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第七話  昨日の敵は今日の友



「俺様は…………負けた……のか……」


「どうだろうな。俺の気分的には引き分けってところだ。結局刀を抜いちまったわけだし」


 地面に座って休みながら、仰向けに倒れているクラウスの問いかけに答える。

 クラウスの獣化は既に解けており、その声色からは先ほどまでのような常軌を逸した感じは消えている。


「俺様も……秘術を使った……。そのうえで……このザマだ……。クソったれ。こんなやつがいたとはな……」


「俺のほうが驚いたよ。正直どんな相手でも、滅多なことでは苦戦すらしないと思ってた。あんた、強いな」


 最近修業が行き詰まっているのを、強さの限界を迎えてしまったからではないかと少し疑っていたが、それがとんだ思い上がりだったということにこの戦いで気付かされた。

 そう年齢も変わらない相手にここまで追い詰められる程度の強さなど限界であるはずがないし、また限界であってはならない。

 どうしても叶えたい理想と、どうしても果たさなければならない使命。絶対的な強さは、その両方のために必要な条件なのだ。


「勝ったてめえに言われても皮肉にしか聞こえねえよ。――俺様が知らねえだけで、世の中にはてめえみてえに強い奴がごろごろしてるんだろうな。そいつらとも、戦ってみたかった……」


「なんだよ。そうすりゃいいじゃんか」


「馬鹿野郎。殺すつもりで戦った以上、殺される覚悟もできてんだよ。情けは無用だ、俺様はここで死ぬ」


「……殺す殺されるの戦いなんてした覚えはない。俺の力は……存在は、大切なものを守るためにあるんだ。あんたにとどめを刺す気はないよ」


「……馬鹿みてえに強いくせに、とんでもなく甘っちょろいやつだ。俺様をおとぎ話の、命を助けられて恩返しに来る動物かなんかと勘違いしてんじゃねえよな」


「…………意外だ。あんたも冗談を言うんだな」


 殊勝な顔つきで恩返しに訪ねてくるクラウスを想像してみるが、全くイメージが湧かない。

 命を助けられたことにむしろ屈辱を感じ、恩を仇で返す気満々で恩人の家の扉を叩く姿ならば、容易に頭に浮かぶのだが。


「――そういや、ちょっと訊きたいことがあったんだ。戦いの最中、あんたの『狂歌兇』は家に伝わるものだとか言ってたけど、他の麒麟(ツェントルム)の獣術もそうなのか?」


「……基本的にはそうだ。青龍(オステン)朱雀(ズーデン)白虎(ヴェステン)玄武(ノーデン)が、それぞれ遠隔攻撃、補助、直接攻撃、防御……といった術の特性を表すのは知ってるだろ? だが麒麟(ツェントルム)だけはそうじゃねえんだ。特殊な方法でしか会得できない秘伝の獣術が、特性に関係なく麒麟(ツェントルム)に分類される。大抵は術を編み出した者の一族が、代々秘術として受け継ぐことになるのさ」


「なるほど……。じゃあ『霊号令』を発動したときに言ってたロートシュヴェルトってのが、『霊号令』を継承している家系ってことなのか」 


「ああ。ロートシュヴェルト家は、何人もの優秀な獣騎士が輩出してきたグラナート獣士団国の名門貴族だ。そこの現当主が使ったのを、一度だけ見たことがある。――というか、てめえはそんなことも知らずにあの獣術を使ってやがったのか?」


「まあな。……あ、ちなみに俺があの術をどうやって習得したのかについて、答えられることは何もないぞ」


「俺様は親切に質問に答えてやったのになあ……?」


「それはほら、俺は勝者だから」


「……ッ! てめえ上等だ……!! 今すぐにリベンジしてやる!!」


「冗談だよ、冗談」


 激昂するがまだほとんど体を動かすことができないクラウスを尻目に、立ち上がって服についた汚れを払う。

 あと数十分もすればクラウスの体力もある程度回復するだろう。そうなったとき、クラウスは本当に再戦を挑んできかねない。この場を早く立ち去ったほうがよさそうだ。


「そろそろお暇しようかな。気絶している部下たちをちゃんと起こして連れて帰れよ。あと、いくら軍の命令だからって女子供を殺すのはやめとけ。俺ならいつでも相手になってやるからさ」


「……俺様に命令するんじゃねえよ」


 クラウスの答えはそっけないものだったが、なんとなく約束を守ってくれるような気がした。


「もしそういう場面を見たら、また叩きのめしてやるからな」


 そう言い放ってからクラウスに背を向けて歩き出すと、後ろからものすごい怒号と罵詈雑言が飛んでくる。


「からかい甲斐のある奴……」


 壮絶な戦いを演じた後とは思えないような、ちょっと愉快な心持ちで、シュンジはその場を後にした。


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