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これまでのあらすじ
・人に化ける魔技を求めて西の人類最前線に来たよ!
・魔物版亜神こと魔人が攻めてきたので倒したよ。ビーム!
・女神ボディに宿った聖遺物ことフィンラスさんがデレたよ!
遅くなりました。
今夜の宿はフィンラスさん、もといこれからは正式に“愛娘”という愛称で呼ぶことになった彼女が用意してくれたので、僕は武器を用意することにした。
外向きの武器ではなく、内向きの、つまり交渉の為の「実弾」だ。
僕は一身上の都合により魔人を生きたまま狩りたい。そのためには対魔人戦線で一番槍で出陣して一戦目で殴り倒して昇華するのが最も不確定要素がない。
だから、そういうリクエストが通るだけの発言力を確保する必要がある。
アシェラさんの義弟というコネだけでは人類最前線の荒くれ者どもは納得しないだろうし、されても困る。僕のコネが通るなら他の人のコネも通るからだ。
とはいえ、すでに(地平殲滅兵器としての)実力は見せた。戦果もある。
あとは「こいつの言うこときいとけば得になる」と思われるような利益だけだ。
「というわけで、特に注文を受けていない武器です」
「特に注文を受けていない」
「武器」
「要るでしょう?」
出撃準備に沸く義勇軍第三隊の兵舎にて。
こちらを見て目を丸くするお姉ちゃんと副官ザウエルさんに向けてにっこりと営業スマイルを投げつける。
目の前には積み上げた武器の数々。回収してきた魔物の死体を材料にしたメイル印の逸品たちだ。
アシェラさん率いる第三隊は数時間前にガチの撤退戦のこなしたばかり。
当然、武器防具は打ち捨てられ、回収もできていない。装備の調達には頭を悩ませていただろう。
というか僕が調子乗って薙ぎ払えー!して傷痕の平原ごと焼き尽くしたので8割がた消し炭でしたごめんなさい。
「第三隊もアマルガム形式で、実質的に小隊が冒険者の一党であるとは聞き及んでいます。装備も支給と個々での調達が半々とか」
「うむ。支度金を渡しているが、どうしても個々の魔技にあわせると規格を統一するのは難しいのだ。強化の度合いによって必要な強度も変わってくるしな」
アシェラさんは悩まし気に溜息をつく。
個人性能の振れ幅が大きすぎて共通規格が用意できない。この世界の戦力が割と小人数に留まっている理由であり、科学的な発展が遅々として進まない原因のひとつだ。
兵士の数と装備はコストと経済力で決まる。規格が統一できず、個々の装備にかかるコストが高ければ、当然それだけ頭数を揃えるのが難しくなる。
……が、“昇華”はそのあたりのコスト問題をすべてまるっと解決できる。天使さん謹製のチートは伊達ではない。
つまり、高い性能で統一したものを用意すればいいのだ。
今回ご用意したのは市場に並んでいた店売りの平均レベルよりちょっとだけ鋭利で、ちょっとだけしなやかで、かなり頑丈だ。頼りになるだろう。
「ふむ……出来はいいし、ムラもない。素材は魔物か。我が弟の手によるものと考えれば、一振りに金貨10枚は出そう」
適当に選んだ剣をひゅんひゅん振ってアシェラさんが所見を述べる。刃音がやばい。
基本的に「強度を上げる」方向に強化する昇華の性質上、重量はどうしても重くなりがちだけど、乙女の見た目した女傑には問題ないらしい。
魔技は起動していないように見えるんですがねえ。比較基準がゴリラ系の人は恐ろしい。
「メイル殿、これだけの量をどこに保管していたんですか? 貴方の一党は本日ランガに来たばかりであったかと」
「いえ、さっき回収してもらった魔物の素材で作りました」
「これ全部ですか?」
「これ全部ですね」
実演販売用に残していた魔物の橈骨を拾いあげて紋章を起動。
イメージは剣。目の前に並べた物と均一になるよう金色の光に念を込める。
次の瞬間、僕の右手には一振りの剣が握られていた。
「と、こんな感じです。素材が一山いくらのヌシたちなので強度は保証しますよ」
