処刑
遠くで音楽の音がする。それは体育祭の時、吹奏楽らが奏でるような旋律だ。
力強く、団結的で、大声を出しているというのに終の音がはっきりしている。
薄く目を開けて、状況を拾おうを視界を広げる。
遠くには石造りの住宅が立ち並び、それは寒い山に放り込まれて、少しでも寒さを和らげようと身を寄せ合い体をくっつける可愛い子供たちのようだ。
住宅地の手前には人が並んでいる。8割が金髪を占めているがその1割は金髪ではない髪色の人らだ。例を挙げるなら一番最初に目に入った、人混みのど真ん中にいる赤髪の女性。ところどころ生え際から毛先まで真っ黒に染まっている。別の意味で赤黒い髪の女性だ。
ずいぶん後ろの方には、ピエロのようにとんがったナイトハットに、少し漏れる深海のような深青色の髪をしていた男性。男性というよりは青年に近い。
髪や瞼の陰に隠れてよく見えない目は此方を向いているというのに、それはまるで視界全体をじっくり見ているかのように透かし、金髪の人々は此方を忌々しげに見るというのに、その青年はそれも視界にいれ何かを考えているように見える。
見ているだけでも敵にしたくないタイプだ。
他にも赤白い髪色の、メモを片手にカメラをぶら下げた人や、深緑の髪をフードに隠した人たちがいた。
金髪でも金髪以外の他の髪色でもない残りの1割は、髪を完全にフードや全剃りをしている人や、人間なのかと疑いたくなるような容姿をした人だ。
ちなみにパッと見て思ったことだが、人が思ったより少ない。
後ろの方に広がる住宅地は、家が密集しているが手前の人々と比べると、どうも一家で一つ家を買ったとしても半分の家は使わないだろう。いいや、1人1つ家を買ったとしても余る。
ここまで考えて、私はある疑問が2つ生まれた。
1つはやはり髪色だ。
金髪までなら私はアメリカなどの白人だと言い切れるが、金髪に金目は聞いたことがない。
此方を睨む黄色は太陽に反射され、目が痛い。先程の辛い体験を思い出すようで、発狂しそうだ。
それに赤黒い髪や深青髪はもっと不思議だ。白に近い髪色はアルビノという病気だと言い張られれば納得がいく。
アルビノは体毛に色素が回らないため白く、肌や目は太陽の光など刺激に弱いということが特徴だと、本でちらりと読んだことがあった。
2つ目は人間のような奴だ。
カエルや犬のよう少し出ているのではと凝視したくなる目や、口裂け女のように耳まで裂けた口や、ハ◯ー・◯ッターのヴォル◯◯ートのようにぺちゃんこになった鼻など、例を上げれば上げるほど疑問が浮かび上がるその人。障害者だと言われれば渋々納得するだろう。
もしこの疑問が、私が拉致されたのと関係があるというのだろうか。関係があるとしても、私には憶えがない。普通にゲーセンにいってゲーム、普通に家でゲーム、普通に学校に通っている。
今の高校はなんとなくで入った高校じゃない。友達がいるから入った高校でもない。ただ本当に将来を考えて入ったそこそこ頭のいい高校だ。ゲームに課題に舞いながら頑張って最下位にならないようになんとなくで過ごしてる。
音楽も終わり、右の台で何かを熱弁しているような老人。
黄色の色素は失せ、クリーム色のヒゲをしている。
語り終えた老人が頭を人々に向けて下げ、大きい松明をもった男2人が私の周りに広がる木の山の前に立った時、自分がいま置かれている状況を確認できた。
私はいま、十字架に打ち付けられたキリストのように何かにロープで繋がれている。
私は何も知らない、わからない。
助かるかもわからないのに、日本語で「助けて」「嫌だ」「許して」と泣き叫び、両手に繋がるロープをギチギチと軋むように鳴らして揺する。
老人は高笑い、男は松明を私に向けて投げた。
蛇のようにクネクネとオイルにそって燃えつたる炎、水を得た魚のようにあっという間に私の足もとまで燃えた。
私は魔女でも大人でもない、子供だ。学生だ。
まだゲームがしたい。
私が零し落とす涙を唸ってなんの変化も見せず燃やす炎。
私は固く目を瞑り、「これは夢だ」と言い聞かせた。
頭の上から冷たい水がかかる。耳元で唸り日に触れて悲鳴を上げ、打ち消し合い足の下に広がる木屑の山にいた火も消し飛ぶ。
頭から足のつま先まで濡れてしまった。
ワイシャツは下着と肌に張り付き、傷口を湿らせピリピリと痛みをあげる。スカートは水を含んで重く感じた。
....今日は散々だ。