勇者の異変
まさかのブックマークありがとうございます。
まったりとしすぎて更新するの忘れてました…。
&他の作者さんの作品が面白くて色々読ませて頂きました。
一日一回、最早恒例行事になっている魔王城の大バトル。もし、普通の城であれ跡形もなく吹き飛んでいただろう。
しかし、ここは魔王城。かつて様々な魔王たちが住み、勇者たちと戦い多くの血が流れた忌避すべき場所。
聖者も悪魔も魔族も人も関係なく多くが死に絶えた。だからこそこの城は複雑に、そして強固なまでに呪われており、例え部屋が吹き飛んでも数時間もすれば元通りになるという。
そもそも大砲を用いても容易く破ることのできない魔王城の壁がここまで破壊されるというのは本来ありえない出来事なのだが。
ドゴォン!!!
大地が裂け、断末魔が木霊する。
人智を超えている勇者と魔王の戦いも決着がついた。
「…ふぅ…」
「お見事です」
「…それ、魔族が勇者に掛ける言葉じゃないよ」
いつものように用意されている上質で柔らかな白いタオルを魔王の執事の手から受け取り、それで顔を拭った。
「日に日に魔王様と戦う時間が短くなっていますな」
最初は24時間以上かかった戦いも、今では一時間以内で決着がつくようになった。
今日はさらにタイムは縮まり、30分程度であった。
「ふん、あいつはワンパターンなんだよ。色々死ぬたびに新しいことを試そうとしているけど、経験が足りていない」
死んでも蘇る特性を持っていることが仇になっているのだろう。
人間であれば必死になって戦うところを、魔王は生死をかけた戦いにしては真剣みが足りていないように思えた。
死にそうになれば火事場の糞力、普段出すことのない集中力や力を出すことがあるが、魔王との戦いで一度もそういう場面に出くわしたことがない。
「一度でも負ければおしまいの勇者殿と、何度も挑戦できる魔王様。どちらが有利かときかれれば後者に決まっているように思えますが…」
「確率で言うなら、実力に大差があるわけでもないし、何度も戦えば必ず負けるだろう。けどね、勇者と魔王の戦いにそんなことは関係ない」
気取っているわけでもなく、極々当たり前のことを言うように
「勇者は必ず魔王に勝つ」
「…なるほどそれが勇者殿の強さなのですね」
執事は感心しているのか、三度頷いた。
ああ、そうだ。魔王を倒す役割が勇者というのならこの世界で自分以上に勇者に相応しい人物はいない。
勇者と自ら名乗るのは恥ずかしいものだが、魔王を殺し続け、「魔王を倒すもの」として、勇者を自称するようになった。
「流石です、勇者殿」
「世辞は良い。それより聞きたいことがある」
「聞きたいこと、ですか?」
「魔王軍に将軍級…将官は何人居る?」
「陸上に10名、海空は各6名で構成されております」
執事はあっさりと答えたが、今の質問は軍事機密に当たる部分だと思うのだが…と考えていると
「はは、気にしすぎです、勇者殿。将棋で言えば既に王を取られた後なのに、手持ちの駒の枚数を言うようなものです。そしてなにより、将軍級の戦力を集めたところで、あなた一人に敵いませんから、秘密にするようなことではありません」
執事は静かに笑いながら言う。
こいつの腹の中はわからん、と気にせず話を続けることにした。
「それでも普通は教えないと思うけどね。…やっぱり陸上が一番多いのか」
「えぇ、やはり一番の敵である人間と戦う実働部隊ですから。海は実質覇権を取っていますし、空は竜族たちと諍いを起こさなければ特に何事も問題がないので」
確かに執事の言うとおりだろう。魔王軍にとっての実質敵となりうるのは人類のみだ。
「彼らは普段は何をしている?」
「訓練等様々ですが…部隊は普段から従軍しているわけではないので海空の将官は比較的暇ですね。それに対して陸は常に命の危険があるので動いている確率がかなり高いです。訓練の指揮か情報のやり取り…ともかく常に仕事をしていると思います」
その情報を聞いて、ふむ、と顎に手を当て、思案を始めた。
時間にすれば数秒。
「わかった。なら一週間後、魔王城に全将官を呼び出せ」
「わかりました。魔王様の名前を出せばほとんどの将官を集めることは…」
執事の言葉を勇者はさえぎった。
「魔王の名前は出すな。勇者の名前で出せ。ただし手紙の封は魔王の物を使え。それで魔王城で何が起こっているか察するだろう」
受け取った者は間違いなく察するだろう。
魔王城は既に勇者の手に落ちた、と。
「しかし…それでは戦争になるかもしれませんよ」
「何の問題もない。一応将官一人に付きお供は5名まで書いておいてくれ。あまり多く来られても面倒くさい」
「他に何かありますか?」
「それだけで良い。後は文面を調整して出席したくなるように書いてくれ」
「御意」
勇者は静かに俯き、執事は静かに笑った。
つづきまーす。
連投予定です。