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32.彼女の提案

「リリア!?」


「えっ、あなたがどうしてここに!?」


「あら、仲がよくて何よりですわ……って、今はそれどころではありませんわね」


 寄り添ったままのわたしとアルティスを見て、リリアはリリアでちょっぴりおかしな感想を述べていた。


 そのときようやく、アルティスに肩を抱かれたままだったことに気づく。アルティスもはっと我に返ったように、わたしの肩から手を放し、少しだけ距離を取った。


「ええと、どこから話せばいいのかしら……」


 リリアは息を弾ませながら、懸命に言葉を探しているようだった。よく見ると、彼女の頭の上には鳥が乗っている。


 その鳥はヴェンティルよりもひと回り大きく、ほっそりとしていて、長く華やかな尾羽がしゃらりと彼女の肩に垂れていた。全身が真っ白で、光の加減できらきらと銀色に輝いている。とてもきれいな鳥だけど……たぶんこの鳥、精霊だ。


「ねえ、リリア。その子はいったい……?」


 ピルルルル。


 返ってきたのは、鈴を転がしたような高く美しい鳥の声だった。


「『おれはシュテール。ゆうじんであるヴェンティルのたのみにより、はせさんじた』」


 ホホッ。


「『リリアはるすばんでふあんだろうから、ともだちをたくさんよんでおいたのよ。わたくしたちのうごきをつたえられるように、ね』」


 フォンテが得意げに胸を張って、そう言ったのと同時に、ヴェンティルと似た姿の鳥たちが次々と舞い降りてくる。みんな、リリアを取り囲んで陽気に羽ばたいていた。


「『わたくしたちはみみがいいし、はなれていてもことばをかわせる。ともだちたちは、かいどうぞいにまちかまえて、じゅんにでんごんをおくっていったの』」


 鳥たちに囲まれたリリアが、少し申し訳なさそうに視線をそらす。


「ヴェンティルのお友達から、先生たちが森に踏み込んでいってしまったって聞いて……屋敷のことを師にお願いして、追いかけてきましたの」


 頭の上のシュテールを抱きかかえ、リリアはもぞもぞとつま先を動かした。しかしそこで、引っかかるものを感じた。


「ちょっと待って、どうやってヴェンティルの友達から話を聞いたの? フォンテがいないのに」


「なんとなく、ですわ。なんとなくそう言っているような気がしただけで」


 すると、彼女に抱きかかえられたシュテールが、ピイピイと甲高い声で鳴いた。


「『こちらのちいさなレディは、おれたちのことばをりかいしているようなのだ。そこそこ、ではあるが』」


「『そうなのよ。だからわたくしも、ともだちをよびあつめることにしたのよ。リリアなら、わかってくれるでしょうって』」


 ヴェンティルもホホホホと、小さな声で笑っている。リリアは以前から、ヴェンティルの言葉をうっすら理解しているような気はしていたけれど、さらに上達したらしい。


「ええと、それで馬車を飛ばして森の前にたどり着いたものの、どうやっても入れそうになくて……途方に暮れていたら、森の中からヴェンティルが出てきたんです」


 リリアはとまどいつつも、それでもはきはきと話し続けていた。


「またヴェンティルが森の中に飛んでいったと思ったら、いきなり森の中に道ができて……さすがに怖くてためらっていたら、シュテールが『進もう』って言った……気がしましたの」


「なるほど、そちらの事情は理解した。では、こちらで起こったことも説明しておこう」


 今度は、アルティスが口を開いた。彼がここに来てからのことを、よどみなく語り始めた。


「……やっぱり、とんでもないことになっていたんですのね……」


 ひと通りの状況を聞き終えたリリアは、ぎゅっと眉間にしわを寄せてしまった。無意識にだろう、シュテールを抱きかかえている腕に力がこもってしまい、シュテールがもがいている。


「あの、一度にたくさんのことを聞いてしまって、頭がこんがらがっているのですけれど……ひとまずは、この森をどうするか、が最優先ということで合っていますの?」


 彼女の問いに、わたしとアルティス、それにフォンテが同時にうなずいた。シルヴィーは、突然現れた少女に、まだ呆然とした目を向けている。


「ええ、そうなのよ。でも、一向にいい案が出てこなくて……」


「シルヴィーを遠くに追放できれば、解決しなくもないのだが」


「アルティス、それだめ!」


 わいわいと言い合うわたしたちを、リリアは眉間にしわを寄せたまま眺めていたけれど、しばらくして、おそるおそる口を開いた。


「あの、わたくし、ひとつ考えがあるのですけれど……」




 リリアが悩みながら口にした案を聞いて、みんなで目を丸くする。


「ふむ、悪くない案のように思えるな」


「伯父様もそう思ってくれますの? ただ、この計画を実行するには、それなりの力を持った精霊に協力してもらわないといけなくて……」


 リリアはぱあっと顔を輝かせたものの、すぐにしょんぼりしたようにうつむいてしまう。


「『それなら、おれがちからになれるでしょう』」


 唐突に、シュテールが言った。


「『そうね、かれならてきにんね』」


 ヴェンティルが、愉快そうにあいづちを打つ。


「すまないが、私たちにも分かるように説明してくれ」


 アルティスの質問に、二羽の鳥は同時に明るく鳴いた。




 アルティスたちが救出された、数日後。


 あの森の前に、たくさんの人間が集まっていた。けれどあの日とは違い、森の真ん中を貫くように細い街道が走っている。


 わたしとアルティス、それにミュゼットが、森を背にして立っている。


 そしてわたしたちに向かい合うようにして、アニマの町の人たちが立っていた。押すな押すなの大騒ぎだ。


 今日ここで、この森についての説明をするというおふれを出したら、ものすごい人数が聞きにきてしまったのだ。みんな、よほどこの森のことが恐ろしかったらしい。


 ちなみに、フォンテはお留守番だ。リリアやヴェンティルと一緒に、アニマの屋敷の奥まった一室で、シルヴィーを見張っている。もっとも、シルヴィーはすっかり聞き分けがよくなったので、今さら悪さをするとは思えないけれど。


「それでは、この森で私が体験したことを、これから説明する」


 アルティスが重々しく告げると、辺りはしんと静まり返った。針一本落としても聞こえそうなくらいの静けさの中で、彼は朗々と語り始めた。

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