表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記  作者: ぎあまん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/21

08基地生活



 宙賊基地を制圧して数日が過ぎた。

 かつて宙賊であったものたちは掃除ボットによってかき集められ、バイオ処理施設によって肥料ブロックに変換され、基地内のベースフード工房へと送られていく。

 強盗品を組み合わせてでっち上げられた工房は決して優れているわけではなく、そこで生産されるベースフードの品質はあまりいいものではない。もちろんそれを材料にフードプリンターで出力された物も同様で、腹を壊さないことと栄養補給ができるという最低限の要件を満たす程度のものでしかない。

 では、宙賊たちが食以外のなにで心を満たしていたかといえば、酒や麻薬、性処理道具に改造されたかつて人間であったものだったりするのだが、性処理道具となった者たちは安らかな眠りにつかせ、麻薬も廃棄した。

 残る酒も酔っ払うことを目的にしただけのような低品質なものばかりだったので、イオは一口飲んでやめた。


 だが、宙賊基地の生産品ではない、輸送船などから鹵獲した品の中にあるものであればどうか?

 この宙賊基地では、基地を使う使用料としてボスに鹵獲品の一部を上納するシステムとなっている。

 残りの鹵獲品は基地での生活や、船のメンテナンスを行うための通貨代わりとして消費されていく。物々交換という、イオが人生を送った二つの文明でも原始的だった方法が宇宙時代でも通用しているのは、通貨の管理がはるかに厳しくなっているためだ。


 鹵獲品が通貨代わりに使われる以上、ボスの部屋には上等な物がたくさん集まってい流ということになる。

 イオはそこを生活の場として体の調子を見ながら現代の知識を得たり、無重力下での訓練を行なったりした。

 後は、基地にある資材を集めた。

 宙賊艦のほとんどは、いずれ治安部隊に見つかって制圧後に爆破処理されるか、イオたちが去った後に新たな宙賊が根城にするかである。

 故に、乗り手のいなくなったそれらはドックにあるメンテナンス工房を使って分解し、可能な限り資材に変えていくことにした。

 その中から使えそうなものをイオはアイテムボックスに入れて、新たなゴーレムを製作するための材料とした。

 この時代に魔法が有効な手段であることがわかったが、同時にこの時代の兵器に対して、イオの装備も通用しないことがわかったからだ。

 宙賊の使ったレーザーガンによって、多くのゴーレムが穴だらけにされてしまった。

 幸いにも行動不能になったものは少ないが、もっと火力のある武器を使われるとそうはいかないだろう。早急に対策が必要だ。


 より忙しかったのはヴィルダの方だ。

 宙賊基地にある通信機能は正規のコロニー群や星系国家に届くようなものではなく、いくつかの中継地を介してコロニーのいるスパイに届き、そのスパイが必要なことをするというようなものだった。

