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第一話  翡翠宮にて



「遠路はるばる我が翡翠首長国連邦までよくおいで下さいました、アトリアさま。最後に会ったのは3年前くらいかしら。美しく成長されましたね」


 輝く金髪と黄緑色の澄んだ瞳。大人びた色気のあるその容貌とは裏腹に、少女のようなあどけない表情を浮かべた女性は、向かいに座る客人にそう声をかけた。


「ご無沙汰しております、首長殿下。我が皇家のしきたりにより成年と定められた、15歳の誕生日を迎えましたことをご報告に伺わせていただきました。――そう仰る殿下こそ、その美しさに磨きがかかったかと存じます」


 アトリアと呼ばれた少女は涼やかな声で挨拶に応えた。

 白く透き通った肌にほんのり赤みを帯びた頬と、長く豊かなまつげに縁どられた大きな瞳。たおやかな銀髪の一本一本、その毛先まで美しい。


「『首長殿下』って、響きがよくないわ。わたくしはアトリアさまを『皇女殿下』と呼びたくないもの。ヨシノと呼んでくださっていいですよ」


「それではそのようにいたします。ヨシノ様」


「よろしいです。――それにしても、15歳で成人になるというのは早いですね。翡翠では18歳が成年なんですよ」


「仰る通り私はまだまだ若輩ですが、これからは帝国皇女アトリア・オブ・アングレサイトとして、友好国である翡翠と良い関係を築いていきたいと考えております。ひいては翡翠連邦最高首長であるヨシノ様とも……」


「あら、なかよしになりたいのでしたら、言葉遣いがかたいですね。殿下(・・)同士、カジュアルに話すというのはどうかしら」


「一国の首長、さらには連邦の最高首長も務めるヨシノ様の殿下(・・)と、ただの皇族という意味での私の殿下(・・)は違いますよ。まったく対等とは言えません」


「では、いずれ対等な立場になってもらえませんか?」


 ヨシノは悪戯っぽく笑って、アトリアの黄金色の瞳を見つめる。


「わたくしはあなたのお兄さまであるサビク皇子殿下よりも、あなたとの方が良い関係を結べると思っていますので」


「……現時点で私からは何とも」


「あら、困らせてしまったかしら」


「…………」


「ふふ。アトリアさまの瞳はおおきすぎて、宿る意志(モノ)を隠すのには向いてないですよ」


 ヨシノは満足気に微笑んだ。





「もう行かれるのですか? もう少しゆっくりしていってもいいんですよ」


 早朝翡翠宮を発とうとするアトリアにヨシノが声をかけた。


「騎士学校の新学期がもうすぐ始まるので、急いで戻らねばならないのです。次の機会にぜひゆっくりとお話を聞かせてください」


「それならしょうがないですね」


 ヨシノはすねた感じでそう言った後、


「護衛、本当によろしいんですか?」


 アトリアに心配そうに訊いた。


「昨日ご紹介した私の専属騎士スピカは、我が国の騎士団が誇る優秀な聖騎士です。それに私自身も、多少聖術と霊術の心得があります。二人で身軽に行くほうがかえって安全かと」


「まあ! スピカさん、アンバー騎士団の聖騎士だったんですね。そういうことなら、そうしたほうが良いかもしれません。……しかし、くれぐれもお気をつけて」


「お心遣い感謝します」


 アトリアとヨシノが別れの挨拶を終えたところへ、帰りに乗る霊馬の準備をしていたスピカがタイミングよく戻ってきた。

 勝気な瞳にすっと通った鼻筋。背がすらっと高く、ポニーテールにした亜麻色の髪が揺れている。それぞれの国で随一の美しさを誇るアトリアとヨシノに負けず劣らずの美少女だ。


「姫様、準備が整いました。ヨシノ様、このたびは主ともども大変お世話になりました」


 深々と頭を下げたあと、スピカはひらりと霊馬に飛び乗った。


「――それでは。また会える日を心待ちにしております」


 アトリアもそう言って霊馬に飛び乗り、駆けていく。

 

「気をつけてくださいね~」


 ヨシノは二人の姿が見えなくなるまで手を振りながら見送った。

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