マジか、とザウエルさんが素の声音で小さく呻いた。
スラング混じりなあたり叩き上げの兵士だったのだろうか。
「……ランガの経済がひっくり返るな」
「そこまでするつもりはありません。あくまで依頼をこなす上で必要な支援を第三隊に行っただけです。あ、横流しは防いでくださいね、ランガの経済がひっくり返るので」
「今すごい棚上げ発言が聞こえた気がするぞ?」
「監視と統制は副官の役目です。承りました」
「あと、メイル印の特徴として他の魔技は受け付けません。僕より存在強度が上なら別ですが、それってつまり魔人より上ってことなんですけど」
「いるわけがなかろう」
「では亜神のどなたかが降臨したときは注意してください。あとは注意点として……」
「ザウエル、あと任せた。私はあたまがいたくなってきた」
「逃げるな。姫様の弟でしょう。なんとかしてください」
数秒、主従で責任を押し付け合った結果、敗北したお姉ちゃんが涙目で前に出てきた。憐れな。
「お、弟よ。まだあるのか? 実は振ると嵐が巻き起こるとか、装備すると外せなくなるとか欠点があるのか?」
「はい。魔技の性質的に補修が一度しかできないんです。つまり、壊れたら使い捨てるしかありません」
昇華は同じ存在に二回までしか行使できない。
そして、二回の昇華で存在強度を大きく上げた物質は、おそらく粉々に砕いて物理的に存在強度を下げたくらいでは他の鍛冶師でも再利用できないだろう。もちろん僕もできない。
魔技で分子配列くらいは変えられるこの世界、リサイクルは当たり前にある文化だ。
ゴミという概念のないこの世界の人にこの事実は案外重いだろう。
「この性能で、使い捨て……だと……。私の実家も裕福な自覚はあるが、さすがに価値観が揺らぐな……」
アシェラさんが食べかけのアイスが溶けて地面に落ちたような表情になった。
しかし、ヌシがスライムみたいな顔して湧いてくる最果ての地であることは僕らに追い風だ。素材に困らないのだからリサイクルの必要性が相対的に下がる。環境破壊は楽しいゾイ。
「まあ、鎧砕きとかの干渉も受けないので必ずしも欠点だけというわけではありません。強度も十分だと思いますが、さすがに魔人クラスとぶつかると危ういかと」
現に僕が使っていた脚甲はウルザの脚を蹴り割ったときに壊れた。自分用に重量を度外視した超硬度だったのに、だ。
廉価版メイル印は構造的に優れているとか、なにか特殊な効果があるとかではなく、単純に存在強度で上から殴っているだけなので、強度に差のない相手には普通よりちょっと性能が良い程度の装備にしかならない。
つまり――
「魔人相手には僕を出せば装備も長持ちするし、強敵に苦戦することもない。一石二鳥ですね?」
「それがおぬしの狙いか、弟よ」
「セット販売は世の常ですよ、お姉ちゃん」
「これほどの武具を作れる鍛冶師を前線に出すのは――ああっ、弟よ、やめて、その笑顔は私に効く」
にっこりと営業天使スマイルを投げつける。
答えは聞くまでもなかった。
◇
……実際のところ、アシェラさんにしても渡りに船ではあっただろう。
いかな人類最前線=大陸で最も武具消費が活発な地域とて、装備の補充には時間と金がかかる。
そこを無料で即座にどうにかできる上に追加戦士までついてきたのだ。win-winの取引だったと自負している。
それに、おそらく僕たちをぶつける以上の魔人対策はない。
アシェラさんは自分の戦闘能力を「この都市で十指に入るくらい」と自己評価していた。第二隊が全滅した今となっては五指かもしれないが、とも。
仮に、上位陣が魔人に対抗できるとして、前線に出せるのはひとりかふたり、それも魔人の出撃を確認して、魔技/偉業の性質を見切ってからになるはずだ。限られた人材を鉄砲玉にするわけにもいかないし、都市の防衛に残しておく必要もあるからだ。
つまり、フリーで動けて、第三隊と一緒に前線に張り付いていられる対魔人戦力は僕たちだけだ。証明終了。
「見事な『せーるすとーく』だったぞ、メイル。口先一つで直参に食い込むとはやるではないか」
