無人島で相棒と猫缶55個と
(……カモン、おいで、おいで、うさちゃん。こっちにおいで)
息をひそめて見守る。
目の前の草原からぴょこっ、ぴょこっと茶色いふわふわの兎がこちらへやってくる。
私が隠れている潅木の茂みの前には深い泉があって、兎はたぶん水を飲むつもりなのだ。
澄んだきれいな水が常にこんこんと湧き出ている。水は冷たくておいしそうだ。それほど大きくない泉だが、底が見えないほど深い。
私はこの泉で都合三回ほど死にかけているので、正直あんまり近寄りたくはないのだが、生きていくためにはそんなトラウマは振り捨てなければならない。
この泉は、島で数少ない真水が湧いている。その為、動物たちの水場になっているので、私はここを自分の狩り場の一つにしていた。狩り場なんていうとえらそうだけど、自分が狩られる方に回ったこともあるので私じゃない生き物にとってもおそらく狩り場だろうと思う。
なにもしなくても動物が寄ってくる水場に、更に寄せ餌としてキャットフードをまいてある。
ここ三日ほど、私が何とかできるような食べ……いや、生き物に出会わなかった為の苦肉の策だ。
キャットフードはよっぽど強くこの島の生き物を吸引するらしく、キャットフードをまいて獲物が寄ってこなかったことは一度もない。
問題は獲物が寄ってきすぎることだ。この兎くらいの大きさなら私にも何とかなるが、この島には私より大きな生物がたくさんいて、それがふらふらとやってくることもあるので要注意だ。
(あと3歩!)
私の目の前で、兎は私がデッドラインと定めた地点を越えた。
「やった。……ステーキ ウェルダン ヒョウメンカリカリ!」
勢いよく呪文を唱える。
うん。これ、呪文なのよ。魔法の呪文。なんで私に魔法が使えるかなんてしらないんだけど使えるモノは使う。仕組みとか原理とかまったくわからないけど、そうでないとこの島では生きていけないから。
兎の身体は燃え上がり、ビクンと大きく身を震わせた兎はそのまま地面に落ちた。
「今日の夕食、げーっと!」
とったどー!!と叫ぶべきかもしれないけれど、それはやっぱ恥ずかしい。
ここはたぶん無人島で、ここに来てから人っ子一人見かけてないけどね。
「とりあえず、綺麗に解体して塩水で洗ったら炙り焼きか……蒸し焼きもいいなぁ」
脂の乗ったうさぎは最高においしい。
しかも、これくらいのサイズは柔らかくて最高なのだ。
(ラッキーだったなー)
私は半分毛皮がこげている兎の角をもんずと掴む。角?と疑問に思うかもしれないけれど、ここにいる生き物たちは、多かれ少なかれ牙や角を持っているので気にする必要はない。
単に動物というよりは、たぶんモンスターとか魔物とか、そういう生き物なんだと思う。
まあ、私にとっては等しく食材だ。魔物であるかどうかはたいしたことじゃない。問題は、おいしいか、まずいかだけ。
キャットフードに寄ってくる他の生き物とかちあわないように少し奥まった場所で、ここに来た初日に拾ったナイフをつかって解体を始めた。
(どのくらいたったのかな……)
半年?ううん、一年?いや、もっとかも。
何度も死に掛けたり、意識不明になったりするうちに、時間の感覚はまったくなくなっていた。
この島に四季はない。あるのは、緩やかな雨季と乾季だけ。そして、その移り変わりがどのくらいのサイクルで行われているものなのかまったく私にはわからない。
とりあえず、こういった作業もかなり手馴れてきた。
(私も強くなったよね……)
腕力な意味でもだけど、精神的な意味でも。
■■■■■
食べることが生きることと直結しているのだと私が身にしみて実感したのは、ここに来てからだった。
ここが夢の中なのかそうでないのか、私には今でも判別がつかない。
夢だったらもうとっくに醒めていてもいいと思うし、夢ではないのならなんで私がここにいるのかまったくわからなかった。
とはいえ、私に呆然としている暇や泣き喚いている暇や考え込んでいる暇はなかった。
