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暗殺者と勇者

サブタイトル適当。

登場人物のモンスターとしての種族も適当に決めているので、変化する可能性あります。

今回登場しているモンスターはほぼ人型になっています。

あまり詳細な描写はしておりませんが、そこはご勘弁を。

少し長めです。

 魔王城には久方ぶりに大人数の魔族が集まっていた。

 数にして50程度。

 今代の魔王は魔王城に他者が入ることを嫌い、最低限の人員しか配置されておらず、今回のように招集がかけられることもなかった。

 魔王軍の中でも最高幹部全員が集合しているが、その中でも空軍と海軍のトップの二人が口を開いた。


「久しぶりの幹部大集合だな」


「知らない顔もちらほらありますが…ほぼ全員集まっているようですね」


 最近は人間との戦いも激しく、人員の損耗も激しい。特に陸軍はかなりの数の将官が入れ替わっている。

 代えの効かない陸軍大将の座は未だに空位のままである。


「気の張った…良い空気だ。この空気、開戦前の戦場の空気だ」


「ええ、ピリピリしてますね。…言っている私たちでさえ他人事ではない」


 他の者は誰も喋らない。

 この空気に呑まれているのだろう。

 それだけ緊張している。




 魔王城に雷が落ちた。

 轟音が鳴り響き、地面が縦に大きく跳ねる。


「何事だ!」


「立つな!伏せろ!」


 この場に居るのは戦場を駆け抜け武勲を挙げてきた歴戦の猛者である。慌てることなく瞬時に適切な判断を取る。

 しかし、それでも動揺は消すことができなかった。


「今のは一体なんだ!勇者の不意打ちか!?」


「違うな…これは…」


「魔王様の魔力だ」


「これが…魔王様の…」


 気配を辿ればわかる。先ほどの雷も内部からの衝撃だった。

 つまり、雷は魔王城に落ちたのではなく、魔王城から空に向けて落ちていったのだ。


「なんという魔力…」


 その驚きも束の間、それさえも上回る強烈な魔力が発動する。


「全員対魔力結界を展開!!全力だ!」


 直撃どころか流れ弾でさえない。ただの余波である。それでも、そうしなければ死ぬ可能性があると判断した海軍大将クラーケンは瞬時に叫んだ。

 次の瞬間、魔王城の三分の一が吹き飛んだ。

 別次元であった。

大将格の二人は目を見張った。

若き日に魔王城で大暴れした時でさえ、魔王城に浅い傷を付けるのが精一杯だった自分たちとは次元が違うと驚愕した。

 魔王軍の最高幹部が、流れ弾を恐れて地べたにはいつくばり、当たらないことを祈るだけの戦い。

 これが、魔王と勇者の戦い。

そして、さらに一段と大きな爆音が魔王城を支配した。

今までの激しさが嘘だったかかのような静けさ。

 あの衝撃の魔力のぶつかり合いが終わり十分が過ぎたが誰もが沈黙したままだ。

 あまりにもレベルが違いすぎた。

 この場の全戦力をつぎ込んだところで先の一撃の半分にも満たないだろう。

 集まった幹部たちはただただ沈黙したまま、その場に佇んでいた。


 ぎぃごぉ…


 沈黙を破ったのは、魔王の間の扉の音であった。

 魔王の間から勇者が現れた。

 黒色上下のスウェットにサンダルという格好で。


「ひのふの…おー集まってるな。大体聞いてた通りの人数が集まってるみたいだな、感心感心」


----------------------------------------


 勇者はうむうむと満足げにうなづいている。

 魔王軍の上層部、将官たちが呆然とこちらを見ている。


「待たせて悪かったな。あ、楽にしていいよ。執事ー皆緊張してるみたいだし適当に飲み物を出してくれ」


「了解しました」


「どうした?なんでお前ら黙りっぱなしなんだ?言いたい事の一つや二つあるだろ?」


「呼び出したのは貴様だろう、人間の英雄、勇者」


 この誰も動き出すことが出来ない中、一人が前に出た。


「…うん?君は?」


「陸軍中将、アネストだ。…ふん、なんだその格好は。自宅の寝室でくつろいでいるかのような、常識はずれの格好ではないか。本当に先ほどの戦いは貴様のものか?」


疑いの眼差し、ではなかった。

あくまで勇者の対応を探るような物言いであった。


「うん、勿論。魔王は完膚なきまでに殺したし。君たちがいくらか凄んだところで怖くなんともないしね。スウェット装備でも負ける気もしないし」


事実、勇者と魔王軍の幹部では戦力に天と地の差があった。


「…はっ、勇者風情がよく吼える」


 アネストは魔王軍を代表するかのように弁を振るう。

勇者とまるで対等であるかのように振る舞う。


「…まぁ、どうでもいいか。君たちにいくつか言いたいことがあって、集まってもらった」


 今まで話し続けていたアネストも押し黙った。

 魔王城内においてスウェットでリラックスをしている勇者の姿を見れば、今魔王城で何が起きているのか察しがついているはずだ。

魔王城は、実質勇者が支配しており、今回の戦いは勇者が勝利したのだと。


「これより、俺が魔王を代行する」


「魔王を代行する?」


「何を言っているんだ?」


「魔王軍は敗れたのではないのか?」


「魔王代行?あいつは勇者だろう?」


 魔王軍の幹部と言えど、動揺は早々におさまりそうにない。

沈黙していたが、勇者の発言に思わず言葉が漏れてしまっている。


「魔王は不滅だ。殺すことが出来ない。だが、不滅と言えども、殺すことはできる。一日で生き返ってしまうがな。…だが、正直言って魔王が不在の間にお前らが勝手に動き回って戦争をされたら困る。だから、俺が魔王軍を管理する」


