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冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記  作者: ぎあまん


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09眠り姫の目覚め



 救護カプセルに入れられた眠り姫にはこのまま眠ってもらうことにした。

 だが、そんな決定は一日も経たずに覆ることになる。

 原因は次にやってきた宙賊艦だった。同じことを繰り返して処理をしようとしたのだが、向こうはこの基地に休息や交易にやってきたのではなかった。

 ドックに入ると同時にハッチが開いて武装した連中が飛び出してきたのだ。

 イオも魔導的戦闘ボットとともに待ち構えていたとはいえ、相手の思わぬ逆撃に遭い、戦場はドック全体に広がった。

 そして、まだ処分していなかった前の宙賊艦に乗り込まれ、あの救護カプセルの前でも戦うことになった。

 結果として勝利はしたが、救護カプセルは破損した。


「起こしてやってくれ」


 すぐにでも中の少女を起こさなければ命に関わることになると知ったイオは、ヴィルダに頼んだ。


「相手の目的は明らかにこの子だったし、動きからして訓練された兵士だったわよ。かなりやばい状況なんじゃない?」

「だとしても、目の前で子供が死ぬのは気分が悪い」

「わかった。一時間後には目覚めているから、あなたがちゃんとケアしてよ」

「ああ……努力する。ヴィルダは両方の船から取れるだけの情報を取ってくれ」

「了解」


 なにを話せばいいのやらと悩みつつ、筒状の救護カプセルが医療区画に運ばれていくのを見守った。

 医療区画といえば、地球の病院の記憶から白く清潔なイメージがイオにはあったが、宙賊基地の医療区画は《《宙賊らしく》》あちこちが汚れていた。

 それでも治療が可能となっているのは、ほとんどの負傷や病気は医療ポッドとナノマシン注射によって完結してしまうからだろう。

 より高度な医療施設や医師が必要な状態の者がいれば、それは廃棄すればいい。

 所詮、宙賊は銀河帝国社会においては有害なゴミでしかなく、当の宙賊たち自身も同胞に対して似たような意識を持っている。

 捕まったとしても、その多くは即時死刑や各種実験のモルモット役となるのが通例だ。

 覚醒処置が行われている施設は、それでもまだ清潔そうな雰囲気が残っている。浄化装置のある通路を抜けてそこにいくと、サポートボットによってベットに移されている少女の姿があった。

 すでに処置は終了し、彼女の体温は戻り安らかな呼吸が行われている。

 格好はイオが知っているものと細部は違うがドレスのように見える。動きやすさに重点を置いた普段着用のものだろう。

 雪のように白い髪、肌も漂白されたように白い。

 いわゆるアルビノ的な要素を持つ美少女だ。

 宇宙に住む人々が人間と同じ姿をしていることは宙賊を片付けたから知っていたが、改めて観察するとどうしてここまで形が同じなのかと不思議になる。

 神の悪戯?

 そういえば、精霊には接触したが神には会っていないな。

 むしろ、この宇宙でも精霊はいるのだろうか?

 少女が起きるまでまだ時間がある。イオは暇つぶし兼疑問の解決のために手の上に魔力で魔法陣を描いた。


 他の作業をしながら監視カメラでイオを確認していたヴィルダもその光景を見た。

 ただし監視カメラからでは魔力が描く魔法陣の内容を見ることはできず、ただ掌から発生するエネルギーの反応を検知しただけでしかない。

 マナ粒子から発生するエネルギーを利用する魔法という謎の技術が行われようとしていることだけは察知して、ヴィルダは本能的にその光景を記録する。

 エネルギーの検知は赤外線センサーのように色分けによって世界を表現する。

 イオの掌から発生したエネルギーは黄色く表現され、ごく短い空間を高速で動いている。これは発生したエネルギーがイオによって制御されている証拠だ。

 発生したエネルギーをチューブなどのような導線を用いず、ただの空間で精密に制御してみせる……ただそれだけで常人の技とは思えないのだが、イオがいた世界……惑星では、個人の扱う技術として確立していたのだという。

