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98話 可哀想な頭

後書き修正

「……そろそろ帰るか」


 ボスッボスッと乾いた音が響くアグアテスの最下層で、俺はコルキスに視線を移しながら提案した。


 ロポリスの、俺がミツギカラスに懐かれるという企ても終わったことだしな。


 お腹一杯と言っていたのに、何故かまた指から吸血しているコルキスの頭を撫でて、止めて欲しいとアピールしてみる……が、効果はなかったようだ。


「アルフレッド、もう帰っちゃうの?」


 代わりに、セントが寂しそうな声で肩を突ついてきた。


 あれ、この感じだとセントは着いてこないのか?


 てっきりグルフナみたいに、俺の使い魔的な存在になるのかと思ってたんだけど。


「そうだな。一応、旅の途中だし」


「そっかー。セントは大人になるまでここに住まなきゃだから……。でも、また絶対会いに行くからね。半日おきくらいなら大丈夫だと思う」


 半日おきって、それは毎日と言わないか?


 目的地のセイアッド帝国まで近付いてはいるけど、まだ結構な距離がある。最初の頃は良くても、独立学園都市ミュトリアーレ辺りで無理が出てくると思うぞ。


「そんな頻繁にダンジョンを離れてたら大人になれないよ。年1くらいでいいんじゃないかな……」


 指から口を離してコルキスが言う。毎日は邪魔だし、と小声で言ったのは聞かなかったことにしよう。


「うーん、それは困る。セント早く大人になって、アルフレッドとずっと一緒にいたいから。死んだ後もずっと一緒に」


 コルキスに視線をやったセントが、サラッと怖いことを言った気がする。後でミツギカラスの生態について、よーく教えてもらおう。


「大人になるまでは時々にしておこうかなー」


「それがいいよ。なんなら大人になるまで来なくてもいいし、大人になってからも来なくていいよ」


 コルキスはセントが嫌いなのかな。さすがにあんまりな物言いだと思う。


「ううん、セントは行くよ。アルフレッドがどこに居ても必ず行くー」


 俺に視線を戻したセントは、瞬きひとつせず緩慢な動きで首を左右に傾げている。


 なんだろう、目が怖い。いや、でも鳥ってだいたいこんな感じか?


 何を考えてるか分からない目っていうか、若干の狂気が常に宿っているっていうか……そう思うと、セントは鳥形の魔物だし普通なのかな。


「じゃあね、じゃあね、しばらく会えないなら、セントのコレクションあげるね。アルフレッドに見せようと思って巣まで取りに行ってたのー」


 セントがしゃがんでブルブル震えて、また立ち上がる。するとセントの足元には、数え切れない量の宝石やキラキラした物があった。


「これ全部アルフレッドのだよ。いつもセントの事を考えててね。セントもそうするからー」


 器用に足を使ってそれらを俺の方に寄せてくる。時々、ジャリンジャリンっていう鎖を引き摺るような音も聞こえる。


 あ、セント足についてるあれかな? さっきまでなかったよな。


「リリーの足枷……良かったね、兄様。セントにお礼を言って早く帰ろう」


 コルキスが軽く手を引っ張って促してきた。多少、顔がひきつっているように見える。


「あ、ああ。ありがとうセント。また会える日を楽しみにしてるからな」


「セントもー!!」


 セントが嬉しそうに何度も羽を上下にバサバサし始めた。その度に大量の宝石が床に散らばっていく。

 

「あ、そうだ! アルフレッドは……あ、コルキスだっけ? それみたいなのが好き?」


「大好きだ」


 こういった質問はよろしくないぞ、セント。繋がれた手にほんの少し力が加わるよりも早く俺は答た。


「分かったー。ねぇアルフレッド、そこにある折紙で何か作ってくれない? 会えない時間はそれをアルフレッドだと思うから」

 

 折紙……俺が作れるのは鳥くらいだ。セントはカラスだし、ちょうど良いかな。


 コルキスも興味があったのか、俺に金色の紙を渡すと一緒になって何かを折り始める。


「楽しみだなー。何ができるのかなー」


 セントは作業をしている俺の周りを、近付いたり遠ざかったりしている。ディオスもセントと同じような動きをしていた。一緒に遊んでいるんだろうか。


 2~3分で、どうにかこうにかカラスっぽい鳥を折る事ができた。3本足にするのが難しかったけど、意外に良いできだ。


 ちなみに、コルキスが折ったのは兎だった。あんな複雑そうなリアル兎、よく折れるな。 

 

