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冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記  作者: ぎあまん


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50怪物と戦場01



 リリスミアめいた怪物はイオを見つめ、咆哮した。

 宇宙で音が響くわけもなく、それは無音の映像のように光景が過ぎていく。

 だが、それを目撃したイオはそこに込められた音声を聞いた気がした。

 歓喜の咆哮だと感じた。

 大きく広げられた口内にはきちんと歯が並び、舌が見える。

 だが、その歯もその舌にも、取り込んだ別の生き物の残滓が顔を覗かせている。

 歯の表面に宇宙怪獣の部品が、舌の表面に人の顔のようなものがあちこちに見えていることに気付き、イオは顔を顰めた。

 よく見るまでもなく、そんなところ以外にも取り込んだ生命体の残滓が散見できる。

 リリスミアを模しているのは上半身のみだ。下半身は蛸足のように複数に分かれている。

 一本一本がシリンダー型のコロニーほどの太さを持っている。

 パルミナエル星から大気圏離脱する際にはおよそ五億トンであったが、いまはそれをゆうに超えている。


「いまこいつ、ワープしてきたのか?」


 制御を持ち直した機体でキメラウィルス怪物から距離を取りつつ、イオは呟いた。


「ワープだね」

「生物がワープできるのか?」

「できないけど、この間のテロで出てきたのだって船を取り込んでシールドを貼ってたでしょ? きっと戦艦を取り込んだんでしょうね」

「そいつはすごい」

「すごいのはいいけど、これ、どうするの? 逃げる?」

「逃げられると思うか?」


 いまだに突き刺さる視線に、イオはキメラウィルス怪物の執着が自分に注がれていることを理解した。


「むむ〜この前感じたラブパワーはこいつだったか」

「ラブパワーって」

「ラブパワーだよ。ラブが全部を解決してるんだよ。全ての不条理を」

機械知性マシンイデアなら人間よりも理性的なことを言ってくれ」

「失礼な。機械知性は魂を持つことを目指して進化する人工知能のことだからね。これでいいのよ」


 機械知性の意義を聞かされ、イオは唸るしかできなかった。


「ともあれ、これは逃げられないな」


 パルミナエル星系からセファタタ星系へワープして、正確にイオのいる場所に出現したのだ。

 どこに逃げたとしても、キメラウィルス怪物の執念は必ずイオの前に現れることになる。

 これはもう確信に近い感覚で、イオはそれを受け入れるしかなかった。

 逃げられないのなら、戦うしかない。


「ここで決着をつけるしかないだろう」

「この質量を削り切れるの?」

「さすがにこんなにでかいのは初めてだな」


 だが、やらなければ世界一巨大なストーカーに付き纏われることになる。


「きっと勝てるさ。相棒」

「もう、イオは調子がいいんだから〜」


 卵殻の中で身を捩りながら戦闘機ヴィルダのチェックを済ませる。


「問題なし、いつでもいけるよ」

「なら、まずは浮気をさせないようにしよう」


 アルケミアゲイザーを狙撃モードで向ける。


「砲身が焼けない程度に最大で」

「了解」


 引き金を引けば、アルケミアゲイザー内のサブジェネレーターだけでなく、イオの中からも魔力を抜き取り、光条を吐き出す。

 極太の光条は、しかしキメラウィルス怪物と比較すれば細い線でしかなかった。

 シールドはその光条を受け止め、散らせる。

 分散して四方に散った光条を見て、キメラウィルス怪物は浮かべていた喜悦の表情を引っ込め、数瞬の無表情の後、怒りに変えた。

 吠える。

 今度の咆哮は無音では終わらなかった。


「重力震! 空間揺れる!」

「ちっ」


 避けようのない津波に襲われたかのように、戦闘機ヴィルダが揺れる。

 波に弄ばれる小舟のような状態の中で、キメラウィルス怪物が接近、その手が戦闘機ヴィルダを掴もうとした。


「くっそが!」


 なんとか変形を完了させ、握り潰そうとした巨大な魔手から抜け出すことに成功する。

 描かれるバーニアの軌跡は、揺れる空間に踊らされて複雑な線を描いた。


「硬いドレスを着ていらっしゃる」

「見た目は裸なのにね!」

「本物が怒っていそうだな」

「全宇宙に裸を晒されてるようなものだからね!」


 軽口を叩く時間で精神と機体を安定させ、次の策を考える。


「さっきの攻撃、奴のシールドをどれぐらい削れたかわかるか?」

「ぜんぜん!」

「ぜんぜんかよ」

「一桁パーセントってところかな。アルケミアゲイザーが溶けるぐらい全力で撃っても穴さえ開けられないかも」

「そいつは困るな」

「戦略的撤退を推奨するよ。対策を立ててやり直し」

「問題は、その時間にこいつがどこまで育つか……なにより」

「逃げられないってことだよね」


 逃亡と口にしたヴィルダにも逃げる手立ては見つけられていない。

 考えている間に、停止していた戦場が動き出した。

 砲火は全て、キメラウィルス怪物に向けられた。

 帝国艦隊も、リーンガロ星系国家艦隊も……そしてP7反乱軍の艦隊さえも艦首を翻して同じ目標に攻撃を収束させた。

 敵味方の区別を超えて、この怪物はここで倒さなければならないと判断されたのだ。

 戦艦の砲撃もシールドによって塞がれている。

 だが、一発ごとの威力は低くとも、そこにはアルケミアゲイザーにはない数がある。

 総合火力で圧倒し、捌ききれない熱がシールド表面を赤く染める。

 そうしてついに、シールドが破れた。

 全身を守るシールドが破れたのではない。取り込んだ複数の船にあるシールド発生機を利用しているためか、破れたのは部分的だった。

 だが、破れた。

 攻撃可能な位置にいた戦艦たちがその場所に攻撃を集中させる。

 そこはキメラウィルス怪物の右腕部分だった。

 束ねられた砲火が肩の付け根に集中し、貫き、蒸発させた。

 右腕が外れ、無重力がそれを掴んで引き離していく。

 オープンチャンネルには喝采が満ちた。


『やった!』

『怪物め!』

『よし、このままバラバラにしてやれ!』


 戦艦の中の誰かがそう叫んだ。

 バラバラ。

 その声に応じたわけではないだろうが、バラバラになった。

 本体から離れた右腕が形を失い、崩れ、無数の宇宙怪獣となったのだ。

 宇宙怪獣として最も一般的なメタルビーストの姿を取ると、戦場に向かっていったのだ。

 戦場に新たな混乱が訪れた。

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