なにせ、泣いてようがぼーっとしていようが、おなかはすくのだ。
そして、私はおなかが減るということが一番苦痛だと感じる類の人間だった。
こんなわけのわからない場所でモンスターに襲われたり、時には生命の危機を覚えたりしながらも、私のおなかはぐーきゅるると激しく自己主張をする。
あまりもの自分の食い意地に、一瞬眩暈がしたほどだ。
けれど、紆余曲折ありつつも、食い意地はすべてを凌駕した。
おなかが減っていると大概のものは口にいれられるようになる。
毒を含んだものを口にしてしまったこともあれば、食べ合わせが悪かったのか高熱を発してしばらく意識不明になったこともある。
わけのわからない生き物をさばきながらいっぱい泣いたし、それを食べておいしいと感じたことにも泣けた。
さまざまな人体実験やそうでない実験を我が身で繰り返しつつ、私は今の私になった。
たぶん、今の私を見ても、職場の同僚はわからないだろう。
ここに来る前の私はややぽっちゃりしてて、体重は60キロを越えていた。でも、いまはたぶん50キロ前後。もしかしたら、夢の40キロ代に到達してるかも!な素晴らしいプロポーションになった。
過酷な運動のおかげで無駄な肉はまったくついていない。何せ、毎日の食料調達が命がけなのだ。肉がつく余裕なんてまったくない。かつては敵だった体重計がここにないことが悔やまれてならない。
(おいしくいただくからね、うさちゃん)
この角のある兎の顔が凶悪で良かったと思う。そうじゃないと食べるのにちょっとだけ罪悪感がわくところだった。まあ、どっちにせよ食べるには違いないんだけど。
内臓を全部捨てて、綺麗に身を洗う。
淡いピンクの肉は腿と肉身とに分けて、香りの良い葉に包んだ。
この葉で包むと肉が腐りにくくなるし、このまま蒸し焼きにしてもおいしくいただけるので重宝している。
(謎空間にいれておけば腐らないんだけどさ)
食材を保管しておく大きな冷蔵庫が欲しいと願った時、ひょんな偶然でそれが叶ったのにも驚いた。
魔法なのか何なのか、保存を願いながら物に触れるとそれが四次元ポケットのような謎空間に収納されるのだ。
これまで、何もなかったかのように消えてしまっていた、倒したモンスターの牙だとか角だとか皮もそこにちゃんと入ってた。
(なんか、ゲームとかみたいなんだよね)
四次元ポケットに気付いたのは、視界の端の文字を見つけたからだ。
倒した動物というかモンスターは、素早く解体しなければそのうちに消えてしまう。でも、ただ消えるだけじゃなくて何かを残すことがある。
これまでの実験の結果で、解体をしなければ残るのは身体の一部だけ。これは生き物によって違う。
でも、普通に自分で解体すれば肉も角も骨も皮もちゃんと残るのだ。
ティロリロリーンと電子音がする。
最初は何だかわからなくて怖かったこの音はレベルアップやメッセージのお知らせ音だ。電子レンジや電気ポットのお知らせ音のようなものだと私は認識してる。
だってさ、『調理スキルup↑称号『究極の料理人』を取得しました』とか流れてきても何のことか意味わからないから。
究極の料理人って?え、美味しんぼ?そもそも、調理スキルって何?だから。
全部ひっくるめて、ようは自分の何らかの技能が上がった時のお知らせなのね、と思っておけばいい。
どれだけスキルとかレベルとかがあがったとしても、比べる対象がなければレベルなんて意味がないものなんだから。
解体した場合、これを収納したいと思うと空中に淡く文字が浮かび上がる……たとえば、この兎の肉の場合は『ホーンドラビットの肉×3』で、これを仕舞うというイメージをすれば、ちゃんと四次元ポケットに仕舞われる。
四次元ポケットの中身を知りたいと思うと、まるでモニター見ているかのように空中にポケットの中にある品物のリストが投影される。取り出したい時は品名に触れるかイメージすればいい。慣れるとものっすごい便利!