「ふ、ふざけているのか?!」


「いいや、本気だ。安心しろ。俺はお前たちを殺そうとしているわけではなく、あくまで戦争をしないように管理するだけだ」


「ふん、誰が勇者などの命令など聞くか」


 先程から一人しかまともに発言しない。他のものはわかっているのだ。この場で絶対の発言権と命令権を持つのは誰かと。

 強さこと正義である魔王軍にとって魔王に必要な資質は強さだけなのだ。

 その空気の読めない男は…


「…ところで、君名前なんて言ったっけ?もう一度教えて」


「もう忘れたのか。今代の勇者は既に痴呆が入っているようだな。私の名前はアネスト。次の陸軍大将になる男だ。覚えておけ」


 大将の二人でさえ口を開くことができないこの場面でこれだけの啖呵を切るとは、正直感心した。

 一見すれば実力がわかる。

 アネストを見た瞬間、アネストの実力を読み取った。


「度胸は認めるけど、口ばっかりで大将になる器でも腕でもないと思うよ。諦めたら?」


「な、貴様…!!」


 アネストは掴みかかろうと、近づいてきた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「-----準備は良い?」


「いつでもいけるわ」


 ここは魔王城で最も高い位置にある見晴台。

 それに浮かぶ満月が二人を照らし出していた。

 背中に翼を生やした人型のワイバーン。

 弓を携えた二本足を持つセイレーン。

 遠めから見れば、それは吟遊詩人が謳う、物語のワンシーンのようにも見えただろう。

 

 それも彼女たちの憎悪に彩られた瞳さえ目に入らなければの話だが。


「私たちは絶対に許さない」


「魔王代行は魔王との戦いで疲れている上に今なら隙だらけ」


「私達の能力なら」


「殺せる」


 その言葉は契約であるように、いや、自らに、互いに言い聞かせるかのような響きであった。


「行くわよ」


「ええ」


 ワイバーンは空を翔け、セイレーンはワイバーンの背に乗った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…うん?」


 それはかすかな違和感。ちりっと頭の後ろが照りつくような熱さ。

 幾度となく感じたことのあるこの違和感の正体は、明確なまでの強烈な殺意。

勇者は己に向けられた殺気を感じ取っていた。


「アネストだっけ?お前、そこに立ってたら危ないよ」


「何を…」


 轟ッ!


 魔王城の外から壁を傷つけることなく勇者の脳天めがけて真っ直ぐに弓矢が飛び込んできた。


「よっと」


 手にはコップを持っていたため、足を高く上げ足の親指と人差し指で矢をキャッチする。


「しまった…お気に入りのサンダルが破けてしまった」


「なっ、何が…?」


 アネストは尻餅をつき、弓矢が飛んできた方向を見ていたが、そこには壁しか存在せず、アネストの理解は追いつかない。

 更に壁を越えた、奥に存在する暗殺者の存在に気づいていない。

 それも仕方のないことだろう。

 殺意の矛先は勇者だったのだから。

 アネストはただカモフラージュ。

 魔王城の壁を越え、更にアネストを囮にして攻撃してきた。

 しかし、惜しむらくはこれだけ強い殺気を出していれば壁越しでも壁越し、人越しでも関係ないが。

 その暗殺者の存在に気づいていたのは勇者だけはなかった。


「ちっ、あのバカ娘」


 海軍大将クラーケンが頭を抱えながら


「ゆ、勇者よ!待たれよ!」


 空軍大将リュウは勇者を止めるように、大声で叫んだ。


「いや、待たない。ここまで殺意の込められた一撃を貰って放ってはおけない」


 勇者は穴の開いたサンダルを脱ぎ捨て、スウェット姿のまま飛び出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うそっ!?なんであれを防げるの!」


「…しかもコップを持ったままだったから足で止められたよ」


 壁越しの、死角からの一撃はあまりにも簡単に止められた。

 これは彼女たちが持つ最大の不意打ちであり、暗殺方法だった。


「…格が、いえ、次元が違う」


「これだけ条件が揃ってても足元にも及ばないなんて…」


「一先ず逃げるわよ。いくら忌まわしき勇者といえど空まで追いかけて…」


「来れないと思ったのか?」


「「--っ!!!!?」」


「空飛ぶ絨毯って便利だわ。風の精霊の加護を受けているだけあって早いし、本来空を飛ぶことのできない俺でも魔力を通すだけでこの通りだ。…それで、お前ら人の命を狙うってことは、当然死ぬ覚悟も出来てるんだよな?」