「ほら、これで良いか?」


「わあ、これセント? アルフレッドはセントを作ってくれたの? ありがとう、大好きー!」


 セントは折紙を受け取ると、俺の名前を連呼しながら飛び去って行った。


 あれは下に飛んで行ってるように見えるけど、本当は上に行ってるんだよなあ。


「兄様、これあげる。星降り折紙で折ってあるから大切にしてね」


 へえ、これ星降り折紙っていうのか。


「なあ、なんで兎?」


「え、兄様って狼獣人の次に兎が好きなんでしょ? 被り物も持ってたし。狼獣人はぼくがなれるから、折紙は兎なんだ」


 別にあれは好きで持ってた訳じゃないんだけどなあ。ま、せっかくコルキスが作ってくれたんだ、気にしなくてもいいか。


「ありがとう、大切にするよ」


「くふふ、良かった。じゃあぼくとディオスで、このコレクションとやらを仕舞うから。兄様は散らばった宝石グミを集めといて。それが終わったら帰ろうね」


 何!?


 さっき、ぼろぼろとセントの羽から落ちてたのって全部宝石グミなのかよ……だったら冒険者ギルドに持って行こうかな。


 確か薬草とかと一緒で、宝石グミは常時納品依頼の対象だった気がする。


 まあ、薬草と違って全く納品されないから、どこの冒険者ギルドでも、消えかけた文字の依頼書が掲示板の隅っこで退屈そうにしているらしいけど。


「俺1人じゃ時間がかかりそうだな」


 ラズマにお願いしてみよう。駄目元でロポリスにも。


 実はずっと視界に入ってたんだけど、関わると面倒臭そうだったから放置してたんだよなあ。


「今度は何で揉めてるんだか」


 改めてその方を見ると、ヴァロミシアの時みたく感じの悪い人形の頭と胴体が引き千切られている。


 そして胴体がグルフナを使って、自分の頭をひたすら殴り続け……可哀想に、もう半分ミンチになってるじゃないか。

~入手情報~


【名称】リリーの足枷

【分類】黒魔道具

【属性】植物/無/呪

【希少】☆☆☆☆☆☆☆

【価格】共通金貨600枚

【コルキスのヒストリア手帳】

①この足枷は2者で使用する魔道具だよ

②先に嵌めた者が後から嵌めた者を色んな意味で束縛できるようになるよ

③でも束縛が気に食わないなら、後から嵌めた者は先に嵌めた者を呪う事ができるよ

④両者が互いに求め合っている場合に限って、何時どのような状況でも互いの場所を把握できるし、その場所に転移できるようになるメリットもあるよ

⑤使用後に足枷は消えるけど、2人の足首に目玉黒百合イビルアイリリーの模様が刻印されるらしいよ


兄様ってばのほほんとしてたけど、ぼくがディオスに守るようにに言ってなきゃ大変なことになってたからね。感謝してほしいよまったく。ちなみに魔法植物の目玉黒百合イビルアイリリーが原料だよ。


~~~~~~~~~


【名称】星降り折紙

【分類】隕石紙

【属性】無/土/氷

【希少】☆☆☆☆☆☆☆

【価格】共通金貨720枚

【コルキスのヒストリア手帳】

空から降ってきた星で作られた折紙。

3種類の星を薄く伸ばして1つ1つ紙状にしてあるよ。金色×1枚、白銀色×1枚、赤茶色×1枚で、何かを作成する事で効果を発揮するんだ。金色は所持者の成長を抑制する効果、白銀色は作成された物と似通った効果、赤茶色は作成者の固有スキルを1つ封印する効果があるよ。


~~~~~~~~~


【ミンチ】

肉を肉挽き機と呼ばれる機械で細かくしたもの。

通常ハンマーで殴り続けられた人形を見ても、ミンチのようだとは考えないであろう。しかし、アルフレッド・ジール・クランバイアはウォーターペイロンで食べた料理の影響なのか、人形は食料という感覚が少なからずあるらしい。

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