駄洒落の魔法 ~究極ゆえの代償~
僕は塔の階段を登る。
すでに警備の兵士達は大半を吹き飛ばした。
この先にスレンタニア姫が囚われているはずだ。
姫と言っても王女では無く侯爵家の長女だ。
僕は彼女の奪還を父親から頼まれたのだ。
階段を駆け上がるのもそろそろ辛くなってきた。
息が切れ始めたのだ。
体力にはそれほど自信は無い。
そんな中、ついに扉を発見する。
扉は分厚くて良い木を使っていそうな感じだった。
たぶん魔法の力で強化もされているだろう。
剣でたたき切ってどうにかなるようなものではない。
僕はそこで大声を上げる。
「スレンタニア姫ご無事ですか?!」
「はい、怪我一つありません。あなたはどなたですか?」
扉越しに美しい声が聞こえた。
「父君より救出の依頼を受けた者です。
扉を何とかしますので出来るだけ下がっていてください」
「はい・・・分かりました」
僕は扉の取っ手をガチャガチャと回す。
当たり前だが鍵がかかっている。
いや、アレをやった後に実は普通に開きましたとかだったら恥ずかしいので一応確認しただけだ。
僕はしばらくの間を置く。
そして息を大きく吸い込みアレを使う。
『取っ手を取って!』
僕の魔法が発動する。
扉の取っ手がポロッと落ちた。
一緒に鍵も解除される。
今使ったのは、魔法種別最強と言われる伝説の「駄洒落魔法」だ。
僕はこの力を得るため、日本という異世界へ赴き、師匠の元で厳しい駄洒落修行を積んだのだ。
取っ手を失ない鍵が解除された扉は、キーっと言う音を立てて勝手に開く。
そこには艶やかな髪、透き通った瞳が印象的な美しい少女の姿があった。
悪徳商人のグレッゼルが我が物にしようとしたその行為を、肯定するわけでは無いけれど、納得するぐらい美しい。
「さあ、脱出しましょう」
「ありがとうございます。
ただ・・・もうじき暗黒騎士ゼスが戻ってくるかもしれません」
姫は僕の姿を見て心配そうに言った。
僕の装備は武器はナイフ一本、纏っているのは旅人の服、これで心配しない方がおかしいだろう。
「大丈夫、こう見えても途中の兵士達は僕が倒したんですよ」
僕は姫の手を引きながら階段を降りていく。
美しい姫の手を握る、これは役得だ。
まあ、そのぐらいのご褒美はあっても罰は当たらないだろう。
命がけの救出劇なんだから。
塔を警備していた兵士達は、その辺りに転がって昏睡している。
僕達はそのまま塔の外へと脱出した。
「おやおやお散歩ですか、スレンタニア姫? 」
塔を出たところで漆黒の鎧を纏う騎士が待ち構えていた。コイツが暗黒騎士ゼスか?
ゼスは僕を見てニヤリと笑う。
「私の留守中に来客とは、持て成しも出来ずに遺憾の極み。
今からでも礼を尽くさなければなるまいな。」
そして彼は剣を抜いた。
ナイフ一本しか持っていない僕にいきなり剣を向けてくるとは、なんと大人げない。
「やるだけ無駄だよ。
姫を救出した以上、エネストア侯爵が私兵を使ってグレッゼルを捕らえるだろう。
今のうちに逃げたら?」
「異な事を。
姫はまだここにいる。
そして散歩は終わり、これから塔にお戻りいただく。
貴殿は・・・そうだな、ヘブンへとお見送りしよう。」
暗黒騎士ゼスは剣を一閃する。
僕はそれを予期して叫んでいた。
『盾を立てる』
ガツっという音がする。
ゼスの剣は僕の目の前でその動きを止めた。
『剣の対策を検討する』
ゼスの剣が吹き飛んだ。
そう、これがハゲでデブで足が臭い師匠から学んだオヤジギャグ、それを昇華した駄洒落魔法だ!
ゼスは一瞬だけ驚いた表情を見せたものの、素早く剣を拾い上げ、再び僕に剣を向ける。
彼に目に、さっきまであった侮りの色が消えた。
「何者だ?」
「最強の魔法使い・・・と言われる予定で名はポンテ。
冥土の土産に魂に刻んでおけ、暗黒騎士のゼス。」
「ポンテ・・・最強の魔法使いだと? さっきのが魔法だというのか?」
「ああ、そうだ。
常識を覆す最強の魔法だ。」
「ふん、ならば見せてやろう、本当の魔法という奴を!」
ゼスは呪文の詠唱に入る。
他人の魔法を見る機会があまりなかった僕は、見入るようにそれを眺めていた。
『暗黒炎舞』
ゼスの周りに真っ黒い炎が浮かび上がる。
心なしか周囲の雑草が干涸らび始めているような気がする。
「さあ、全ての力を奪い取る暗黒の炎を食らうがいい!」
ゼスは黒い炎を僕に向けて放った。
ゴォォォっという音と共に、僕の目の前が漆黒に染まる。
『炎を奉納』
駄洒落魔法は黒い炎をあっさりと消滅させる。
「な、なんだと!!!」
ゼスは狼狽する。
自慢の魔法があっさりと破られたのだから気持ちは分からなくも無い。
『よろける鎧』
僕の駄洒落魔法がゼスの体勢を崩す。
『意思のある石』
周囲の石がゼスに狙いを定め、一斉に飛んでいく。
『食う気のある空気』
周囲の空気がゼスに襲いかかる。
「ぐあぁぁぁぁ」
絶叫を上げる暗黒騎士。
「さあ姫、今のうちに」
僕はゼスが乗ってきたと思われる漆黒の馬を拝借することにした。
乗馬? 日本での異世界生活が長かった僕にはそんなスキルは無いよ。
『馬が上手い』
僕は姫と共に、颯爽と漆黒の馬で駆けていく。
そう、駄洒落魔法に不可能など無いのだ。
「おおお、良くやったぞ」
姫を無事連れ戻した僕は、エネストア侯爵から感謝の言葉をもらった。
「いえ、お褒めいただくほどの事ではありません」
一応、お約束だから謙遜しておく。
「伝説の駄洒落魔法、その力、信じるに値するものだというのは良く理解できた。
さあ、今日は宴だ。
存分に楽しむといい」
僕は姫救出の達役者として、存分に歓待を受けた。
そしてその宴のさなか、疲れたのかバルコニーに佇むスレンタニア姫を発見する。
僕は彼女の美しい顔を見るために、バルコニーに出た。
「ポンテさま・・・」
「スレンタニア姫」
僕と彼女は見つめ合う。
先に沈黙を破ったのは彼女の方だった。
「どうしても、お伝えしたいことがあるのです。
本当なら・・・心に秘めておくべきだというのは分かっています。
でも、どうしても言わずにはいられないのです」
姫は切ない表情で、か細く声を紡ぎ出した。
「姫・・・」
僕は彼女に一歩近づく。
お互いの呼吸を感じるほどに僕達の距離は近づく。
そして姫は言った。
「わたくしは・・・駄洒落が大っ嫌いです!
生理的に無理なんです!」
こうして宴は終わった。
師匠である、ハゲでデブで足が臭くって酒ばっかり飲んでいたオヤジ、彼はモテなかった。
もちろん独身だ。
そしてそのオヤジギャグを伝承した僕は・・・モテなくなっていたのだ!
伝説の駄洒落魔法・・・その究極ゆえの代償は、あまりにも大きく過酷なものだった。
いつかこの主人公で長編を書きたいです。