四次元ポケットの中には、よくわからないモンスターの材料でいっぱいだけど!
(これって、ゲームの中に入っちゃったとかかなぁ?)
こんなことになるなら、ゲームとかもっとやっておけばよかった。
某マリオで一面クリアするのがやっとだった子供時代から、ゲームは得意じゃなくてもっぱら観戦専門だったのだ。
見るのは好き。すごく画面綺麗だし、FFのオープニングとかエンディングとか感動した!
弟がやってたゲームのムービーは全部一緒に見せてもらったよ。
(なんか、昔読んだ本にこんなのがあったような……)
ゲームっていうか仮想現実の中に入り込むのがあった気がする……詳細覚えてないんだけど。
(いや、でも、いくら私があんまりそっち方面に疎いからって、ゲームの中に入れるような技術があったらきっとものすごい話題になってるはずだよね)
だって、このリアル感は3D映画なんて目じゃないよ。
おなか減るし、怪我するし、毒性のあるモンスター食べれば死に掛けるし!おかげで右手の爪は何もしてないのにカラフルだ。毒で死に掛けるたびに、爪が一本ずついろんな色に染まる。
モンスターは食べないでしょ、とか言わないでね。木の実や草や水だけじゃあ餓死するから!
自分の手で生き物を殺して食べる葛藤なんて、ここにくる前からなかった。
だって、私は料理人で、そこの時点はもうとっくに通りすぎていた。
『食べる』ことが『生命を食べる』ということを私はとっくに自覚していた。
(まあ、気恥ずかしいことを言うと、『食べる』っていうのはある種の神聖さがあると思うんだよね)
命をとりこむこと。
その命は私の中で生き続ける。私が生きる限り。
(モンスターもいっぱい食べたしなぁ)
私が特に好きなのはこの兎ちゃん、それと、あと大きな魚?いや、あれ、足あるんだよね?羽みたいなのもあるし。
モンスターの分類はよくわからない。魚なんだか鳥なんだか、とりあえず水の中から突然現れるのだ、アレは。
そう。ちょうど、こんな風に。
■■■■■
「……これで、3回目ーっ」
とりあえず、私は水場から遠ざかる方向に全力疾走する。
逃げてるわけじゃない。
水のあるところだと、なんとなく魚っぽいあれに有利なのだ。
一応、こういう時の対抗策くらい私だって考えてるよ。ここでの生活も結構長いし、あれとは3回目の遭遇だからね。
森との中間地点、ところどころきらきらしている岩場を背にする形で羽と足のある魚のような生き物に対峙する。
岩場にはほとんどモンスターがでない。
このところどころキラキラしているこの成分のせいだと思うんだけど、検証しきれてない。
「お魚さん、私を食べるのは千年早いって教えてあげるから!」
私が食べる方だということ。
おいしく食べさせてなんかやらないこと。
私を食べようと考えたことを後悔させてやる。
そして、私は相棒の名を呼んだ。
「セフィロス」
「あいよーっ。呼ぶのがおっせーぞ、この食欲魔人。なんだ、俺っちに遠慮してたのか。俺っちに遠慮することなんかねえぞ、頭ん中が食い気でいっぱいのヘタレ女とはいえ、おまえは俺っちのご主人様だからな。俺っちは世界で三本しかない世界樹の杖の、最も強いモノ!!おまえのような異世界人でもばっちりフォローできるってわけだ。ふっふっふ、驚いたか。さあ、俺っちを崇め奉れ」
「……………」