 掌の上という狭い空間を高速で動いていたエネルギーは、やがて静かに拡散した。

 だが消えたわけではない。

 いままでよりもそれは大きくなって、イオの前に浮いていた。

 掌からのエネルギーの発生は止まっているのに、それは飛散することなくそこに止まっている。


 精霊召喚を試してみたイオはそこに姿を現したものに首を傾げた。

 空気中にならどこにでもいる風精霊を実体化させるものだったのだが、見せた姿がイオの知っているものではなかった。

 イオの常識では半透明の男女の姿になるものなのだが、いまここにいるのは勇壮な機械の鎧を身にまとった戦乙女のような姿だった。


「なんだこれは?」

星守ステラガーダー?」


 細い声に気付いてそちらを見ると、眠り姫が目を覚ましていた。

 声に反応して魔法を解けば、風精霊と思しきものも姿を消す。


「目を覚ましたか?」

「あの……さきほどのは?」

「手品だよ。暇潰しに練習していた。あんたが目を覚ますのを待っていたんだ」


 魔法だと説明してもややこしくなるだけだと、イオは適当に誤魔化して話を進めた。

 身を起こして、ベッドに腰掛けた少女は不安そうに周囲を見渡す。


「私は……どうしてここに?」

「宙賊の船にあった救護カプセルの中にいた。機械が故障したので覚醒処置するしかなくてね、目覚めてもらった。ここは元だが宙賊の基地だ。いまは俺たちしかいない」

「元? では、あなたは?」

「……住所不定の無職だな」

「は?」

「戸籍なし、所属なし、職業もなし。あるのは相棒だけだ。説明は難しいが、そういう状況なんだよ」

「そう……なんですか。あの、できれば私が故郷に戻るための協力をお願いしたいのですが。あの……いますぐは無理でも、必ず報酬は支払いますので」

「ふむ」


 まぁそうなるよなとイオは考える。

 むしろ、目を覚ましてすぐに、取り乱す時間もなく交渉に入る精神の強さに感心した。


「それはかまわないが、頼る当てはいないのか?」

「ええと、ここはどこでしょうか?」

「ヴィルダ。聞いているだろう。教えてくれ」

「ここはパルミナエル星系国家の勢力圏内よ。詳しい座標はまだ秘密」


 スピーカーから悪戯っぽくヴィルダの声が響く。


「パルミナエル星系……では、近くの交易コロニーに運んでいただくことは? そこで知り合いに連絡をしたいと思います」

「だ、そうだが?」

「可能……と言いたいんだけど、ここには宙賊船しかないのよ。そんなもので乗り付けて指名手配にでもされていたら停泊前に撃墜されてしまうから、ちゃんと登録された船が手に入るまではここにいるしかないのよね」


 戦闘機であるヴィルダも無人で逃走しているため、機械知性が暴走した危険な状態の戦闘機として追跡されている。

 真っ当な場所に行くための手段が枯渇していた。


「まぁでも、もう少し待ってくれたらなんとかなるかも」

「連絡がついたのか?」

「うん、私の知り合いが来てくれそうだから、それまで待ってもらうしかないんだけど」

「はい、それでかまいません」

「そういえば、名前は? 俺はイオだ。さっきからスピーカーで喋っているのはヴィルダ。人工知能、でいいのか?」

「機械知性よ」

「だ、そうだ」

「あ、はい。よろしくお願いします。私は……ミーシャです」

「では、よろしくな。ミーシャ。ヴィルダ。彼女の部屋を用意してくれ」

「もうしてあるよ。案内ボットを送るからそれに従って」

「ありがとうございます」


 ミーシャはスピーカーに向けて頭を下げる。

 宙に浮く球体の形をした案内ボットはすぐに姿を現し、ミーシャはベッドから下りた。


「立てるか?」

「大丈夫です」


 とはいうものの、ややふらついていたので手を貸す。

 イオの手を取ったミーシャは紅い瞳でじっと見つめた。


「あなたは星守なのですか?」

「星守がなにか知らないが、そんな立派そうな身分は持っていないよ」

「星守を知らないのですか?」

「不勉強なもので、申し訳ない」


 信じられないという顔をするミーシャにイオは肩をすくめて応じた。


「星守はこの広大な銀河帝国でも二百人しかいない、最強の戦士たちです」

「へぇ、そうなのか」

「あの方々がいれば、心強いのですが」

「そんな希少な英雄に救いを求めるのは現実的ではないな。状況としては最悪かもしれないが、地に足のついた解決策を模索した方がいいぞ」

「そうですね」

「まぁ、この広大な宇宙空間では、地に足をつけるのも大変そうだが」


 イオの冗談にミーシャは目を丸くし、それからすぐに笑った。


「イオさんは面白い方ですね」

「お気に召してなによりだ」


 案内ボットが止まり、近くにあった部屋のドアが開いた。

 どうやらここがミーシャの部屋になるようだ。


「人間は俺たちしかいないが、ヴィルダのサポートもある。しばらくは我慢してくれ」

「はい。イオ様、よろしくお願いします」

「ああ」


 またも真っ直ぐに紅い瞳が見つめてくる。

 愛想笑いがぎこちなく歪み出す前にドアが閉まってくれて、イオはほっと息を吐いた。


「……イオ《《様》》ね」


 自然と他人をそんな風に呼ぶ。

 そんな生い立ちの人間たちに覚えがあり、イオは湧き上がってくる嫌な予感を否定できなかった。

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