 勇者の問いかけに対し、彼女らは


「ええ、あなたを殺せるなら私の命くらいいくらでも差し出してやる」


「同じく、絶対に許さない。魔族の敵め」


「…ワイバーンか」


 竜族ではなく、魔族にカテゴライズされている飛竜タイプ。高速で空を駆け回る空の王者。

 そしてワイバーンの少女が抱えるのは


「セイレーンも」


 海の歌姫セイレーン。

 魔力を込めて響き渡る歌声の効果で、ワイバーンは更に早く飛び回る。

 さすがの空飛ぶ魔法の絨毯と言えど、練度では分が悪かった。


「…なかなかやるじゃん」


「その余裕をぶっ飛ばす!」


「喰らいなさい!!」


 ワイバーンの火炎の息を目隠しにして数十本の弓が全て急所をめがけて放たれる。

 精度といい、数といい、威力といい、見た目とは裏腹に相当鍛えられている。

レンガで立てられた砦であれば一瞬で焼き尽くすであろう業火と音速で放たれる高速の矢。

 一個中隊程度であれば瞬時に全滅するであろう威力である。

 だが、それでは


「…お前ら」


 その言葉を聞いた瞬間、ワイバーンとセイレーンは理解した。

目の前の男が何故勇者と呼ばれ、魔王を倒すことができたのか。


「俺を、勇者をなめ過ぎだ」


 腕を横に薙いだ。それだけで十分だった。

 業火は消し飛び、矢は全て吹き飛んだ。


「う、そ…」


「一対一で魔王を倒す人間がどんな戦闘力を持つのか考えれば、この結果は容易に予想できただろう?」


 それでも少女達は諦めなかった。


「それでも私は許さない!」


 その表情は、魔王を初めて見たときの自分と重なって見えた。


「私たちの…親友の父親を殺したあなたは絶対に許さない!」


 一緒だった。彼女らは勇者と同じだった。

 勇者の表情は一瞬、苦虫を噛み潰したように変化した。


「勇者!待ってくれ!!」


「この子達は私たちの娘。子の責任は親の責任」


「…見逃せなんて言わない。もし、娘が無事で済むならこの首、落としてもらってもかまわねぇ」


 戦いを遮ったのはクラーケンとリュウであった。


「お、お父さん!」


「父上!やめてください!」


 言われてみれば確かにどことなく、似ているところがあるが、恐らく二人とも外見は母親に似たのだろう。


「…あのね、女の子が少しじゃれついたくらいでそこまで怒らないよ」


「じゃ、じゃれ…!?」


「だって、君たちがしたことなんてサンダルに穴を開けたくらいだろ?それくらいで僕は怒らないよ」


 ぽかーんとされた。

 おかしなことは言っていないはずなのに…。


「強いからって調子に乗るなよ!魔族の敵!」


「死ね、糞野郎!」


「くず!ごみ!」


「シスコン!変態!」


 先ほどまで必死になって止めに入っていた大将二人は黙ってしまった。

 それは娘二人よりも正確に勇者の心情を理解したからだろう。

 止めても無駄だと。


「…確かに僕はサンダルに穴を開けたことでは怒らないと言った。しかし、君たちの今の発言と態度が許せない」


「…あっ…」


「殺さないよ。死ぬより恥ずかしい目にあわせよう。お前ら二人とも尻を出せ」


 空気が凍りついた。

 将官級の魔王軍の兵達も、少女二人も何を言ったんだ、こいつは。という表情で勇者を見ている。

 もしかして、何か誤解してないだろうか。


「だから尻を出せ。自分から出さないのなら男に脱がされるという恥ずかしい体験をすることになるが、自主的に脱ぐことをオススメするぞ。最後の良心だ」


 あまりにも理解不能な言動に魔族一同黙ったまま、またも呆けてしまっている。


「尻たたき百発。父親に見られながら泣き喚け」


「「い、いやー!!」」


 その日、魔王城に少女の悲鳴と甲高い、パチィンと鞭を打つかのような音が響き渡った。


「……………死にたい…いや死ねる…」


「…………………」


「喋ることもできないのか。ごめんなさいはどうした?」


「ひっ!」


「………………」


 まだ喋る元気のあるワイバーンは良いが、セイレーンにいたっては一言も発することがなかった。

 

「で、ごめんなさいは?」


「ご、ごめんなさい」


「……………ごめん、なさい……」


 反省の言葉を聴けて満足できた。

 尻叩きをするために抱えていた少女二人を手放し、親である二人に放り投げた。


「はい、ちゃんと躾はするように。親なんだからしっかり頼むよ」


呆然とする父親二人に対し、ニッカリ、と勇者は笑った。

今日はここまで。

最初のほうの話はほぼ完成しているので、またその内投稿することになると思います。

まったりお待ちください。


こんな駄文をここまで読んでくれてサンキュー!

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