05VS宇宙怪獣
再びのGがイオの全身を襲う。
だが、今度はしっかりと自身の肉体で受け止めながら、自分の意思で背もたれに身を預けた。
その上で肘掛けに腕を乗せ、イオの常識とは違う逆関節の手のような操縦桿に自らの手を乗せる。
すると、先ほどまではこちらに押されるまま、元の位置を維持する程度の柔らかい抵抗感しかなかった操縦桿が動き、イオの指の隙間に潜り込む。
それはまるで恋人繋ぎのような感触だった。
「専用のパイロットスーツがないから感度が落ちるかもしれないけど。神経同調開始するから、受け入れて。同調が終わるまでその姿勢維持ね」
座席からベルトが出てきて頭と胴体、腕、足と全身が固定された。
「無理矢理じゃないか」
「戦闘中だから仕方ないでしょ」
スピードは上がったのだが、イオとヴィルダが問答をしている間に周囲は宇宙怪獣たちに包囲されてしまっていた。
いまはあちこちから突進してくる宇宙怪獣に対し、複雑な軌道を描いてかわし続けている最中だ。
「ああ、なんか水族館を思い出すな」
その光景を全周囲モニターで眺めながら、イオはそんな感想を抱いた。
かつての記憶の中にある水族館の魚たちはこんなにもアクティブではなかったが、なんとなく宇宙怪獣たちのフォルムには魚類を連想させるものがある。
特にダーツストームなんて鰯の群れのようだ。
鰯は防衛のために群れているのであって、ダーツストームのように連携して戦うためではないのだが、竜巻のように群れているところに共通点を感じる。
揺らめきながら巻きつこうとしてくるクロスミミックたちから逃げた先が、ダーツストームの渦の真ん中だった。
クロスミミックはダーツストームの突撃を受けて、渦の流れに飲み込まれていく。
メタルビーストたちはダーツストームを無視して真っ直ぐに突っ込んでくるが、今のところ嵐の壁に弾かれてしまっているようだ。
それらの光景を眺めている内にイオの中で変化があった。
機体の外側がもっとよくわかるような感覚がある。全周囲モニターの外側がわかっているような、モニターに映像が結実するまでのほんのわずかな先を見ているような。
いや、見ているのだ。
ヴィルダに設置されたセンサーの情報をそのまま我が身に受け止め、それを理解している。
「モニターカット、問題ないよね?」
「ああ」
イオは了承した。
もう、全周囲モニターの情報はいらない。
逆に視界が何重にもなったようになって気持ちが悪くなってしまう。
ホロディスプレイも消した。それらの計器類的情報も頭の隅にある。
そう、自分の意思で消したのだ。
「これが私、ヴィルダの新機軸操縦システム『神経同調操縦』よ! 既存の操縦方法なんか知らなくてもイメージを私が補助して機体を動かすの」
「つまり、俺が思ったように動くということなんだな?」
「そういうこと!」
「そうか。まぁ、あまり空中戦は得意じゃなかったんだが……」
それに、どちらかといえば集団を操る方だったんだがと思いつつ、イオは戦闘に集中することにした。
その瞬間、さらに同調が進み、機体がイオの体となった。
現在、ダーツストームの群れが作り出す渦の中に囚われた状態となっている。
渦ならば上かした方向に向かえば穴があるものだが、この渦は環状へと形を変えているようで、どれだけ中空を進もうとも出口はない。
そうしている間に個体があちこちから飛び出してきて、体当たりを敢行してくる。
それらを回避しながらイオは反撃の方法を考えた。
「武装の説明を頼む」
「了解。サブスラスターの上部と下部にパルスレーザーを各二門。正面に主砲の重レーザー砲が二門。後は誘導ミサイルが八発。防御に関してはシールドバリア頼りだからね」
「レーザーがメインか 質量兵器はそれだけ?」
「遅いから宇宙怪獣相手だと当たらないわよ」
「むう」
言われればそういうものかと思う程度の知識量しかなく、イオは突撃してきたダーツストームをかわし様に下部パルスレーザーを撃ってみた。
パルスレーザーは短く連射するように放たれたが、タイミングが遅かったのか命中することなくすり抜けていく。
「難しいな」
「そう簡単に当たらないわよ」
「だが、慣らしていくしかない」
「そんな練習する時間があるの?」
「エネルギーなら俺の魔力で補充ができるだろう?」
「つまり、イオの体力次第ってことだけど?」
「心配するな。この体になってから魔力切れで倒れたことはない」
「よくわかんないけど、きっと非常識なことを言われたのよね、それ?」
「さあなっ!」
渦の壁を突き破り、メタルビーストが飛び込んできた。急な軌道変更でシールドバリアがダーツストームに触れ、シールドバリアの限界を示すゲージがジリジリと減っていくのがわかる。
「エネルギー回すわよ」
「かまわずやれ」
エネルギーがシールドバリアに回され、保有エネルギーのゲージを代償にしてシールドバリアのゲージが回復する。
イオが操縦桿越しに魔力を流し込めば、保有エネルギーのゲージも回復していく。
「うわぁ、本当に非常識」
「どうも」
そんなやりとりの間にもメタルビーストがさらに次々と乗り込んできて、渦の中は渋滞となっていく。
避ける場所がなくなっていき、シールドバリアは常になにかに触れ、ゲージを減らし続ける。
「飛ぶのはもう無理だな。人型になるぞ」
むしろそちらの方がやりやすいとイオは判断した。
「う、うん」
少し自信なげな声でヴィルダが応じれば戦闘機形態から人型形態へと移行する。
その瞬間、イオは神経同調操縦の深度がさらに進んだように感じた。
やはりこの操縦システムは人型を動かすことに向いているのだろう。
「人型でなにか武器は?」
目の前のメタルビースの背中に着地したところで、質問する。
「ええと、腰に私用の結晶刃発生機が」
「結晶刃?」
「星守たちの主武器なんだけど、ええとエネルギーを結晶化させた刃で切るっていう」
「つまりはビー●サーベルか」
「いや、ビームじゃないよ」
「とにかく、格闘戦用の武器があるってことだな」
イオが意識すればたしかに腰部にそれがある。
剣の柄だけのようなそれは、握った瞬間にエネルギーを吸い込み、刃の形に結晶化した。
「え、えへへ……ロボットで格闘戦なんて恥ずかしいね」
「なに言ってんだ?」
ヴィルダの恥ずかしがるような声が理解できず、イオは足場にしたメタルビーストに逆手に持った結晶刃を叩き込む。
イオの知識の中ではカブトガニに似た形状のメタルビーストは、上部にかなりの強度を持つ甲羅を背負っているが、結晶刃の切先は易々と入り込み、メタルビーストの心臓的な機能を持つ臓器を切り裂いた。
「よく切れるいい武器だ」
「あ、あう。ありがとう」
「それに……射撃の練習をしている暇がないなら、これで切り刻んでいった方が手っ取り早いな!」
メタルビースの死体から結晶刃を抜いている間に、他のメタルビーストやダーツストームが襲いかかってくる。
イオはそれらに向けて結晶刃を構えた。




