42狙撃
センダナルはアクセンブル社において超が付く重要人物である。
創業者一族であるだけでなく、開発者としての能力も非常に高く、彼女の手がけた新型兵器、あるいは現行シリーズのアップデート版は全てにおいて成功と言える性能と業績を残している。
だが、困ったこともある。
まず、一つのところに落ち着くことが少ない。
グランダラという専用の工房艦を使ってふらふらと移動する。護衛さえも側におきたがらず、契約したアンドロイドのママスカヤだけが常にいることを許されている。
戦闘機の開発も、本来はセンダナルが行くことになってはいなかったのだが、どこから聞きつけたのか自分から名乗りあげて元の候補者たちを押し除けてパルミナエル星系にやってきた。
その上で契約破棄騒動に反乱騒ぎ、しかも攫われた第五皇女と行動を共にしていたという事実を知り、本社は大騒ぎ。
なんとしてでもセンダナルを本社に連れ帰るのだと、各支社に命令が下った。
しかし、そのセンダナルはP7反乱軍の勢力圏の中で撤退もままならない状況のセファタタ星系支社と行動を共にし、しかも単艦で危険地帯に飛び込もうとしている。
「その責任は、誰に問われることになるんだろうねぇ?」
……という泣き言をイオは支社長に聞かされていた。
「頼むよイオルード君。君だけが頼りだ」
「だから、俺に説得は無理ですよ。俺にあるのは戦闘機を操縦する能力だけです。その能力の及ぶ限り、危険を排除するのみですよ」
「ぐぬう」
そもそもイオはセンダナルのボディガードではない。
ボディガードなら、あるいは依頼主を危険から遠ざける行動を許されるような権限があるかもしれないが、イオはあくまでもパイロットだ。
「センダナル部長が君を船に乗せているから、そういうことなのかと思っていたのだけど」
「どういうことです?」
「しかし、部長はあくまでもあのボディだしね。そうだよね。違うのだろうね」
「……期待されている関係ではありませんし、もしそうだったとしても、センダナルが自分の興味を振り切ってまで俺の言葉を聞くとは思えませんね」
「ぐふう。胃……この間、新しいのと取り替えたばかりのはずなんだけどねぇ。この騒動が終わったら、また取り替えかなぁ」
「ご愁傷様です。では、待機中なのでこれで」
イオは無理矢理に支社長との通信を切った。
すぐにでもストレス吐血しそうな様子だったが、するなら見ていないところでしてほしい。
「大変だねぇ。責任者って」
「そうだな。自分の管理能力を超えた存在を相手にさせられるなんて、たまったものじゃないだろうな」
ホロモニターの視界に入らないところにいたヴィルダがひょっこりと顔を上げる。
そして他人への迷惑なんて気にしたこともなさそうなセンダナルは、少し前に「来た!」と叫んで自分の部屋に運ばれて行った。
センダナルの部屋には専用の拡張装置が存在し、それに接続された状態での思考速度は当人証言では百倍にもなっているのだそうだ。
『イオ様、連絡のあった襲撃跡と思しき場所を見つけました。到着まで五分。調査しますか?』
ママスカヤから通信が来た。
「センダナルは?」
『いまは判断を求めるのは不可能です』
「ああ……調べてなにかわかるのか? 生き残りがいるとか?」
『生き残りはいないでしょう。救難カプセルなどに搭載されている救助信号は感知できませんので』
「そうか」
しかしそれなら、あえて調査する必要はないのではないだろうか?
地上と宇宙での勝手の違いがまだよくわかっていないイオでは、どうも判断がつかない。
そこでママスカヤが助言をした。
『敵の戦力、襲撃方法などは判明するかもしれません』
「わかった。一度浮上する。調査は任せる」
「私がするからイオは操縦してね」
「了解」
手を挙げたヴィルダに頷き、戦闘機へと移動した。
戦闘の終わった後の空間はなにやら寒々しい。
腐敗の臭気とは縁がないだけマシだなとイオは思いつつ、戦闘機のモニター越しに宇宙空間を漂う船の残骸を眺めた。
時折、人間だったらしいパーツが流れていく。
「腐肉を漁る野良犬もいないか」
「あ、たまに宇宙怪獣が群がることもあるから、油断大敵だよ」
イオの感想をヴィルダが修正する。
「そうだった」
宇宙怪獣はタンパク質を嗜好品として好むんだったかと思い出した。
機体に乗った状態のイオの臭いに反応して襲いかかってきたのだから、宇宙空間に漂う死体なんてものがあったら、すぐに集まってくるのかもしれない。
「普通の安全圏航路なら、そんな心配はいらないんだけど」
「いまは戦時。治安が悪いとどうなっているかわからない?」
「うん。注意したほうがいいかも」
ヴィルダに言われ、イオはモニターの光景から目を離し、精神を集中させた。
いまは自動操縦中であり、調査もヴィルダが行っている。
現状のイオはパイロットが必要という条件のために乗っているだけの状態であり、なにかをする必要はない。
だから、自分ができる別のことをする。
意識を体の底に沈めるイメージから、広がっていくイメージに変更する。
宇宙空間に存在する魔力を辿り、意識の拡散を行う。
魔力運用を高めるための瞑想訓練だが、使いようによってより広い状況を認識するためにも利用できる。
ゴーレムを指揮していたときは、よくこれを使って戦場を把握していた。
地上の戦場なんて戦闘機が駆け回るにも狭いような空間でしかない。
だが、イオはあの頃よりもはるかに広い範囲に意識の触手を伸ばし、感じ取ることが可能だった。
「あ、いるな」
「え? あっ! 反応あり! 宇宙怪獣来るよ!」
「ここで狙い撃つ」
「イオ?」
「任せろ」
神経同調操縦に移行し、人型へと変形する。
アルケミアゲイザーを構えると、静かに砲口をそちらに向けた。
「まだ、ロックオン判定外だよ!」
「問題ない」
アルケミアゲイザーの狙撃モード。
その光条の辿り着く先さえも理解して、イオは砲口の向きを修正し、トリガーを引いた。
「命中」
「え?」
「次」
構えて、撃つ。
「命中」
「ええ⁉︎」
「次だ」
そうやって、十度ほどアルケミアゲイザーからビームが吐き出された後、それでも辿り着いた宇宙怪獣が十匹ほどいた。
「うわ、メタルビースト!」
ようやく種類を判別してヴィルダがその名を叫ぶ。
だが、イオは落ち着いてアルケミアゲイザーを拡散モードに変更し、こちらに向かってくるメタルビーストまとめて撃ち落としたのだった。
「ああ、しまった」
集中を解いた後で、イオはヴィルダの発した名前の情報を脳内から拾い上げた。
「メタルビーストって素材になるんだったか?」
「あ、うん。ビースト鉱って言うんだけどね」
「なら、もっと引きつけてから倒すんだったな」
「十匹でも十分だよ。それより、さっきのはなに?」
「瞑想からの戦場俯瞰だ。昔はゴーレムを指揮するときに便利だったが……さすがに近接戦闘をしているときにあの集中を維持するのは難しいだろうな」
「それも魔法?」
「ううん? 魔法といえなくもないのか?」
魔力運用の能力向上訓練から見つけたものであって、魔法式などを利用しているわけでもないので、魔法かと言われれば違うのではないか?
だが、やっていることは魔法じみていると自分でも思っているので、イオも否定しづらい。
遅れてやってきた工房艦グランダラがメタルビーストを回収するのを見守っていると、ママスカヤから通信が入った。
『救難信号を受信しました』
どうやら、近くで誰かが襲われたようだ。