 故に普通の文書を送るわけにもいかず、開発者たちに通じるような暗号文を組んで送ることを試した。

 さらに掌握した基地内での処理、イオが求める宙賊艦の解体、さらに自身のメンテナンスなど、非常に忙しく動き回っていた。

 普通の人間であれば疲労困憊となっていただろう。

 だが、機械知性のヴィルダは余裕を持ってそれらをこなし、イオが休憩をするときには話し相手にもなった。


「信じられないわね!」


 イオの思い出話がいよいよ統一国家から裏切られる場面となり、ヴィルダは怒り浸透で叫ぶ。

 テーブルを叩く代わりにスピーカーからハウリング音を発生させる芸の細かさで、イオは耳を塞いだ。


「ああもう! なんで組織の上にいる奴ってそんな身勝手なのかしら! もうもうもう!」

「まぁまぁ」


 自分のことながら、そこまで興奮されると逆に冷静になってしまう。

 イオはヴィルダを宥めた。


「そいつらにやり返してやりたいわね。いま、どこにいるのかしら?」

「どうだろうなぁ」


 一万年も過ぎていれば国家そのものが滅んでいるだろう。

 あるいはもしかしたら、惑星、あるいは文明さえも滅んでいるのではないかとイオは考えている。

 あの世界……惑星の文明が残っているのであれば、この宇宙の人類にも魔法か魔法の発展した存在があってもいいはずだ。

 しかし、魔力という言葉さえ存在せず、魔力の源である魔素はマナ粒子という言葉に置き換わっている。

 それらがないのだから、彼らは滅んでしまったのだ。

 ラヴァナール彗星とラヴァナール異常重力帯という名前の相似は気になるが、彗星は移動するものなのだから、あの場所に元の惑星があったとも考えられない。

 どちらにしろ、探す手段がない。


「やり返すなら、先にヴィルダを捨てた王子の方だろう」


 ヴィルダの憎む相手は、イオのそれに比べればはるかに手の届くところにいる。


「む、それもそうね。どうしてやろうかしら」


 ヴィルダの気分が変わったことにホッとして、イオはそこまで美味くもないハンバーガーを頬張った。

 これからどうするか?

 やることが思いつかないなら、ヴィルダの復讐に手を貸すのもいいだろう。


 そんな風に過ごしていたある日のこと。


「宙賊接近、イオ、準備して」

「わかった」


 ここがまだ宙賊の基地だと思ったままの船がやってきた。

 すでに対応策は話し合っているので、イオはその通りに行動するためドックに急ぐ。

 この宙賊基地では係留用のトラクタービームで固定してチューブ型のボーディングブリッジで繋ぐか、ドックに入るかの二通りの方法がある。

 通常の宇宙港湾施設では、前者はドックが一杯になった場合の非常処置の側面もあり、また多くの宙賊艦は強奪した鹵獲品を下ろすためにドックに入るのだが、この宙賊艦もやはりそうした。


 宙賊基地のオペレーターになりすましたヴィルダに案内されてドックに入ってきた宙賊艦は、指定された場所に留まる。

 オペレーターとして通信を受け入れた時点ですでにヴィルダがシステムに侵入し制圧、強制的に乗降ハッチが開き、イオの球体ゴーレムが雪崩れ込む。

 宙賊たちが壁の染みへと変わるのにさほどの時間もかからなかった。


「イオ、この船なにか変」

「うん?」


 戻ってきた球体ゴーレムの状態を確認していたイオは首を傾げた。

 ヴィルダの言う変がわかるほど、まだ知識を溜め込めていない。


「なにが変なんだ?」

「偽装してあるけど、装備が良すぎる。軍用品よ」

「なに?」


 そこまで言われれば、イオにだってきな臭さを感じることはできる。

 この数日で使い方を覚えたレーザーガンを構え、中に入っていく。生存者はすでにいないはずだが、なんらかの罠などがあるかもしれない。


「奥に生体反応、武装していないし、意識レベルが低いわ」


 ヴィルダが示すまま、偽装宙賊艦の奥にある一室へと入る。

 貨物室であるそこには強奪した鹵獲品が山と積まれているわけではなく、ただ一つの円筒形の装置が動かないように固定されていた。

 ミサイルのようにも見えるそれの中に、人がいた。

 円筒形の装置は、宇宙空間で急病人を運ぶための救護カプセルだ。


「中にいるのは女性。年齢は15歳程度、それ以外は不明ね。開けてみる?」


 内部に収まっているのは少女のように見える。酸素吸入機のようなマスクが口の周りを覆い、非常に緩やかな呼吸を示して胸が上下していた。


「身体に異常はなさそうだから、眠らされているだけね」

「すぐに開けないと命に関わるか?」

「いいえ。これは重傷者の生命活動レベルを下げて命を守るための措置だから、すぐにどうこうなるものでもないわ」

「なら、もうしばらくはそのままにしとこう」


 いまのイオたちの状況はあまりよろしくない。

 その上で厄介事の香りがするこの箱を開ける気にはなれなかった。


「それもそうね。なら、なにか情報がないか船の通信記録を調べてみるわ」

「頼む」


 しかし、その数時間後、別の宙賊艦がやって来たのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