41フロッピー
囮となって宙賊に捕まって倒し、あるいは救難信号に駆けつけては倒す。
そういうことを何度か繰り返し、工房艦の船倉が一杯になったところで帰還するということを何度か繰り返した。
「あっはっは、入れ食いとはこういうことを言うのだろうね」
宙賊艦の残骸をプリンターでインゴットに変換しながら、センダナルが笑う。
「腕利きの傭兵が軍人になりたがらない理由は、こういう楽しさがあるからかもしれないねぇ、うんうん」
銀河帝国における傭兵とは、以前にイオに説明した武力を売り物とするギルドの一つ、傭兵ギルドに所属する者たちのことを指す。
「いまの我々は引越しで荷物を選別しないといけない身分だというのに、こんなに増やしてどうするのか、どうしてやろうか? うふふふ」
センダナルが自分の考えに沈んで含み笑いを零す。
「楽しそうだな」
「だねぇ」
イオとヴィルダは、それを遠くから眺めるだけにとどめた。
下手に近寄って長話に捕まりたくなかった。
感応物質を使ったゴーレムの性能比較試験の結果とイオから聞いた魔法や錬金術での感応物質の利用法を聞いたセンダナルの頭には戦闘機の改造案が浮かんでおり、それをいかにして実現するかという考えが巡り巡っている。
そのために必要となる素材を宙賊たちがせっせと運んできてくれていると考えれば、楽しくて仕方がないのだろう。
『イオ様、サンジョウから通信です』
ママスカヤが館内スピーカーで呼びかけてきた。
サンジョウとは、フォクサの持つ星守専用艦の艦名だ。
「誰からだ?」
用件があるとすればリリスミアだろうが、念のために聞いてみる。
『フォクサ様です』
だが、イオの予想は外れた。
『ホロモニターをそちらに回します』
「頼んだ」
イオが答えると、目の前にホロモニターが浮かび、フォクサの顔が浮かぶ。
その背後にこっそりとリリスミアも映っていた。
『やあ、イオ。よう働いているようやないの』
「まぁな。それでどうした?」
『ちょっとしたネタがあるんやけどな。聞きとうない?』
「ネタ?」
『ああ、おもろいで。フロッピーが出たんや』
フォクサが勿体ぶりながら上げた単語にイオは首を傾げた。
「イオ、イオ」
「ん?」
「あのね、星守と同じ体質だけど星守の試験に受からなかった人のことをフロッピーって呼ぶの」
と、ヴィルダが耳打ちで教えた。
だが、それがどうして面白い情報なのかがイオにはわからなかった。
「なるほど? だが、そんなのがいたからなんだっていうんだ?」
星守が強いのはわかっている。
だが相手は星守ではない。
星守の強さは、本人の能力とその装備に由来しているとイオは知っている。
結晶刃や星殻装攻を持たない、星守に満たない能力所持者を恐れる理由はない。
『強気やなぁ。たしかに、あんたにしたら取るに足らん相手なんやろけどな。それでもあんたんところと合流しようとしていた企業の船団を一つ潰しとるんやで』
「なに?」
『まぁ気を付け、ちょうどあんたが巡回しとる先の方で起きたみたいやからな』
それで通信が終わり、必死に手を振って存在をアピールするリリスミアの姿がモニターと共に消滅する。
「ママスカヤ、さっきの情報は本当か?」
『いま、警備艦隊の方に確認していますが、まだ情報を掴んでいないかもしれません』
「さすがは帝国軍ということか?」
『そうですね。反乱前から帝国の情報網はすでに出来上がっていたとしてもおかしくはありません』
「それでも反乱されちゃうんだけどね」
「そうだな」
とヴィルダがオチを付け、イオも苦笑しつつ同意する。
「それで、フロッピーっていうのはどうなんだ? 脅威なのか?」
「状況によるだろうけど、脅威だよ」
ヴィルダが答えた。
「星守の装備は揃えられないだろうけど、イオや戦闘機にも装備させているみたいに結晶刃そのものは作れちゃうからね。本物よりはるかに低性能だけど。それで、宇宙空間での高速機動前提のパワーアーマーを作れちゃう技術力が付いてくると、星守みたいなことはできるよね」
「なるほどな」
カリスティア率いる星守たちがパルミナエル星系国家軍と決戦して勝利する映像はイオも見た。
結晶刃を使って戦うとなると、なるほどそういう戦い方しかないなという思いと共に、人サイズの存在がはるかに巨大な戦艦を物ともせずに薙ぎ払っていく様子は圧倒的だと痛感させられた。
人型可変機である戦闘機に結晶刃を持たせたのは星守という存在があったからであり、そしてそれを模倣することが人型であることの意義に繋がるという考えになったのも当然だろう。
しかしそれならなぜ、星守は人型戦闘機械に乗らないのか?
乗らなくても強いから?
乗ると逆に弱くなるから?
「まぁ、それはいいか」
星守のことはいい。
いまはそれよりも、フロッピーのことだと、イオは思考の軌道を修正した。
「で、実際にその星守のモノマネがこの先で活躍しているわけか」
宙賊としてなのか、それとも反乱軍の一員としてなのか。
『センダナル、警備艦隊から通信です』
「なんだい、こっちは忙しいんだ」
『ホロモニターをそちらに回します』
「あっ、こら」
イオたちの通信すらも興味なくインゴットを生成するプリンターの前で物思いに耽っていたセンダナルだが、ママスカヤに強引に現実に引き戻された。
ホロモニターに映っていたのは、警備艦隊の司令と支社長だ。
彼らはフォクサがもたらしたフロッピーの情報をいまだに掴んでおらず、その情報を確認するために追加の部隊をこちらに派遣したそうだ。
そして、センダナルはアクセンブル社にとって重要な人物なので、そんな危険地帯からはすぐに離れて戻ってくるようにと説得するために通信をしてきた。
「なんだと、フロッピーか! おもしろいね!」
だが、センダナルにはそんな気持ちは通用しなかった。
「星守は検査できないからイオ君との違いがいまいちわからなかったんだ。だが、フロッピーでしかも襲撃してくるとなれば捕獲して検査とかし放題じゃないか。イオ君、いますぐ捕まえにいこう」
「そんなカブトムシを見つけたみたいなテンションで言われてもな」
ホロモニターの中で絶望する二人の成人男性の様子に、イオはどういう顔をすればいいのかと迷った。
結果として奇妙なひきつり顔になってしまったのだが、センダナルはそんなことを気にしていない。
「カブトムシとはなんだい?」
そっちの方を気にしている。
「その話はまた後で、行きたいのなら後ろの二人を説得してからにしてくれ」
「なにをー!」
「俺はただのパイロットだ。権限なんてなにもないんだよ」
組織というものへの懐疑心はいまだにあるが、それでもアクセンブル社に所属しているという意識は持っているのがイオだ。
司令と支社長が待ち構えているホロモニターの前にセンダナルを運び、話し合いが終わるのを待った。
どうせ結果は変わらないだろうとは思っていたが。
工房艦グランダラは進み続け、進路を変更することはなかった。