私は無言で呼び出した杖を四次元ポケットにしまいなおそうと、手を動かそうとした。
「わーーーーーーっ、待て待て。せっかく出れたんだ。俺っちだってあんな時間の止まった空間にずっと収納されてるのはごめんだぜ。頼むから、使ってくれよー。退屈でしょうがなかったんだよー」
「じゃあ、使ってあげるけど、ちょっと黙っててね。あんまりうるさいと、手が滑ってあいつに投げつけちゃったり、手が滑ってついついへし折っちゃたりするかもしれないし!」
私はにっこり笑う。
「も、もちろんだ、ご主人様」
銀色の棒は、こくこくとうなづいたように見えた。
この場にはまったく不釣合いなこの銀色の棒は、『セフィロスの杖』という。セフィロスって誰?とか思ったけど、人名ではないのかもしれない。
とりあえず、本人が否定しないので、私はこの杖をセフィロスと呼んでいる。
これは、今、私が無断使用している小さな小屋の先代の住人の忘れ物だ。
足が小さく震えてる。
うん。全然、余裕なんかじゃないよ。
この魚、確かにおいしいんだけど、強いから。
一回目はまだセフィロスに会う前で、余裕で死に掛けた。カルカンでやっつけた。カルカンは最高の撒き餌であると同時に最高の武器でもあった。
二回目は炎系の魔法を覚えたばっかりの頃で、いきなり出てきたので反射的に思いっきりぶっぱなしてしまった。海岸にクレーターができて、魚の3分の2が吹き飛んだ。
「なあ、なあ、ご主人様よ、あんた、また、なんでまたこんな大物に狙われてんだよ」
「カルカンのせいかな?」
「なんだ、ご主人様、ふるえてんのか?足がぷるぷる仔鹿ちゃんみたいだぜ。あはははは。変なとこチキンだよなぁ、ご主人様は」
「うるさい」
何でもものすごい杖らしいけど、とりあえず私には口うるさいムカつく相棒だ。
なんたってこいつは余計なことしか言わない。
そりゃあね、最初にこれを見つけて会話を交わしたときは嬉しくて涙を流したよ。
だって、ここに来て誰にも会ってなかったし、誰とも会話を交わしてなかったから。
独り言にだって限界がある。そのうち、しゃべれなくなるんじゃないかと思って、怖くて泣いたこともある。
一人暮らしをしてたって、普通に社会生活を営んでいれば、毎日当たり前のようにいろいろな人と言葉を交わしてる。
それがどんなに心慰められることだったか、こんなことになるまではわからなかった。
一人暮らしで、恋人がいなくて、友達もそれほど多くなかったとしても、それでも周囲に人がいれば、それだけで世界は全然違うものになる。
真実『一人』になったことで、初めて私はそれを知った。
だから、これ……セフィロスと会った時、私は本当に嬉しかった。
自分が会話に飢えていたことを知った。
杖がしゃべるその不思議よりも、自分と会話を交わしてくれる存在のありがたさのほうが上回った。
……三日で後悔したけど。
「なあ、かるかんって、あの魔素でできてる異世界の食いモンだろ?まーたあれを撒き餌につかったのか?もったいないって言っただろう。異世界のモノは普通の何倍もの魔力が宿ってる。特にあのかるかんってのはすげえ!あれを一つ全部食ったら、大概の生きモンは魔力破裂おこすだろうぜ」
「魔力破裂?」
「そーだ。魔素ってのは許容量以上取り込めば、猛毒になんだよ」
私は、最初にここに来たときのことを思い出した。
あれは魔素の取り込みすぎだったんじゃないだろうか?