「失礼な。コネと実弾も用意したじゃないですか」
完全に遠慮のなくなったフィアがニヤニヤしながら肩を小突いてくる。
すごいエルフ美人がすごい気さくに接してくるだけで人は死ぬのだと早く自覚してほしい。
「実弾、か。成程。突然魔物の死体回収に駆り出されたと思ったらそういうことだったのか」
「フツさんも散歩中にすみません。姫さま機嫌損ねてませんか?」
「そういう意味の散歩ではないのだが……」
実質光速で移動できるフツさんと空を飛べるノキアがいれば素材の回収は半時ほどで済んだ。
一仕事終えたフツさんは狼形態で伏せている。ケモ姫さまはその背中に寝そべってお昼寝中だ。
傍で休んでいたノキアが謎の対抗意識を燃やし、あぐらをかく僕の太ももにちょこんと尻をのっける。
さらりと流れた銀の髪が頬にかかる。
「もふもふ、ちょっとうらやましいですね」
「ノキアも十分ふわふわだよ」
「……えっちです」
恥ずかしそうに頬を赤らめるノキア。文句を言いながらも降りる気はないらしい。
まあ、素材の回収に加えて周辺の空から哨戒までしてくれたばかりだ。ガチガチの天使膝枕でよければ好きに寛いでほしい。
それに、全体的に痩せすぎだった以前と異なり、健康的に肉のついたノキアは抱き心地もいい。
天使ボディも鍛えたら筋肉がつくようだ。自分ではいまいち実感がないけど。
「とにかく、僕らの一党が対魔人の主力になるので各自そのつもりで。フツさんもよろしいですか?」
「構わん。いや、此方としても最上の条件だ。私も姫様も交渉には向かぬゆえ、独力で動くしかなかったが……」
言葉を濁すフツさん。
彼の言葉は真実なんだろうけど、裏の意味も察せられる。すなわち「信頼できない相手を姫様に近づけることは避けたかった」ということだろう。これまでの苦労が偲ばれる。
慎重すぎるように感じるけど、金狼族……獣神キリルサグの直系を背中に載せていたらそうもなろう。祖神の血族にして王族なのだ。顔見知りのフィアがいなければ僕らと組むこともできなかったのかもしれない。
逆に、王族の護衛が彼ひとりというのも気になるけれど……。
「そういえば、一党の名称はどうする? おぬしらの目的をみるに短い付き合いにはならぬだろう」
「む、たしかにな」
「ほほう」
パーティ名!! そういうのもあるのか!!
14歳の魂が疼くのを感じる。前世はおろか今世の14歳もとうに過ぎてるけど。
「じゃあ、案募集しましょう。フツさんから順にどうぞ」
「獣神の牙」
「フィンラスと愉快な仲間たち」
「天使隊でどうでしょう」
獣神の牙、フィンラスと愉快な仲間たち、天使隊でどうでしょう、か。みんな自己主張が激しいな。
「メイルはなにか良い案があるか?」
「では総括して“神の戦士”はどうですか?」
隊長が“戦乙女”なのだからちょうどいい。
あの魔技は神代にいたとされるワルキューレ種族――おそらく天翼人が目撃されてそう伝わったのだろう――に似ているという理由で名付けられたから、そのものというわけではないけれど。
「エインヘリアル……少々気が早いのではないか?」
「よいではないか、フツよ。“偉業”に到達したおぬしは既にそうであると言えよう。メイルらとて時間の問題だ」
「それは、たしかにそうですが……」
フツさんが速攻でコミュ力モンスターに丸め込まれた。
その背中で眠っているケモ姫さまに思念を向けると「いいよ」的な気配が返ってきたのでこちらもよしとする。
「ノキアもいいかな?」
「かまいませんよ。ふふ、ちょっと畏れ多いですね」
言葉の割にノキアは不敵に楽しそうだ。度胸だけならもう一流だろう。
そんな感じで僕らのパーティ名は決定したのだった。
神の戦士。エインヘリアル。
現世で力量を身に着けた戦士は死後、各々奉じる神の元に列せられ、来るべき神話大戦の戦力とされる。
亜神に次ぐ死後の就職先ランキング2位だ。
これをエインヘリアルと呼称したのはどちらの世界が先なのか。気になるところだ。
機会があったら天使さんに訊いてみよう。




