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痛車

作者: マシマ真

 一組のカップルが夜の街を車で走る。

 それだけなら、特に不思議のない光景だ。カップルでドライブなんて珍しくもなんともない。夜景を見に行こうが、食事に行こうが、雰囲気に流されて、ホテルに行こうが、別におかしいことではない。

 ただ変わっているとしたら、その車が痛車だということか。

 『イタシャ』と呼ぶからと言って、別にイタリア製の車という訳ではない。

 痛い車と書くから痛車。見ていて痛々しいということだろうか?

 車にアニメのヒロインとかのシートを大きく貼った車をそう呼ぶ。アニメのイベントなんかでお目にかかるらしいが、それはオタク要素満載の会場なので違和感がない。ただ、こうして夜の街を走るとなると話は別だ。

 明らかに違和感しか覚えない。違和感以外の感想があったら聞かせてもらいたいくらいだ。

 しかし、人目を引くには持って来いかもしれない。

 車には今流行のアニメのヒロインのイラストが大きく貼られていた。長い金髪に派手でセクシーな衣装。それなのに顔の面積の半分以上は瞳というアンバランスさ。顔だけ見れば幼いのに体だけは成熟しすぎている。

 だが、人々の目を引くのはそれだけではなかった。

 車に貼られたヒロインそっくりの容姿の女子が車の助手席に乗っていたからだ。彼女は決してアニメから抜け出たわけではない。単にイベント会場にいたヒロインのコスプレをした女子というだけである。

 運転しているのは車の所有者の若い男。この男もコスプレをしている。と言っても助手席の女性と比べると力の入れ具合は違う。一応、アニメの中の軍隊が使用する軍服ではあるが、これはネットで購入は可能だ。

 男にとってはアニメのヒロインのようなコスプレ女性を口説ける目的があったのだろう。同じ世界を共有できれば、それだけでハードルは低くなる。そして、そのアニメの痛車があれば、ますますそういう女子は落としやすくなる。そう目論んだ。

 そんな浅はかな策でも引っかかる女子はいるもので、彼女はすっかり彼と車の虜になった。そして、そのまま夜の街に走り出たわけである。

 夜の街は二人の距離感を短くしていく。それは一種の解放感であろうか?アニメではヒロインは翼を広げ、高速で飛行も出来る。そんな体験を彼女は妄想しているらしい。男の方は理想の女子を見つけたことに有頂天になり、いつもよりもスピードオーバーになっている。

 彼らはすっかりハイになっていた。

 しかし、ハイになったからと言って、車の運動性能と彼のドライブテクニックまで向上するわけではない。そのまま、調子に乗り、スピードは上がる。急加速、急発進、一時停止無視に信号無視、法令もお構いなしで疾走する。

 そして彼らは現実を知ることになった。自分たちは決してアニメのヒロインのような超人的な身体能力を持っていないことを・・・・。


グワシャン。

 鈍い音が夜の街の静寂を打ち破る。カーブを曲がり損ねた車が電柱に正面衝突したのである。

男は少し頭を打っただけで比較的軽症である。彼は「しまった」と思い、そのまま車から飛び出た。車は本当に痛々しかった。電柱にぶつかりボンネットは大きくへこんだ。しかし、それ以上に痛々しかったのは車に貼られたヒロインの顔だろう。童顔の美少女はすっかり顔がへこんで、無残な状態になっていた。男は当然、頭を抱える。

だが、その後に彼はもっと衝撃的な光景を見た。助手席に乗っていた女子がフロントガラスに思いっきり、顔をぶつけていたのだ。彼女はシートベルトをしていなかった。コスプレ衣装には翼があり、それがシートベルトをはめるのに邪魔になっていたのだ。

フロントガラスは真っ赤に染まっていた。男は狼狽する。そして、女子と車に貼られたヒロインを見比べる。不思議なことにそれは同じように顔の半分がつぶれていた。

痛車はリアルに痛々しい惨劇の車へと変貌したのである。


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