目覚め
男は目を覚ました―――
それは、彼が想像も出来ない程の時間が経過した後であったが、果てしなく広がる宇宙にとっては――ほんの一瞬の出来事である。
そして新たな惑星――人が住める安住の地を求めて永く宇宙を彷徨った彼の旅は、その目覚めと共に終わりを告げた事になる。
「まさか、本当に目を覚ます事があるなんてな……。」
想像も出来なかった。宇宙探索を可能にした程の人類の科学力で、長年捜し求めても見つける事が出来なかった新たな大地――それを今、自分が……いや…この宇宙船が発見したのだ。
「宇宙は広い……。」
その事実に、まだまだ人類が知らない世界がこの宇宙にある事を思い知らされる。
彼は、徐々に戻ってきた体温を確かめつつ、仮死状態を保つ為だけの、そのカプセルを出る――瞬間、目に飛び込んできたのは…モニターに写る船外の映像だった。
それは―――どこまでも広がる大草原だった。
植物が生息している……その現実は、この星には大気があり水もあるという証拠。そしてきっと――太陽も。
「遂に見つけた……辿り着いた……我々の、第二の地球に……。」
彼は、喜びで心が躍った。当然だ、これで人類は救われる……。ならば、一刻も早くこの星の調査を進めて、本国――地球へと結果を報告したい。なぜなら、それは彼の義務であり、彼自身が望む事であるから。
この船に据え付けられた、数々の計器類を確認する……。特に異常は無い。そして唯一、彼が操作出来る端末を立ち上げる。
『端末』と言っても、キーボードがデスクに張り付いているだけだが、その目の前に音も無くモニターが立体映像で現れる。
「この星の、データは……。」
既に解析済であろうそのデータを、モニターに表示させる……。現れた数値は全てオールブルー。それは、この星で人間が暮らせるという事を、機械が判別してくれた結果である。
推定データであったが、この星はかなり小さく、直径は約3万5千キロ……地球の1/370程度であった。
「随分と狭い星だ……。」
彼は一瞬そう思ったが、現状――自分が飛び立った時点での人口を考えると充分な広さである為、問題は無いとした。
そして、人が快適に暮らせる重要な要素である、重力なのだが……なんと地球の1/6程度であった為、彼は少し戸惑ってしまった。
宇宙船の中は、常に1Gに保たれている為感じる事は出来ないが、外に出たとたんに1/6である。
想像してみた――恐らく重力が軽いと言うことは、足が速くなったり、ジャンプしたら高く飛べたり……考えても、特に危険はなさそうである。
まさか、ジャンプしたら大気圏外へ飛び出してしまった――なんてことは無いだろう。50センチ自分がジャンプしたつもりでも、この星であってもせいぜい6倍の3メートルが限界だろうし。
特に人が住むには問題ないだろうと考え、まずは惑星発見の第一報告を入れるべく、端末を操作する。
ただ、連絡が地球に届くのがいつになるかは分からない。なぜなら、現在の場所をこの宇宙船で特定することは出来ないからである。
それはなぜか――連続的に空間をワープする事によって、殆どランダムに移動してきた為である。事実、この広大な大海原を計画的に探索するなど、不可能であった。
ただし…ここから連絡さえ届けば、地球からは位置を確認する事が出来る。当然、その位の手段はあらかじめ確保してあった。
彼は、機械が得たこの惑星データと自分の所見を添えて、地球へと報告文を送信した。
「まずはこれで良し。」そう思ったが、モニターに送信日時が表示され全身が凍りつく……なぜなら、その日時は―――
『14,256年 8月6日 13:32』
「そ―――そんなバカな……。」
彼が地球を出発したのが2211年。単に引き算で、1万2千年もの時間が経過していたのだ。
人類の歴史は、たかだか2千年を超えた程度である。その4~5倍もの時が流れてしまっては……絶望的だった。
恐らく――いや間違いなく、地球上に人類は居ないはずだ。
天変地異とも呼べる自然災害によって、年々減り行く住める大地……悪性ウィルスや食物への被害での、急速な人口の減少。
もしも、生き延びた人間がいたとしたら――それは新たな惑星へと辿り着いた人間だろう。
彼に突きつけられた真実は、時間の流れと共に自身の完全な孤立を意味していた。
いや――孤立というよりも、彼は人類で最期の生き残りであるかも知れない―――
第3話へ続く。
ちょっとずつの掲載で申し訳ないです。
自身初の真面目な? 小説なんで……w