43激突
メタルビーストとの戦闘で消費したのはエネルギーだけだ。
それはイオの魔力で即座に補充される。
救難信号の発信されている距離は、潜次元航法《Dドライブ》さえも必要のない程度であったため、戦闘機はそのまま現場に向かう。
そこでは巨大な輸送船とそれを守る複数のフリゲート戦闘艦。
そして、その戦闘艦を蹂躙する小さな姿があった。
「星守ではないな」
呟いてすぐに否定した。
知識が足りないために、どうしても参考の存在として星守をあげてしまうが、明らかに速度が違う。
破壊力が違う。
「あれがフロッピー《なりそこね》だね」
飛び回る小さな姿の一つを捉え、モニターが拡大する。
全身を不恰好に覆うパワードアーマーと、鎧部分の三倍から四倍はありそうな巨大なスラスター。
そして赤黒い刃の結晶刃。
「汚い色だな」
刀身の色を見て、イオは顔を顰めた。
色の問題ではなく、純粋に結晶体として不純物に塗れていると感じられたのだ。
「星守以外が結晶刃を使うとあんなものだよ。イオが使うと綺麗だけど」
「装置の問題ではなく、使用者の問題か」
「装置の問題もあると思うけどね、使用者によって違いはあるってこと」
「なるほどな」
敵の戦力はフロッピーが四人。
フロッピーたちの母艦だと思われるクルーザー級戦闘艦が、戦闘領域のギリギリのところで待機している。
人型に変形した戦闘機はアルケミアゲイザーの狙撃モードでクルーザー級を狙った。
太い光条は、クルーザー級のシールドを破り、船腹にあるスラスターを削った。
「あれですぐには逃げられないだろう」
「わざと外したの?」
「まずはこっちを脅威と思わせないとな。ヴィルダ、オープンチャンネルで通信」
「うん!」
それとセンダナルに生け取りを望まれている。
可能かどうかはともかく、挑戦はしておこうとイオは考えていた。
「こちらアクセンブル社の戦闘機。救難信号を受信して来ました!」
『人型? アクセンブル社! たすかった! こちらは輸送船ベンリン。そちらに合流する予定の人と物資を運送中だ!』
「了解しました。そのまま安全圏航路に沿って退避を」
『了解した』
「さあ、そこのなりそこねども! 輸送船を狙うならそっちのクルーザーを落とす。宇宙で迷子になりたくなかったら、俺と遊んでもらおうか」
イオの挑発は劇的だったようだ。
『人型! お前がアクセンブル社の……』
『お前だってフロッピーだろうが!』
『殺す!』
『四対一でイキんなよ!』
「ははっ」
フロッピーたちの喚き声に、イオは軽い笑いを零した。
そして、言い返す。
「数ぐらいしか勝てるところがないと思っているのか?」
『『『んなっ!』』』
「まぁ、こちらは二人だから実質は四体二だが、お前たちなら相棒がいなくても問題ないのだろうな」
「やだ。イオってばかっこいい!」
『その戦闘機二人乗りかよ!』
『そういえば、最初の声は女だったな』
『戦闘に女連れとか、許せねぇ』
『ああ、こいつ、許せねぇよ』
「お前ら如きの赦しがいるほどぬるい生き方はしていない。来いよ……フロッピーなんて言葉に拗ねてる程度のお前らにはわからん境地を見せてやる」
『『『殺す』』』
「できないことを言うもんじゃないな」
まとめて接近してくるフロッピーたちに、戦闘機は人型モードを解除して突っ込んでいく。
赤黒い結晶刃を振り翳すフロッピーたちはミサイルのようなものだ。
錐揉み回転でその間を抜けつつ、パルスレーザーを連射する。
そのほとんどは回避されたが、いくらかはシールドに受け流された。
「個人携帯のシールドにしては硬そうだな」
「たぶん、イオみたいに自分のマナ粒子をエネルギーに回しているんだと思うよ」
「なるほどな」
だが、魔力という感じはしないとイオは感じた。
イオの発生させる魔力は、こちらではエネルギーとして扱われている。
そしてマナ粒子はエネルギーとなる前の状態だ。
「それなら、あのアーマーかスラスターのどこかに変換装置も積んでいるということか?」
「そういうことだね」
「それだけを壊すことができれば手っ取り早いが」
「さすがにこの状態で、そんな精密射撃は無理じゃないかなぁ?」
「まるごと焼く分には簡単なんだ……がっ!」
追いかけて来たフロッピーたちを再び全速力で引き離す。
そのついでミサイルを放っておいた。
いままで出番のなかったミサイルは誘導装置に従ってフロッピーたちを追いかけ、そして切り捨てられていく。
「さすがにミサイル程度は避けるか」
『なめんな!』
『くそっ! 速さが違う』
『だが、長時間維持はできないと見た!』
『その瞬間を狙う!』
「はは、俺たちの速さを疑っているぞ、ヴィルダ?」
「心外だね! 追いつけるように手加減してあげたっていうのに!」
『なに⁉︎』
「それなら、見せてあげようよ!」
「ああ、最後まで付いてこいよ?」
それからは、フロッピーたちがエネルギー切れを起こすまで徹底的に振り回した。
フロッピーたちは戦闘機の速度に追いつくこともできずに右往左往するばかりとなる。
腹立ち紛れに、合流してきた工房艦グランダラに向かおうとすれば、その横をアルケミアゲイザーの狙撃モードで威嚇し、さらにあちらのクルーザー級のスラスターを破壊し、逃げられないようにした。
『もうやめてくれ!』
『わかった、オレたちの負けだ!』
『たすけて……』
『お前ら、負けんな!』
フロッピーたちの心が折れていく中、一人だけは頑なに追いかけるのをやめようとしない。
『ここで捕まったらどうなるかわかってるだろうが!』
『だけどよ……もう、エネルギーが』
『なんであいつ、あんな戦闘機にずっとエネルギーを回せるんだよ』
『もしかして、本物の……星守?』
『そんなことはどうだっていいんだよ!』
吠え声がオープンチャンネルに響く。
『オレたちを認めない奴らに思い知らせてやる! それだけが、オレたちの……』
「いい根性だ」
負けん気が強いのは嫌いではない。
「だが、お前たちの運命はもう決まっている」
元気な一人に機首を向ける。
人型に変形し、結晶刃を発生させる。人型変形時の戦闘機の全長は25mほどだ。
その戦闘機の持つ結晶刃も相応の巨大さとなる。
『でかっ』
澄み切った青い刀身に視線が吸い込まれたときには、それはすでにフロッピーの横を通り過ぎていた。
破壊エネルギーが暴れ回る中、フロッピーはシールドにエネルギーの全てを吸い取られ、ついに力尽きて気絶するのだった。
他の三人が動けなくなるのも、そう時間は掛からなかった。




