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第三話  クラウス・フォン・ヴァンダーファルケ



「雑魚とはやりたくねえからお前らに任せたが、たった二人殺るのにいつまでかかんだよ。それでも一角獣士軍(アインホルン)の戦士か? 情けねえ」


 突如現れた赤髪の男が、荒々しい口調で言い放つ。

 燃えあがる炎を映したような赤眼は猛禽類のように鋭い。容姿はまだ若いように見えるが、その若さに似合わぬ百戦錬磨の貫禄があった。


「クラウス少将……!」


 乱入者の姿を見て、マルセロが慌てた様子を見せる。


「クラウスだと!?」


 マルセロが漏らした名前を聞いて、アトリアは目を見開く。

 クラウス・フォン・ヴァンダーファルケは、18歳という若さで一角獣士軍(アインホルン)の少将まで上り詰めた天才獣騎士である。

 15歳の時初めて出場した学生対抗戦で、並み居る上級生の強豪を打ち負かして好成績を収め、軍にスカウトされたという経歴を持つ。

 その名はグラナート獣士団国内のみならず、世界中に轟いている。


「もうこれ以上は待てねえ。全員下がれ、交代だ」


 クラウスがそう命じるとグラナートの戦士たちは一斉に指示に従い、アトリアとスピカから距離をとって彼の後ろに控えた。


 クラウスがゆっくりと一歩前に出る。

 アトリアとスピカはクラウスが放つ威圧感に呑まれそうになりながらも、各々の武器を構えた。


「あんまり手間かけさせんなよ。【青龍第四門(オステン・フィーア)咆哮砲(ほうこうほう)】」


 クラウスが手をかざすと、紅い光を放つ獣気の塊が真っ直ぐに飛んでいく。それはさながら命を刈り取る朱殷の弾丸だ。

 スピカはそれを大剣で受けるが、


「くっ! 勢いを、殺しきれない……!」


「《滅びた国の守り・秩序なき世界の秩序・影を退ける光を――能天級(エクスシア)光薄幕(ヴェール)》!!」


 アトリアが防御系の聖術でスピカを援護し、やっとのことで「咆哮砲」を相殺した。


「この威力で第四門(フィーア)の獣術ですか……!?」


「噂に違わぬ実力だな……」


 クラウスは二人が自らの術を打ち消したのを見て取ると、腰に帯びた片手半剣を抜き、


「なるほど。全くやれねえってわけじゃねえみてえだな。そういうことなら少し真面目にやるか。――【朱雀第五門(ズーデン・フュンフ)速瞬息(そくしゅんそく)】」


 咆号(ゲブリュール)を叫ぶと同時にクラウスの姿は巻き上げられた砂埃を残して、その場にいた全ての者たちの視界から消えた。


「速すぎますっ……!」


「【白虎第五門(ヴェステン・フュンフ)爪牙奏(そうがそう)】!!」


 一瞬の後にスピカの目の前に現れたクラウスが、獣気を纏わせた片手半剣を思い切り振り下ろす。


 獣の唸り声のような音をたてながら、凄まじい衝撃波がスピカとアトリアを襲う。その猛烈な威力の前に、彼女らは為す術がなかった。

 周囲一帯の木はなぎ倒され、岩は粉々に砕け散る。

 吹き飛ばされて地に転がったふたりの体は、木々岩々の残骸に埋もれた。


「くぅっ……。……お守りすることができず……申し訳ありません……姫様」


「気に……っ……するな……。それよりスピカ……。お前は逃げろ……」


「な……。何を言うのですか、姫様!?」


「クラウスと我々では……力が違いすぎる……。このまま戦っても、勝ち目はないだろう」


「それなら姫様が逃げてください……。騎士の私が、主を置いて逃げられるわけが……」


「敵の狙いは……皇女である私だ。私が逃げたところで、追いつかれて殺されるだけ。しかしお前だけならば……見逃してもらえるかもしれない」


「絶対に……出来ません!!」


 スピカはよろめきながら立ち上がり、アトリアを背にして大剣を構えなおす。

 しかし「爪牙奏」によるダメージが大きいのか、ふらふらとして構えが定まらない。


「もう立つのがやっとみてえだな。そんなに気張らなくても、すぐ楽にしてやるから安心しろ。俺様だって、女子供を痛めつけるのが好きってわけじゃねえんだ」


 クラウスがゆっくりと、片手半剣を持った右手を引く。

 スピカはクラウスを睨みつけるが、それ以上の抵抗をする力はもう残っていないようだった。


「姫様をお守りするのが……私の役目……」


「スピカ! 逃げろと言っているだろう!!」


 クラウスの獣気が高まる。獣術を発動する予兆だ。

 クラウスの片手半剣が紅く猛り光り、凄まじい獣気を纏い始めても、スピカは臆するような素振りを一切見せなかった。

 アトリアも自分の身を案じることはなく、スピカに逃げるよう促し続ける。

 それを見てクラウスは感心し、


「立派な騎士と立派な主君だ。せめて相応しい立派な死を与えてやるよ。【白虎第六門(ヴェステン・ゼクス)剣突嶮(けんとつけん)】!」


 螺旋状に渦巻く獣気で貫通力を得た剣による突きが、スピカとアトリアに向けて放たれる。

 猛烈な獣気が発する紅い光が視界を覆ったとき、二人は死を悟ってギュッと目をつぶった。

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