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はじめからラストバトル

主人公は勇者。長かかった戦いも終幕を迎えようとしていた。


000 最初からラストバトル


 ついにたどり着いた。やっと、この場所に来ることができたと、気づけばうっすらと笑いを浮かべていた。

 ここは魔王城。その名の通り魔族の王が住む城であり、人類最大の敵がここに居る。無論、自分自身にとっても最大の敵である。

他人からは、勇者と呼ばれる。

だが自らは勇者だとは名乗ったことはない。

勇者を名乗るのに相応しい人間だとは思っていないからだ。

魔王に戦いを挑むのはひどく個人的な理由だ。憎悪の対象が魔王だったから魔王に戦いを挑むに過ぎない。

 もしも勇者の役割が「魔王を倒すこと」だけであれば勇者と呼ばれることに異存はないが、「正義の象徴」として扱われるのであれば、勇者と呼ばれるのはお門違いだ。

 正義のためではなく、魔王を倒したいという憎悪を糧にしてきた。だからこそ、単身でここまで戦い抜くことが出来た。他人の願いを背負わされた戦いであれば先の戦いで死に絶えていただろう。

 目的は魔王城にたどり着くことではない。

 魔王に用があるのだ。

 魔王城の中に入ってからの戦闘はわずかに一度のみ。

強者ではあったが、大きなダメージはない。

 その戦い以降、魔族の気配はほとんど感じられない。 

 魔王の間、伝聞の通りであればこの中に魔王が居るのだろう。

大きな扉だが鍵はかかっていない。

扉を開ける手が汗で湿っている。

 柄にもなく緊張していることを感じつつ、一度深呼吸をし、扉を開けた。

 そこには、玉座に座る黒い影があった。


「よぅ、よく来たな。人間でここまでたどり着いたのは二人目だ」


 玉座に座りこむ姿はあまり大きな背丈には見えない。

 むしろ背丈は人間と比べても小さいほうだろう。

 声も中性的で幼いように聞こえる。

 髪は黒く、腰のあたりまで伸びている。

 乱雑の伸ばしており、髪の毛は見るからにぼさぼさで、目を見ることさえできない。

 だが油断してはならない。

 目の前の存在は魔王。

 この地上において最強の存在の一つ。

 目の前に立っているだけで今まで闘ってきたモンスターとの格の違いがわかる。

チリチリと、背中が焼けるかのような錯覚。

 何度も死線を潜り抜けてきたからこそ理解できる。

 一瞬でも油断すれば死ぬ。

 それだけ圧倒的なプレッシャーを感じていた。


「まぁ、そう気張るな。久しぶりの客人なんだ。ゆっくりしていけよ。それに戦いの連続で疲れただろ?茶でも飲んで一息ついてから戦おう」


 …毒気を抜かれてしまった。なんだ、こいつ、本当に魔王なのか?力で魔族を統制し、人類の敵対者で居続けているはずの存在が、なんで、こうも…。と思っていたことが露骨に表情に出ているが、魔王はそれに気づかない。


