な人に大人気。ちなみにこのナイフで魔物を仕留めると肉が火の魔力をもつことがある。が、戦闘用のナイフではないのですぐに壊れる。投擲用に購入する冒険者も少なくない。
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【名称】ホロメヴィ
【分類】金属植物
【属性】水/植物/土
【希少】☆~
【価格】1g 共通銅貨50~
【アルフうろ覚え知識】
金属のような海藻。
自生しいている海域によってどの金属に似ているかの違いがあり、それにより価格等も変動する。茹でると柔らかくなるが味は良くないものが多い。俺はミスリルとかオリハルコンっぽいのが好きだ。肌が綺麗になる効果と魔力成長を促す効果が期待できるらしい。もってるのが母上や姉上たちに見つかると問答無用で没収されてたなぁ。
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【名称】クリマトゼラロッド
【分類】魔核杖
【属性】風
【希少】☆☆☆☆☆☆
【価格】共通金貨500枚
【アルフのうろ覚え知識】
風魔法使いクリマトゼラが考案したロッド。
装備して戦闘を繰り返すと、適正魔法に風魔法が加わる場合がある。元々風魔法が使える者は魔法威力と熟練度が上がりやすくなるとか。風の魔石とレッサーズーという風の魔物の魔核が材料で非常に高価らしい……確かに。共通金貨500枚なら1ヶ月分お小遣いがほとんどなくなるからな。
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【名称】矢文鳥籠
【分類】魔道具
【属性】無
【希少】☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【価格】共通白金貨2枚
【アルフのうろ覚え知識】
天才モリナディが開発した旧式の遠距離連絡用魔道具。この鳥籠に手紙を入れて魔力を流すと手紙が矢文に変じ、指定した別の矢文鳥籠に瞬間移動する。日時を指定した場合、手紙は鳥に変じ、その日が来るまで鳥籠の中で待機する。待機の鳥が多いと先方からの矢文で貫かれ文字が血のように飛び散る場合もあり、そうなると手紙は書き直し必至。流す魔力の属性や量によって鳥や矢形状が変化する。魔法王国では廉価品が幼児の玩具として売られてたっけ。
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【名称】サファイアグミ
【分類】宝石グミ
【属性】水/風/雷
【希少】☆☆☆☆☆☆☆
【価格】共通金貨100~
【ロポリスの鼻ほじ解説】
ミツギカラスが作り出すマジックアイテム。
食べると一定時間、防御力がかなり上昇するわ。さらに戦闘中に限りいくつもの選択肢とその結果が一瞬で頭の中に提示される、1種の天啓を授かるような状態になるの。たまに属性と同じ魔法が10分ていど使えるようになることもあるわね。
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【名称】デュモルチェライトグミ
【分類】宝石グミ
【属性】無し
【希少】☆☆☆
【価格】共通金貨100~
【ロポリスの鼻のほじ解説】
ミツギカラスが作り出すマジックアイテム。
食べると神から試練を与えられるの。それは必ず食した者の弱点をついた試練で、乗り越えれば新たな固有スキルを取得できるわ。但し試練に失敗すると固有スキルと先天属性を1つ失ってしまうし、取得できる固有スキルもピンきりなのよねぇ。
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【名称】ガーネットグミ
【分類】宝石グミ
【属性】火
【希少】☆☆
【価格】共通金貨100~
【ロポリスの鼻ほじ解説】
ミツギカラスが作り出すマジックアイテム。
食べると一定期間恋愛運が上昇、良縁を引き寄せやすくなるわ。恋愛に対し積極的になるけど、ときめきに任せて安易に体を許す可能性も高まるのよねぇ。そうそう、ジルが勇者に惚れるきっかけになったグミよ。
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【共通金貨】
冒険者ギルドが価値を保証している仮想通貨。
正式名称はヒウロイト金貨といい、冒険者登録証に記録される。ヒウロイト王国及び冒険者ギルドで買い物をする際にも使用できる。また、世界中の冒険者ギルドで、任意の国の通貨に両替できる。レートは日々変わるので損をしないように気を付けた方が良い。
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【グリモアニア】
魔書に生命が宿ったとされる魔法種族。
基本的に本の姿で産まれてくる。成長するに従って本に文字が浮かび上がり、魔書となっていく。およそ2年かけて魔書から子供の身体が生え、魔書の内容と共に身体も成長していく。見た目は個体差が激しく、あらゆる種族の姿をしたグリモアニアが存在する。魔書から完全に離れることはできず、身体の一部が必ず触れている。個体によって異なるが、魔書を開いた状態で浮かびそこから身体を出して生活する物が多い。魔力が豊富で魔法が得意な反面、物理攻撃には滅法弱い種族でもある。自分の魔書の内容は愛し合う物以外には決して見せない。寿命を全うしたあとは、極めて強力な魔書となるが、ほとんどの者は寿命を迎える前に死んでしまう。