つぎはぎハロウィン
ハロウィンの夜に結ばれた不気味な男女のお話。
つぎはぎの女が踊る。
スポットライトのように月の光が差し込む森の中。
つぎはぎの女が踊る。
音楽はない。ただ夜風が木の葉を揺らし、草木の触れ合う音のみが響く。
女が地面を蹴り上げればふわりと舞い上がるスカート。そのスカートもちぐはぐなつぎはぎだらけ。パッチワークと言えればオシャレだが、余った布を縫い合わせただけのスカートは見窄らしい。
つぎはぎの女が踊る。
そのつぎはぎは、女の手足を不格好に繋げていた。肌に走る切断面を縫い止める太い糸。肌の色すらつぎはぎで、白い肌の隣に褐色の肌が縫い付けられている。
顔にも走る切断面。肌はつぎはぎだが、骨格は変わらないので造形に違和はない。つぎはぎだらけの女の顔は、その造形だけならとても整っていた。
全身つぎはぎだらけの女。
混じりけのない部分と言えば、踊るたびに揺れる銀の髪。
そして、夜闇を見詰める青い瞳だけ。
つぎはぎの女が踊る。
月明かりのスポットライトの下、ぽんぽんと跳ねてくるくる回って。
その手に、硬い手が触れた。
「こんばんはお嬢さん。いい月夜ですね」
手の持ち主は、つぎはぎだらけの女の腰にも手を添えて、紳士的に寄り添った。
踊るのをやめない女の手を取って一緒にステップを踏む足が、コツコツとリズムを奏でる。
女に寄り添うには少々大柄な相手を見上げ、女はつぎはぎだらけの顔で笑った。
「こんばんは骸骨さん。ええ、いい月夜ね」
女の手を取ったのは、骸骨だった。
肉などない、硬い手は骨だ。地面を打ち鳴らすリズムは骨が石に当たる音。関節を繋ぐ軟骨こそあれど、血肉が削ぎ落とされた骸骨が女の手を取って踊っていた。
夜の森の中、目の前に骸骨が現われたら、普通の女性なら悲鳴を上げて失神するかもしれない。
しかし手を取って踊る女は笑顔で挨拶を交わした。骸骨の窪んだ眼窩の奥に光はない。表情を作る面の皮すらないが、なんとなく、相手が笑った気がした。
「こんなにいい月夜のスポットライトを独り占めするなんて、ずるいじゃないですか」
「あら、主演女優の許可なく舞台に上がった闖入者が何か言っているわね。追い出されたいのかしら」
「そんな酷いことを言わないでください。できることなら、あなたとはじめから踊りたかっただけなんです」
「こんないい月夜に?」
「こんないい月夜だからこそ、あなたと」
いつの間にか女をリードしはじめた骸骨は、くるくると女を回転させる。不格好なスカートでも、裾を広げる様子は優美だった。
「奇特な骸骨さんね。こんな所で油を売らずに、街へ出掛ければいいのに」
「確かに今宵はハロウィン! 普段隠れている我々も、意気揚々と街へ繰り出す特大イベント。皆こぞって街へ出掛け、この森はこんなに静か」
おどけるように肩を竦め、骸骨は歯をカタカタ鳴らして笑った。
「けれどその静かな森で、お嬢さんが一人踊っている姿はとても不穏で悍ましかった。心が震え、逃げ出したいのに目を離せない恐怖感がありました。まさにハロウィンの夜に相応しい舞台。是非ご一緒させてください」
「観客のいない舞台を楽しんでいたのに、盗み見るなんて無粋な骸骨さんね。まあいいわ。肉のつぎはぎだらけの私と、肉を失って骨だけのあなたが手を取り合って踊るなんて、なんだかとても皮肉な感じがするもの」
お互いに寄り添ってステップを踏む。そのステップも規則正しい物ではなく、思いつきで踏む独自のリズムだ。
お互いが好きにステップを踏んで、相手を振り回して笑っていた。
「あぁおかしい! なんてちぐはぐで不完全なリズムかしら! 不協和音みたいで気持ちが悪いわ!」
「捻れたリズムの不格好さが癖になりそうです」
「ああ、まるで結婚式みたい。私知っているのよ。結婚式では男女が手を取り合って踊り明かすの。花嫁が疲れて動けなくなっても花婿が腰を掴んで踊ってくれるのよ。振り回されて動けない花嫁が滑稽で可愛いわよね」
「私の知っている結婚式と齟齬がありますが概ねそんな夜でしょう。お嬢さんは結婚式がしたいのですか?」