「しまったな。執事は先ほどお前が倒したな。あいつのことだから死んだということはないだろうが…。仕方ないメイドにでも…」


「魔王と一緒にお茶を飲む趣味はない」


 それを聞いた魔王は眉間にしわを寄せる。


「随分とつれないことを言うな、勇者。俺はお前がここに来るのを楽しみにしていたんだぞ」


「楽しみに…?」


「あぁ、俺と対等に戦える奴が現れると聞いてずっと楽しみに待っていた」


 魔王はニタリと笑う。


「今までにもそれなりに強い奴は居た。多少の苦戦をすることもあった…それでも俺を本当に楽しませるほど強かった者はまだ居ない」


「それが…」


「なんだ?言いたいことがあるなら言ってみろ」


「それがお前が…今まで人を殺してきた理由なのか?」


「そうだけど」


 良かった。実は魔王が良いやつだったらどうしようとか考えたこともあったが何の問題もない。

 躊躇せず殺すことができる。

 体にぐっと、力が漲ってきた。


「一つだけ、聞かせてくれ」


「良いだろう、なんでも聞くがいい」


「二年前…のことを覚えているか?」


「はて?二年前、何のことだ?」


「二年前に戦った勇者のことだ」


「おー、勿論覚えている。私が戦った中でも間違いなく人間で一番強かった。ま、勝ったのは俺だったけどな」


 胸を張り自慢げに語る。


「強いだけじゃなくて執念深かった。何度も立ち上がって…初めて人間が怖いと思った」


「そうか。なら、いい」


「もしかして復讐か?」


「…彼女は俺の姉だ」


「そうか。それなら期待できるな」


 笑う。嗤う。まるで負けることなんてありえないと、殺し合いをスポーツのように楽しんでいるようにしか見えない笑い。

 命のやり取りを行うのは、どれだけ経験を積もうと緊張を伴う。しかし、魔王からはそんなものはおくびも感じられない。

 死に対する恐怖も、緊張感もない。


「お前、絶対に負けないと思っているだろ?」


「当たり前だろ。魔王様が負けるわけないだろ」


「自惚れたまま、死ね」


「くはっ、楽しませろよ!」


 その瞬間空気が爆ぜた。


--------------------------------------------------------


 戦いは丸一日続いた。

 倒れ伏せる魔王の遺骸は灰になり、そして消えていった。

 戦いは極めて激しく、世界でもっとも堅牢といわれている魔王城が、現在では半壊している。とはいえ、この世界で唯一と言われる自動修復機能を持つ魔王城なら今日中にでも元通りになっているだろうが。

 兵どもが夢の跡、ではないが願いであるはずの魔王を殺したところで心は何も満たされず、空虚なままであった。


「お見事です。勇者殿」


 パチパチパチと白い手袋が暗い城の中でもはっきりと目についた。

 その奥から現れたのは魔王の腹心である魔王の執事。実質魔王軍のナンバー2と噂されていたが、魔王城に入るときに、魔王相手以外では唯一戦闘をした相手だ。


「魔王の敵とか言って俺を殺しに来たのか?」


「いえいえ、まさか。魔王様に勝てるようなお方に私が勝てるわけがございません」


 半分は本心だが半分は嘘だろう。これだけ体力魔力、そしてなによりも精神を消耗した状態なら十分に勝機があるはずだ。


「なら、何の用だ?」


「こちらに湯浴みの準備ができております。いえ、先に傷ついた箇所を治癒魔法で治しましょう。深手を負っているようですし、ささ、こちらです」


魔王の執事は何故か腰低く、まるで客人をもてなすような態度で治療と風呂を勧めてきた。


「……お前は……魔族、なんだよな?」


「正真正銘魔族ですが、そうは見えないでしょうか?」


「いや、魔族にしか見えないからこそ、戸惑っているんだが…」


自分の王を殺した奴を目の前にしてこの態度はおかしい。特にこの男は魔王に対しての忠誠心が強いように思っていたからこそ余計にそう思える。


「あぁ、これは魔王様からの言伝でオレに勝つ奴がいれば手厚く歓迎しろということです。特に真っ先に治療を施し、風呂を用意し、食事を振舞えということでした」


「…なんだ、あいつ、負けるわけはないとか言って、負ける覚悟はできてたのか?」


「少なくとも殺されることは覚悟していたようです。先の迷いの森でのうわさ、空澄の砦での英雄譚、今度の勇者は本物だろうと魔王様も心待ちにしていました」


「…自殺願望でもあったのか?」


「…あながち否定はできませんね。オレは勇者に殺されてみたいといつも言っておられましたから」


「そうか」


 戦っている最中はずっと笑っていた。

 楽しんで戦っていたのだろう。

 最後に心臓を貫き、首を切り倒した時でさえ…いや、もうそれはどうでもいいか。終わったことだと勇者は自分に言い聞かせるかのように首を振った。




 勇者は執事に案内されるがままに治療を施され、風呂で汚れを落とし、腹いっぱいに料理を食らった。

 ずたぼろになった体はその疲れを癒していく。

 その感覚に、嫌気がさす。

 身体はずたぼろだが、妖精の加護を受けているこの体は、翌日になれば大抵の傷は治っている。


「…復讐が…終わった」


 それが、今まで最大の目標だった。

 あまりにもあっけなく、たった一日程度の死闘でなくしてしまえるほどの熱量ではない。

 未だに燻っている。いや、今にでも爆発してしまいそうだ。

 達成感がないわけではない。

 けれど、まるで満たされない。

 だが、そんな感情とは裏腹に心身ともに消耗しきった肉体は眠りを求めていた。

 執事はお疲れでしょう、ふかふかのベッドを用意しているのでお眠りくださいなどと言っていたがまさか魔王城でふかふかなベッドの上で眠りに付く日が来るとは夢にも思わなかった。

