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2016年/短編まとめ

甘ったれな日常

作者: 文崎 美生

デスクトップパソコンの画面を睨み付けながら、舌打ちを一つ。

それから回転椅子の背凭れに上半身を預けて、深い息を吐き出し「イライラする」と一言。


同じ部屋の中で、ローテーブルの上にノートパソコンを広げ、座椅子に座り込みながら作業していた幼馴染みが、こちらに振り返る気配を感じる。

それから、抑揚のない声で「生理?ニコチン不足?」と、どう考えても煽ってるような言葉を投げた。


「どっちでもねぇよ」


溜息と共に吐き捨てて、目を閉じる。

ブルーライトを浴び過ぎた目が、その奥の神経がズキズキと脈打つように痛む。

それに合わせて頭痛までして来た。


「どれどれ」


「近い」


ギシリと座椅子から立ち上がった幼馴染みが、まともな足音も立てずに近付いて来て、ピタリと真横に張り付いた。

抗議の声を漏らしたにも関わらず、まぁまぁ、なんて言われて、画面を覗き込まれる。


作業中なので、自分が見ていたのと変わらない画面で、幼馴染身は僅かに目を見開いて視線を画面に固定した。

視線だけじゃなく、体も固めて動かない。

「完成楽しみ」と言う、独り言にも似た呟きは、まぁ、嬉しいが、疲れているので離れて欲しい気持ちの方が大きかった。


「オミくん、チョコいる?」


「要らねぇ」


くるりと顔をこちらに向けた幼馴染みの顔が、思いの外近く俺は眉を寄せる。

本人は気にした様子もなく、表情を変えない。

ローテーブルの上に、ノートパソコンと一緒に置かれている、チョコレートの箱を見て首を振った。


コンビニでもスーパーでも見掛けるシリーズのチョコレートだったが、そういう気分ではない。

むしろ、このままパソコンの電源を落として寝たい。

不眠不休で仕事をしているわけではないが、基本的な睡眠時間は確実に短くなっている。


本日何度目家の溜息を吐けば、再度、まぁまぁ、という言葉が聞こえて、頼んでもいないのにチョコレートを持って来た。

赤いパッケージを持って来たかと思えば、そこから鈍い銅色の包み紙に包まれたチョコレートを一つ取り出し、人のデスクから勝手にペンを抜き取る。


油性のペンを取った幼馴染みは、リズムの狂った鼻歌を漏らし、その包み紙にペンを走らせた。

横目でそれを見ながら、取り敢えず進行中の仕事のデータを上書き保存する。

保存完了の文字が出たところで、幼馴染みの方も終わったらしい。


「はい、どーぞ」


子供のような、ほんの少し誇らしげな声と共に差し出されたチョコレートが、無理矢理手の平に乗せられた。

視線を落とせば黒い油性ペンで『Ca入り』と、丸みを帯びた小さな文字で書かれている。


「イライラにはカルシウムが効くんだよ」


見つめた顔は真顔に近いのに、やはりどこか誇らしげで、書いてもカルシウムが含まれるわけもなく、その頭に手を伸ばす。

頭蓋骨の形でも確かめるように手を置いて、ぐしゃりと髪を掻き混ぜれば、ふぉ?なんて変な声が聞こえてくる。


「そうだな。効いた効いた」


大分適当な返事だというのに、何故か破顔した幼馴染みに対して、本気で苛立ちが引っ込んだのは言うまでもない。

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