「まあ、おまえはふつーに魔生物喰ってるし、すっげえ上位のも平気で平らげてるから、問題ないのかもしれねーが」
「カルカンは私の食べ物じゃないから!」
変なこだわりかもしれないけど、私はどうしても猫缶が食べられない。
時々、撒き餌に使うのと大きなモンスターを倒すのに使ったくらいでまだあと50個以上残ってる。
(モンスターは食べられるんだけどなぁ……)
私の中では、モンスター……魔生物は、食材分類であり、猫缶……ペットのエサである。
両者の間には越えられない大きな壁があるのだ。
「じゃあ、誰の食いモンなんだ?」
「猫っていう愛玩動物専用の食べ物よ」
「ふーむ、ねこってのは、おそろしい魔生物なんだな。っていうか、そんな魔生物をペットにするなんて、俺っちにはおまえら種族のがずっと恐ろしいけどなっ!!」
このおしゃべりな杖の頭の中で、猫はどんな恐ろしい魔物になってるんだか知らないけれど、私は否定しなかった。何せ、目の前には私を食べようと狙っている存在がいるのだ。隙を見せたらやられる。
「まあ、いい。後で、俺っちにそのねこかんとやらをくれ。そろそろ俺っちもフルパワー充電といきたいところだからな。その代わり、こいつは俺がやっつけてやる!」
「……魔法使うのは私でしょ」
「だからー、100倍増幅してやんよ。俺っち、かっこいー」
誰も褒めてくれないから自分で自分を褒める。器用な杖である。
「こないだの火を吹くトカゲみたく跡形もなくってのはダメだからね」
「大丈夫、大丈夫。俺っちに任せとけ」
相変わらずの軽さだが、信頼はしてる。
「せーの、ルイベ、シャリシャリ、チョットトケ……。ぎゃあああああ、こっちくんなーっ」
魔法の呪文を唱えると、目の前の魔生物は私のほうに突進してきた。
「バカ、もう一回だ!」
中途半端な呪文でも、一応、魔法は発動した。
けど、足止めにもならない。
私は絶叫にも似た声音で、声を張り上げた。
「ル、ルイベ、カッチンコッチン、シバラクトケルナっっ!!!!!」
魔法はつまるところ、イメージ力だ。
だから、本当は呪文は何だっていい。
必要なのは、どういう魔法なのか、それがどの程度の力のものなのか、結果はどうなってほしいのか。それを明快にイメージすること。
何度も試した結果、この三つの要素があれば魔法は発動する。
私の場合、料理に絡めるとイメージしやすいらしい。
「×100!」
「きゃああああああああああっ」
私は悲鳴をあげる。
目の前で、魚の魔生物は足元からぴしぴしと凍り始め、そして、あっという間に完全に凍りついた。
「おい、ご主人さまよ、おら、もう大丈夫だから目を開けろよ」
セフィロスの声に、おそるおそる目を開く。
「ひっ」
喉の奥が思わず鳴った。
へたりこんでぺったりと岩場に座り込んだ私の目の前、ほんの30センチのところに、ガバリと大きく開いた口があったから。
「だいじょーぶだって、それより、ご主人様、それ、また喰うんだろ?解凍してやんから、さっさと解体しろよ」
「あ、うん!フライに焼き魚、刺身はちょっと怖いからルイベでいいや、あとそれから、かまぼこにちくわ!保存食もいいよね。調味料がまともになくても、塩さえあれば意外にイケちゃうんだよね」
「……………」
「あっちのさ、崖の上になんかライムみたいな実があったよね。蒸し焼きにして、あれと塩であっさりいただくのもいいよね。あー、塩はつくったばっかりでいっぱいあるから塩釜もいいなぁ。ああ、迷う~」
淡白な白身だからね、何にしてもおいしいんだよ。
松葉焼きとかできればいいのに。柑橘だけじゃなくて、梅があればなぁ。
あと、バター!!ここの生き物はみんな、私を見ると襲ってくるので乳をとることができないのだ。
香辛料欲しいよね。
セフィロスが解凍してくれた魚を、私は捌きにかかる。
羽とか尻尾とか足とかは何かの材料になる。あ、骨も。
でも、私が必要なのは身だから!
「切り身どのくらいできるかな。こないだは食べるとこあんまりなかったもんね」
今回は前回の反省をこめて氷系の魔法を使ってみた。
凍らせすぎて壊れちゃった部分もあるけれど、それでもほとんど丸々残ってるよ。
「これで三ヶ月くらいはお魚に困らないんじゃない?」
お魚ばっかりだと飽きるから、お肉もちゃんと狩るけどさ。
「……なんで、俺っちが敗北感を感じるんだろうな」
「まあまあ、セフィロスにはカルカンあげるから」
「おうっ!」
杖は、俺っちパワーアップじゃん!とグフグフと笑っていたが、私はきれいにスルーした。
異世界無人島生活 たぶん一年くらい。猫缶 残り55個。
相棒はおしゃべりな杖。
倒したモンスターの数 数え切れないくらい。
私は、わりとこの世界に適応しつつあった。