46トラブルは続く
キメラウィルスによって内部から崩壊した船の名前はサーテンという名前だそうだ。
肉色の蛇は真空に被曝してもなんの問題もなく動き続けている。
宇宙に出る能力を獲得しているようで、そのまま他の船へと迫る。
船のシールドが発生し、肉蛇の侵入を防いだ。
遮蔽膜によって接近を禁じられた肉蛇だが、そこで力技に出た。
いまだ肉蛇の尾は感染源であるサーテン号の中にあったのだが、そのサーテンを肉蛇の筋力で振り回し、狙った船に叩きつけたのだ。
シールドは一度の衝突には耐えたが、二度目は無理だったようで外装が砕け、内部への道ができる。
肉蛇はその穴に体を変形させて入り込む。
内部の悲鳴と悲劇は宇宙空間が全て閉じ込めてしまう。
戦闘機が出撃した時には、三隻の船が犠牲となっていた。
周囲の船はすでに待避を完了しており、警備艦隊の砲撃も始まりつつある。
三隻の船を尾に繋げた肉蛇は逃走が不可能な支社コロニーへと向かおうとしていた。
警備艦隊の艦砲に貫かれれば、ただの肉塊は蒸発する未来しかないはずだが、ここで不可思議なことが起きた。
シールドが発生し、肉蛇を守ったのだ。
「どういう理屈だ?」
「ええ? わからないよ」
戦闘機からその光景を見たイオとヴィルダも混乱した。
だが、すぐに気分を立て直し、イオの視線は肉蛇の尾に繋がった三隻の船に向けられる。
「まさか、あの船の機能を乗っ取っているのか?」
「ええ? ただのウィルスにそこまでできるの⁉︎」
「いや、俺にわかるわけもないが……」
しかし、そうとしか言えない現象が起きている。
周囲の船の退避が間に合わず、警備艦隊の砲撃が本格的に始めることができていない。
撤退準備中の死者コロニーとはいえ、内部にはまだドックが一杯になるほどに住民が残っている。
肉蛇がその住民たちを取り込み、さらにコロニーの機能まで取ったとしたらどうなるのか?
「こいつを試してみるか」
出来上がったばかりのアルケミアゲイザーを構え、狙撃モードで狙いを定める。
貫通することを想定し、安全な射線を確保するために移動した戦闘機はトリガーを引いた。
「おっ」
魔力を引っ張り出される感触に、イオから思わず声が出た。
吐き出された光条は以前よりも太く、激しく、形状が安定していない。
わずかに狙いがずれたものの、肉蛇のシールドは容易く破れ、貫通した。
シールドを破られた肉蛇は、光条の熱量を浴びて瞬時に蒸発し、二つにちぎれた。
その後に警備艦隊からの砲撃が突き刺さり、肉蛇は跡形もなく消えていく。
終わり方はあっけなかったが、三隻の船が落とされたために被害は1,500人ほどとなった。
その数に誰もがうんざりとした顔を浮かべることになったが、その後は神に祈るなりして、それぞれに感情を処理して終わらせた。
イオもその被害の数を聞いてわずかに表情を歪ませただけで、それ以上の反応を示すことはない。
それよりも次なる問題がすでに降りかかってきた。
偵察隊が大規模な宇宙怪獣の群れを発見したのだ。
しかも支社コロニーに向かう進路をとっている。
「タンパク質の匂いに引かれているのかな?」
「安全圏航路のあちこちで宙賊が船を壊しまくったからな」
ヴィルダの言葉にイオは同意した。
支社コロニーに向かう輸送船をフロッピーたちをはじめとした宙賊の多くが狙った。
本来なら安全圏航路に近づく前に治安部隊によって駆除されていたはずだ。しかし反乱によってそういった部隊まで戦場に駆り出されたことで、宇宙怪獣たちが群れをなして移動をするようになったとしてもおかしくはない。
移動開始は明日となった。
戦場に辿り着けばイオにも役割があるが、すでに必要なものの全てが工房艦グランダラの中にあるため、イオにやることはない。
だから、戦闘中に気になったことをヴィルダに聞いてみることにした。
「アルケミアゲイザーを撃った時だが、なにか考えていたか?」
「え?」
「サブジェネレーターがあるのに魔力を吸われた。もっとエネルギーがいるとか考えたか?」
「……警備艦隊の砲撃を弾いたシールドの性能は、輸送船三隻分を合計するという単純計算では成し得ないものだった。だから、いつものアルケミアゲイザーの攻撃力だけでは足りないかもって計算してたけど……」
「なるほど」
ヴィルダの意思が感応物質を通して、イオの魔力を吸い取ったのだと理解した。
「感応物質は役に立ったみたいだな」
「でも、それでも計算より威力が高かったよ」
「それは感応物質の伝播能力が高いからエネルギーの減衰が少なかったからではないかな?」
アルケミアゲイザーはエネルギーを光条の状態で射出するようにできている。
サブジェネレーターを一度で使い切るアルケミアゲイザーの破壊力は戦艦砲にも匹敵するが、魔力を無尽蔵に生み出すイオという存在がなければ、成立しない兵器だ。
だが、仕組みそのものは単純な構造であるため、想定外の威力が発揮されるということは考えにくい。
きっと減衰率の問題だけではないだろう。
これもヴィルダの霊子頭脳が関係しているのだろうかと、イオは考えた。
だが、イオに考えつくことなどとっくにヴィルダは思い至っているはずで、あるいはさらなる先の答えにまで辿り着いているかもしれない。
しかし、ヴィルダがそれを口にすることはなかった。
「まぁ、強いことっていいことだよね」
「そうだな」
あっけらかんとした言葉に同意する。
どちらにせよ、いまの状況が落ち着けばセンダナルがさらなる解析と改造を施すことになるだろう。
いまはただデータを集めるだけでいい。
「むむっ!」
「どうした?」
ドックの待機室でそんな話をしていたら、ヴィルダがいきなりあらぬ方向を見た。
「なにやら不純な意思を感じたよ」
「どういうことだよ」
「これは……イオを狙っている?」
「だから……」
「これはいけない。早く移動しないと」
「……」
ヴィルダはなにかを見ている。
それはまるで、予言者や占い師のような特殊な感性によるものかのようにイオには見えた。




