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第九話  シトリン帝立騎士学校



「おおー! これがシトリン帝立騎士学校か……!」


 巨大で威圧的な門。その上から覗く荘厳な城を思わせる建造物。


 シトリン帝立騎士学校は格式高きアングレサイト帝国一の名門校である。

 貴族の息女か、もしくは特別に能力を認められた者しか入学することは叶わない。しかし入ることさえできれば将来を約束されたも同然で、卒業生のほとんどは自分の家を継ぐか、国の騎士団に入団するか、政治に関わる仕事に就くか、いずれにせよ陽の当たる道を歩むという。


「学園区に来るのは初めてだから心配してたけど、結構すぐに見つかったな」


 アングレサイト帝国首都・シトリンは大雑把に三つのエリアに分けられる。

 皇宮と皇族御所を中心として栄える天頂区。商人ギルド「メイズ商会」が取り仕切り、多くの外国人が訪れる交易区。そしてさまざまな教育機関が集まり、学生が主導的な運営を行っている学園区。

 学園区を数分もうろつけば、シトリン帝立騎士学校への行き方を記した案内板を見つけることができた。


「当校に御用の方でしょうか」


 珍しそうに見る様子から学外の者と判断したのだろう。学校の守衛が声をかけてきた。

 流石名門校と言うべきか、守衛の胸に光るのは「正義」の花言葉を持つルドベキアを模した徽章。世界最強と名高いアンバー騎士団に所属することを示すものだ。


「ああ、そうなんだよ。人を訪ねて来たんだけど――」


 そこまで言ってはたと気付く。そういえば、あの二人組の少女の名前をシュンジは知らない。

 この学校の生徒であること、他国に狙われるような特別な立場にあるということ、そして見た目がとても美しいこと。少女たちに関して知っている情報はこのみっつだけだ。


 言葉に詰まったシュンジの顔を、守衛が訝しげに見つめる。


「ただなんと説明したらいいか……。端的に言うと、その相手の名前がわからないんだ。特徴を伝えたら、探してもらえたりしないかな」


 ――いくらなんでも怪しすぎる。守衛はそう思っただろうし、逆の立場なら自分もそう思うだろう。

 もっと良い言い方があったはずだと後悔しながら守衛の表情を窺うと、予想に反してわりあい好意的な雰囲気で、


「お力になれるかもしれません。貴方のお名前を教えていただけますか?」


「俺は……シュンジ。シュンジ・ウルフェナイト」


「やはりウルフェナイト様でしたか。ご安心ください。スペサルテイン様からお話は伺っております。どうぞお入りください」


 守衛が門を開けてシュンジを学校の敷地内に迎え入れる。

 どうやらこうなることを見越して、少女たちがあらかじめ話を通しておいてくれたらしい。名前を伝えていなかったことに向こうは気付いていたのだろう。


「気が回る相手で助かったな」


 少女たちの気転に感謝しつつ、逆に何も考えていなかった自分を恥じながら、シトリン帝立騎士学校に足を踏み入れた。





「こちらを首におかけください。当校の来客証になります。学生・教職員以外の方には持って頂く決まりですので」


「しっかりしてるんだな。……『特殊来客証』になってるけど、これは?」


「本日は当校初等部と中等部の合同入学式があり、保護者やご来賓の方々が大勢いらしております。そのため通常の来客証の数が不足しておりまして。特に大きな違いはありませんので、お気になさらず」


「入学式か……。俺は学校に通ったことがないから、なんだか羨ましいぜ」


「私も学校は初等部までで、初等部卒業後すぐ騎士見習いになりましたから、その気持ちは少しわかります」


「それはすごいな。初等部卒業直後っていったら12歳くらいだろ。やっぱりその若さでアンバー騎士団に入るには、それくらいじゃないと難しいのか。ちなみに今の年は?」


「17です。私はつい先日叙任を受けて騎士になったばかりですが、貴方の待ち合わせ相手であるスペサルテイン様は14歳の若さで騎士になられました。これは騎士団の歴史上二番目の年少記録です。それに比べれば、私などはたいしたものではありません」


 スペサルテインというのは、ふたりのうち白い鎧を着ていた少女の方の名前だろう。あの女の子たちは、やはりただものではなかったらしい。


「17なら俺と同い年じゃん! その年で有名な騎士団の一員で守衛の仕事もしっかりこなしてるあんただって、十分立派だと思うけどな」


「そう言っていただけると嬉しいです」


「見習い時代は誰についてたんだ? 今見習いをとってるくらいの騎士なら、もしかしたら知ってる人かも――」


 守衛の師について訊こうとしたそのとき、わずかに地鳴りのような音がしているのに気付く。

 耳を澄ませて音の出所を探ると、今いる部屋がある場所の隣の建物から、断続的に音と振動が発生していることがわかった。


「――隣の建物で何かやってるのか?」


「隣の円形闘技場では、現在高等部の編入試験を行っている最中です。ただ闘技場には音と振動を吸収する機能があるはずですので、それらが漏れているということはシステムに不具合が生じたか、もしくは相当な実力者が術を使ったのか……」


「へえ、おもしろそうだな。ここでずっと待つのも退屈だし、ちょっと見学に行ってもいい?」


「構いませんよ。来客証を身に着けることだけ、忘れずにお願いいたします」

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