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冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記  作者: ぎあまん


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51怪物と戦場02



 右腕から分裂したそれは千に届く数のメタルビーストとなって艦隊の一部に襲いかかる。

 対応のために艦載機が放出されているが、数が足りずに戦艦も対応に追われることになる。

 それはつまり、キメラウィルス怪物本体への放火が減少したことを意味する。

 メタルビースが無作為に散開して襲いかかっていれば、あるいは艦載機のみでの対応も可能であったかもしれない。

 だが、メタルビーストは統率された意志を感じさせる動きで本体を包囲する艦隊の一部のみに集中攻撃を仕掛けていた。


「千切れたら宇宙怪獣を放出か」

「しかも、なんらかの通信手段で制御しているみたいだね」

「ダメージがダメージにならないってのは困るな」


 艦隊の砲火を手伝いながら、イオは打開策はないかと考える。

 だが、有効な手段は思いつかない。

 現在での知識は戦闘機のパイロットだけであり、俯瞰してからの総合的な対策なんてことができるほどの学識は当然ながらない。

 では、得意分野の魔法ではどうか?

 しかしこちらも、規模的な問題が絶対的な壁となって立ちはだかる。

 イオにある魔法の常識は、あくまで惑星上での活動が基準となっている。

 あちらでは1km先の敵を射撃できれば超一流だが、宇宙ではパルスレーザーをばら撒く距離でしかない。


 たとえば隕石召喚メテオストライクという魔法がある。

 実際に隕石を召喚しているわけではなく、隕石が地上に衝突した際の衝撃力を再現するだけのものだ。

 多くは対攻城戦に使われたり、密集している軍隊を焼き払うために使うのだが、使用するには多くの魔法使いが必要となるため、多用できるものではない。

 いまのイオの魔力量なら、一人で、魔法陣のたすけもなく使用することも可能だろう。

 しかし、それをこちらで使ったとしても、この場ではたいした効果は望めない。

 なぜなら、戦艦の艦砲とたいして違いない威力だからだ。

 戦艦なら連射できるものを、多くの魔法使いが必死になって一発撃つのもようやくというのを比べれば、どちらがいいかは聞くまでもない。


 それなら、アルケミアゲイザーを撃っているのと威力も変わらないし、こちらの方が手っ取り早い。


 魔法はそういう意味で、効率的な進化が足りていない。

 この場で使うならば、『この戦場において間違いなく大魔法と呼べるだけの威力のもの』ということになるが、そんなものはイオの頭の中にはない。


「困ったことになったな」

「やっぱり逃げる?」

「それが正解な気もするが」


 ここで起こるだろう被害を無視すれば、あるいはそれは可能かもしれない。

 だが……。


「…………」


 あの目である。

 リリスミアの姿をしたキメラウィルス怪物は、これまでの戦闘時間の大半でイオを見続けている。

 艦隊からの攻撃にたいして、重力震を発生させる咆哮と、その巨大で長大な下半身を振り回すことによって対応しながら、イオを見続けている。

 たとえ視線が逸れたとしても、すぐに追いかけてみせる。

 決して、その位置を見失わない。


「ずっと見てるよね?」

「見てるな」


 瞳孔ガン開き状態でじっと見つめ続けられるというのは、ただそれだけで威圧になる。

 しかもサイズの差が決定的だ。


「水槽の中の魚にでもなった気分だ」


 さながら戦闘機ヴィルダはメダカで、戦艦たちがフナというところか。

 イオは地球時代に学校にあった、川の生き物を集めた水槽を思い出した。

 さしずめ、戦闘機ヴィルダの中のイオはミジンコだ。


「永遠に愛でられるイオ。ただし彼女のお腹の中で」

「水槽が自分の体でもあるっていうのは恐怖だな。究極の自己同一化というところか?」

「あっ!」

「なんだ?」

「もしかして、私に嫉妬してるかも?」

「なんで? ああ……」


 聞き返そうとして、理解した。

 戦闘機とパイロット、神経同調操縦(N.S.I.)


「まさしく一体化だな」

「でしょう? 羨まし妬まし憎し増し増しの増しだね!」

「それで惑星規模のサイズになってやってこられてもたまらないな」

「イオがモテモテで困っちゃうね〜」

「……そういえば」

「なに?」

「最近は態度が変わったような気がするな」

「え゛っ⁉︎」

「なにかあったか?」

「な、なにもないよ〜」


 下手な口笛まで吹きだすという、隠し事ありますな素振りをされて、イオは呆れる。

 そういう行動は誰に教わるものなのか。


「それより、いまは戦闘中だよ! 油断はよくないと思うんだよね!」

「油断はしていないが……」


 左腕だけになったキメラウィルス怪物の手を逃れ、下半身方面へと移動する。

 パルスレーザーをシールドの表面にばら撒いて、その展開半径をたしかめながら蛸足の中へと飛び込む。

 下半身の裏側……蛸足の根本が集中している場所なら弱点になりえるかと思って飛び込んでみたのだが、アルケミアゲイザーの一発は変わらずシールドに防がれて終わった。


「ダメか」

「女性の下半身を狙うとか、イオもスケベだねぇ」

「これで欲情するには、俺もまだまだ精進が足りないな」

「……そんな精進があるの?」

「宇宙は広大だから、もしかしたら友好的な蛸足女子がいるかもしれない」

「ううううう……ん。強化手術で帝国でも可能と言ったら可能だけど」

「ああ、そういえばフォクサが狐耳だったな」


 あの狐耳と尻尾が宇宙空間での単独戦闘機動を補助しているというが、

どういう理屈なのかはイオにはわからない。


「帝国が見つけていない有人惑星があるかもしれないな」

「まぁ、イオの故郷の地球や魔法のある惑星も見つけてないしね」


 故郷や前の世界に未練があるわけではないが、探してみるのはいいかもしれないとも思っている。

 本気にはなれないから、なにかの片手間程度のことになるだろうし、そんなもので有人惑星が見つかるとも思えないが。


「まだろくにアクセンブル社の社員として仕事もしていないしな。この宇宙ではやることもたくさんある。こんなところで死ぬ気はないぞ」

「だよね」


 そのためには作戦がいる。

 作戦……。


 その時、イオの脳裏に雷鳴が通り過ぎた。


「これしかないか」

「え?」


 蛸足の表面から無数の手が生えて戦闘機ヴィルダを捕まえようとする。

 それらを速度で切り抜けながら、イオは自分の考えを伝えた。


「ヴィルダ。前に、俺の記憶を覗いたな?」

「あ。う……まぁ」


 その時のことを思い出し、ヴィルダが気まずい反応を示す。


「それはいい。いまもできるのか?」

「わ、わからない。あれからやってないから」

「なら試せ。それで、俺の中の魔法知識を吸い上げろ」

「ええ⁉︎」

「この状況で俺に有利な部分があるとしたら魔法を使えるぐらいだが、俺の知っている魔法でこの巨体を焼き尽くすのは無理だ」


 サイズの問題は先ほども述べた。

 惑星表面上での活動しか知らなかったイオには宇宙規模での魔法の使い方などわからないし、すぐに修正や適応ができるものでもない。

 だが、ヴィルダなら?


「ヴィルダなら俺にはない帝国での知識がある。そして俺では辿り着けない高速演算がある。俺の知識を吸い上げて、こいつを焼く魔法をこの場で作れ」

「そ、んな……」


 イオの提案に、さすがのヴィルダもすぐには返事ができなかった。


「無理だよぅ〜〜」

「無理でもやるんだよ」


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