「いいえ花嫁になりたいの。その為のドレスも作っているのだけれど、まだまだ完成までほど遠いのよ」
そう言って女は自分のスカートを蹴飛ばした。つぎはぎだらけのスカートは、将来つぎはぎだらけのウエディングドレスになる予定だ。
「花嫁になるにはドレスも必要ですが、お相手も必要ではありませんか」
「うふふ、そうね。ドレスが完成したら、花婿を探しに行くの。幸せな花嫁になる為に、相応しい花婿を見付けなくちゃ」
笑う女の口は綺麗な三日月で、まるで口が裂けたように見える。実際は継ぎ目が歪んでそう見えるだけで裂けてはいない。不気味に、無邪気に女は笑う。
「ではその花婿に、私が立候補してもよろしいですか」
「まあ、骸骨さんが?」
くるくる回っていた女の腰を抱き寄せた骸骨がグッと身を屈めた。背骨がたわんで、光のない眼窩が女の目の前に迫ってくる。
「実は私、あなたが真新しい太ももを手に入れた瞬間を目撃しています」
「やだ、えっち」
「古くなった部分を新しい血肉と取り替えて、いつでも若く美しい部位を保っているあなたを見て、私は感銘を受けたのです――――あなたと同じように私も他者から肉を得て、理想の身体を得ることができると」
カタカタと鳴るのは骨か、それとも歯か。
「今の自分に満足して何もしていなかった私に、より残酷で忌まわしい未来があるのだと、あなたが教えてくださいました」
密着したままくるりと回る。腰を掴まれ振り回された女は、投げ出されないように骸骨の細い首に腕を回してしがみついた。
より近くなった肉と骨。骨はそのまま肉を抱きしめた。
「不気味で狂気的なあなた。醜悪で疎ましく目が離せないあなた。私と結婚してください」
骨が肉体に絡みつき、剥き出しの歯が首のつなぎ目に食い込む。
肉は…女は、顔を三日月のように歪めて笑った。
「つまり、骸骨さんはこれから、理想的な身体を作るのね?」
「ええ、あなたのように魅力的な身体を集めて繋いでいきます」
「素敵だわ! 肉をちぎって繋げる快感を共有できる相手に出会えるなんて、今夜は本当にいい夜ね!」
女は跳ねて喜んで、骨しかない身体に抱きついた。
「答えはイエスよ! 喜んで結婚するわ!」
「お嬢さん!」
「でも結婚式はお互い理想のドレスと身体を手に入れてからよ。私それは譲れないわ」
「勿論です! あなたの理想のドレス。私の理想の肉体を作り終えたときに、理想的な墓場で式を上げましょう」
「樹海も捨てがたいわ。処刑場とか悩んじゃう」
「まだまだ時間はありますし、ゆっくり場所を見て回りましょう」
「嬉しい!」
骨を折る勢いで抱きついた女は、喜びを伝えようと骸骨の頬骨に口付けた。カタカタ揺れ動いた骸骨は、嬉しげに女を抱いたままくるくる回る。女の楽しげな笑い声と骨の鳴る音が夜の森に響いた。
満足して地に足を付けた女は、骸骨の細い腕につぎはぎだらけの腕を絡ませて身を寄せた。
「ねえ愛しい人。せっかくだし、一緒に街へ行きましょう」
「早速デートのお誘いですね、嬉しいです」
「ええ、せっかくのハロウィンですもの。お菓子の代わりに悪戯をしに行きましょう」
「いいですね。ええ! 素敵な発案です。悪戯はお菓子と同じくらい魅力的な部位を貰うのはどうでしょう」
「素晴らしいわ! 同じ事を考えていたの。同じ事を思いつくなんて、私たち、きっと上手くやっていけるわ」
「ええ、ええ。これから永く、悍ましい夜を共にしましょう」
手を取り合った男女が、楽しげに街を目指す。それだけならどこにでもある夜の日常。
けれど今夜はハロウィン。それだけでは終わらない。
「Trick or Treat!」
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!」
腐臭のする身体を赤に染めたつぎはぎの男女が、丸い月の下で高らかに笑った。
不気味なカップルの話が書きたかったなどと供述しており…。
不気味だなと思った人はブクマ評価リアクションをハッピーハロウィン!




