執事の話
ドラン中将に会いに行くことにした。
時間をかけてしまうと魔王が復活してしまうが、24時間常に魔王城に張り付いて居られるわけではないし、仕方のない時もある。
魔王は戦う相手が居なければ
「ふーはっはっはっは!勇者め!臆したな!」
と言いながら手持無沙汰にしているらしい。
特に人間を襲ったり、暴れまわったりはしない。
…そうだ、思い返してみれば、魔王はほとんど魔王城の外に出ることはなく、魔王に殺された人間は勇者やその仲間と呼ばれた人間を除けば聞いたことがない。
……思考がそれた。今はそれは関係がない。
頭を切り替える。
「その距離なら…風の絨毯を使えば片道三時間ってところだな」
「もしかして、代行殿は風の妖精の加護を受けているのですか?」
「あぁ、なかなか融通の利かない子たちだったけど、仲良くなったなら凄く気前が良くてね。こいつがなかったら魔王城までたどり着けたかどうか」
魔法の絨毯の速度はかなり早く、高度を維持していれば魔王軍の敵と出くわすこともなかったし、非常に優秀なマジックアイテムだった。
「では地図をくれ。一人で行って来る」
「いえいえ、地図などと言わず私が案内致しましょう」
「いや、代行も元帥も城を空けるのは良くないだろ」
「……元帥とは何の話ですか?代行殿?」
「元史上最弱の魔王にして銀断と呼ばれたお前の役職名だよ」
「ご存知でしたか。いやはや、勇者殿も人が悪い」
そう、目の前にいる男は先代の魔王にして歴史上最も弱かったと言われた魔王。
それでも在位している間は勇者との戦いに負けることもなかった。
だが、魔王軍の勢いは弱く、徐々に人間を相手に領地を失っていく日々であった。
それがおよそ五十年前から、五年ほど前までの歴史。
それが五年前に魔王が入れ替わり、ほぼ互角の戦いになり、双方にらみ合いが続いていた。
最弱の魔王の行方は不明とされていたが、現在の魔王と戦っているうちになんとなく、執事を見て、
「あぁ、こいつも魔王だったんだろうな」
と思うようになった。
なぜかはわからないが、感覚的なものだ。
それでも、それは確信めいたものだった。
銀髪に赤い瞳、その姿に該当する魔王は一人だけ。
「それで勇者殿、私を殺すのですか?」
「馬鹿を言え、なんで殺す相手を元帥なんていう、軍のナンバーワンの役職を与えるんだよ」
「…あなたは勇者ではないのですか?」
「魔王を倒すから勇者と呼ばれる訳ではないよ。それに今の俺は魔王代行だ。勇者じゃない」
執事は驚いた、本当に今までも一番驚いた顔でこちらを見た。
「…良いでしょう。二番目の忠誠をあなたに誓いましょう」
「それでよい、俺はあくまで代行だし」
一気に緊迫した空気がとかれた。
「しかし、代行殿も人が悪い。黙って人を元帥などの地位に据えるなど人が悪い。魔王のような男です」
先程までのわざとらしい勇者呼びは止めたらしい。
「ふん、まぁ、代行だからな。そんなことはどうでもいいんだよ。それよりも魔王城を一日開けるつもりでいるんだけど、魔王城、いや、魔王はなんとかなるか?」
「何も問題はありません。代行殿が必要な業務は既に終わらせていますし、優秀な侍従長が居ますから問題ありません。魔王様に関しては…そうですね、一人で魔王城に居る分に関しては大人しく過ごすと思いますよ」
「わかった。。侍従長、もし何かあった場合は侍従長に権限を委譲する。例え他の将官が来ようと君が判断して仕切るように」
そういうと、調理室の奥から
「了解しました。お土産を期待しています」
と今日の昼食の準備を中断することなく返答した。
「はは、わかった。時間外労働分のお土産くらいは用意するよ」
「楽しみにしています」
「よし、執事、ドラン中将の居るところまで案内してくれ」
「了解しました」