 …なによりも暢気に敵の本拠地真っ只中で深い眠りに付こうとする自分が信じられなかった。

 燃え尽きてしまったんだろう。もう、生きていても目標もない。

 だから、魔王城で眠りについて、誰かに寝首をかかれてもよいだなんて心のどこかで思っているのかもしれない。

 満たされない。

 けれど、何かを求める気力も沸いてこない。


「からっぽ…だな」


そう呟いて、泥沼のように深い眠りに付いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おはようございます、よく眠れましたか?」


「……あぁ、よく眠れたよ」


 目の前には昨日の執事ではなく、メイド服を身にまとった女性が立っていた。

 女性にしては身長が高く、理知的な雰囲気が漂う。

 魔王と同じように長い黒髪だが、こちらは綺麗に纏められており、清潔感が漂っている。

 年はいくつか上、20前後だろうか。


「それは良かった。こちらに食事を準備しています。東の国の料理ですがお口に合いますか?」


「…東の国の朝食って…」


 東の国の食事は健康的なことで有名で大陸では人気はあるもののほとんど調理できる者がいない珍しい料理である。

 まさか魔王の城でそのようなものが食べられるとは夢にも思わなかった。


「…口に合いませんか?」


「いや、東の料理は好きだよ。最近は食べてないけど、小さい頃に食べてた東の料理は何を食べても美味しかった」


「…それは良かったです。ではお召し上がりください」


 盆の上に東の国の料理を載せている。

 メイド服を着た女性はひどく緊張した様子だが、十人に聞けば十人が美人だと答える美貌だ。

 すこし、もったいないなと思うが、目の前に魔王を殺した勇者が居るのだからそうなるのも当然だろうし、魔王城で笑顔が欲しいわけではない。


「…ありがとう」


 目の前に並べられた料理は昔よく食べた東の国の料理だった。どれも好きなモノばかりだった。


「…どうでしょうか?」


 おそらく料理の味についての感想を聞いているのだろう。ずいぶんと心配そうにしている。


「…美味しいよ。うん」


 掛け値なしに美味かった。懐かしいよな、暖かい味。

 こんな状況下でも心の底から暖まっていく、そんな味だった。


「そうですか」


 その一言だけだったが、そのメイドは嬉しそうに微笑んだ。






 食事を終え、もう一度魔王の玉座を見ると決めた。

 足取りは重く、空虚なままだ。

 昨日の激しい戦いの跡はほとんど残っておらず、魔王の玉座へ至る扉も新品のように綺麗になっていた。


「…昨日の戦いが嘘みたいだな…」


 本当に嘘みたいだ。周りを見渡しても、魔王城の復元能力から、すでに戦いの痕跡は残っていない。

 魔王が座っていた玉座にも、昨日と同じ影があった

(・・・・・・・)。


「やぁ、勇者。よく寝て、飯も食って、体力は十分に回復したか?」


 本当に夢だったのか?これは、幻覚ではないのか?


「なんで…」


 そこには昨日倒したはずの魔王が立っていた。


「おいおい、言っただろ?負けるはずがないって。人の話はちゃんと聞くように教わらなかったのか?」


 笑う、哂う。

 やはり、魔王は魔王らしく哂う。


「私は不死身の魔王、木端微塵になってもごらんのように24時間で完全に元通り。どうした勇者、震えて。怖くなったのか?」


「……神様、感謝します…」


 人生で神とか言う不確かな存在に感謝するのはこれで二度目。

 一度目は姉の弟に産んでくれたこと。

 一度殺した程度では満たされなかった復讐の感情を何度もぶつけることができる最高の相手を用意してくれたこと。


「何度でもぶっ殺してやるよ、糞魔王」


「それでこそ勇者だ!!」


 空虚な勇者の心を殺意で満たし、二度目のラストバトルが始まった。

視点、文章がむちゃくちゃなので、全話大幅修正すると思います。

人様に読んで頂くレベルのものではありませんが、まったりと投稿し、修正していきます。


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