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第四話  俺が守る



 シュンジがその場に駆け付けたとき、既に戦いは終わりを迎えようとしていた。

 ふたりの少女が追い詰められ、止めを刺される寸前だった。

 片手半剣を構える赤い髪の男からは、本気の殺意が感じられる。このまま誰も助けに入らなければ、数秒後には少女たちの命はないだろう。

 男の剣からは尋常ではない量の獣気が迸っていた。ここ数年鍛錬ばかりで実戦の機会がほとんどなかったシュンジにとって、楽な相手とは言えそうにない。


 しかし今まさに命を絶たれようとしている少女たちを前にして、選択を迷うことはなかった。

 

「【玄武第六門(ノルデン・ゼクス)鋼殻甲(こうかっこう)】!」


 男と少女たちの間に入り、交差した腕を前に突き出して獣術を使用する。


 腕に集められた獣気は堅固な盾となり、「剣突嶮」の荒々しい獣気の渦を受け止める。

 バチバチと稲妻のような音を出しながら獣術がぶつかり合い、轟音とともに互いを打ち消した。


「てめえ…………なにもんだよ」


 男は戸惑いを含んだ声音で訊いた。

 シュンジが突然現れたことよりも、自らの獣術を相殺したことに対して動揺を隠せない様子だ。


「俺はシュンジ・ウルフェナイト。この森に住んでいる。あんたこそ何者で、なぜ彼女たちを殺そうとする」


「……俺様は一角獣士軍(アインホルン)所属のクラウス・フォン・ヴァンダーファルケ。上層部(うえ)からそいつらを始末しろっていう命令が出たもんでな」


「軍の命令……」


 ちらりと肩越しに後ろのふたりを見る。


 傷だらけで土や草にまみれてはいるが、それでもわかる鎧とローブの上質さ。そしてなによりも、美しく気品溢れる顔立ち。

 一国の軍がたったふたりの少女に対する殺害命令を出すなど普通なら考えにくいが、王族や大貴族の令嬢ならばあり得ない話ではない。

 何の罪もない彼女らの命が国や軍の都合で理不尽に散らされようとしているなら、自分が守ってやらなければ――とシュンジは思った。


「おふたりさん、動けるか? 詳しい事情はわからないが、ここは俺に任せてくれ。アングレサイトに行きたいなら南西、翡翠に行きたいなら真東の方向へ進めばいい」


「貴方は……? 何故私たちを……助けてくれるのですか……」


 白い鎧に大剣を持った少女が、息も絶え絶えに訊いてくる。

 負ったダメージが相当大きいのか、とても森の中を移動できるとは思えない。


「その様子じゃきつそうだな。【朱雀第五門(ズーデン・フュンフ)神癒針(しんゆしん)】」


 かざした手のひらから無数の小さな羽根が飛び、少女たちの体に刺さる。


 ふたりは飛んでくる羽根に驚いてぴくっと体を震わせたが、羽根が刺さった場所から傷が癒えていくの見て安堵の表情を浮かべた。


「これで大丈夫だ。できればさっさと行ってくれ。あんたらを守りながら戦うのは、流石に骨が折れそうだ」


「……普通に戦えば、クラウスに勝てるというのか……?」


 目を丸くした銀髪の少女が訊いてくる。

 凛々しい顔立ちとは不釣り合いなあどけない表情に、思わず少し笑ってしまった。


「たぶんな。結果をお楽しみに」


「……ならば必ず生き残って、結果を伝えに私のところへ来てくれ。本来なら私が出向くのが筋だろうが、残念ながら私はあまり自由に動ける立場にないのだ」


「気が向いたらそうするよ」


「いいや、絶対に来てくれ。シトリン帝立騎士学校に私はいる。この恩は必ず返す」


 銀髪の少女の真っ直ぐな瞳に負け、ついつい了承してしまう。


「はいはい、わかったわかった」


「約束だぞ。……スピカ、ここは彼の厚意に甘えよう」

 

 スピカと呼ばれた少女は、長いポニーテールを垂らして深々と頭を下げた。


「助けていただき、本当にありがとうございました。ご武運をお祈りしています」


「気をつけろよ」


 ふたりが駆けていくのを見ながら、妨害してくるであろうクラウスの攻撃に備える。

 しかし意外にも彼に動く様子はなく、彼女らがこの場を離れるのを待っていたかのように口を開いた。


「……やっと行きやがったか。そろそろ寝転んでやろうかと思ったぜ」


「あいつらを殺すのが軍の命令なんだろ。俺が言うのもなんだが、追わなくていいのか?」


「そんなことにもう興味はねえ。今は俺様の第六門(ゼクス)を止めやがったお前に興味がある。それに――」


 クラウスがハンドサインを送ると、後ろに控えていた一角獣士軍(アインホルン)の戦士たちが一斉にシュンジに向かってくる。


 一人目と二人目の攻撃をかわして胸ぐらをつかみ、放り投げて後続にぶつける。

 ひとかたまりになって倒れたところに、


「【青龍第五門(オステン・フュンフ)震失神(しんしっしん)】!」


 獣気を込めた拳で(くう)を殴ると、振動波が生じて一角獣士軍(アインホルン)の戦士たちの脳を揺らす。

 振動波がおさまったとき、彼らはひとり残らず意識を失って倒れていた。


「――こんなヤツに邪魔されたんじゃ仕様がねえ。妨害を予測して計画を立てなかった上層部(うえ)の落ち度だ」


 クラウスが口の端を歪めて笑う。


 もともと軍に忠実というわけではないのだろう。任務に失敗したことを悪びれる素振りは微塵もない。

 それどころか、これから始まるシュンジとの戦いに胸を躍らせている様子だ。


「いい根性してやがる。クラウス・フォン・ヴァンダーファルケ……」


「そろそろ始めようぜ。シュンジ・ウルフェナイト!」


 クラウスが片手半剣を大きく振り上げたのを合図に、熾烈な戦いの幕が切って落とされた。

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