40ゴーレムテストと宙賊退治
P7反乱軍への協力を拒んだリーンガロ星系内の複数の企業が、共に星系外に撤退するために合流することになり、イオたちは周辺宙域の安定化のための警備を続けている。
支社コロニーの側に鎮座する純白の星守専用艦の存在感の効果は絶大であるようで、次第に支社コロニーの周辺から反乱軍の姿は消えていった。
あるいは領域ゲート周辺の戦況がよろしくないために他に戦力を回す余裕がないのかもしれない。
しかし、そうなると星系内の治安が悪くなり、宙賊の活動が活発化する。
支社コロニーの周りは落ち着いたが、そのすぐ外はまだまだ落ち着いてはいない。
支社コロニー周辺の警備任務から外れたイオたちは、合流する企業たちの航路の安全を図るために安全圏航路の巡回を行なっていた。
「安全圏航路が安全ではないとは、名前に偽りありだな」
工房艦グランダラのドックにある待機室で、イオはそう呟いた。
「安全に潜次元航法《Dドライブ》ができるよって意味だからね。治安とはまた別の問題よ」
イオの作業を眺めながら、ヴィルダが答える。
そのイオは二人しかいない待機室でゴーレム用の新しいゴーレムコアを作っていた。
アクマから手に入れた他次元物質……イオが異世界で感応物質と呼んでいたそれを利用した物だ。
センダナルに感応物質について説明すると、性能の違いを見てみたいと言うので感応物質を使用したゴーレムコアだけを作り、既存の球体ゴーレムを使って入れ替えることにした。
ゴーレムコアは主人の命令を受け取り実行に移す、ゴーレムの脳の部分だ。
試行錯誤の末に、イオの作るゴーレムコアは直径でおよそ4cmほどしかない。地球の物で例えるとゴルフボールサイズである。
そのゴーレムコアに使用する感応物質は直径で1mm以下しかない。
すでに球体となったゴーレムコアの表面には複雑な紋様を描く溝が刻まれいる。
念動の魔法で宙に浮いたゴーレムコアに、イオはピンセットで摘んだ感応物質を近付け、溝の一箇所に当てた。
同時に流した魔力に呼応して、感応物質が動き出す。
個体であったそれが液体となり、毛細管現象のように自ら溝をなぞっていく。
わずかな質量がその溝の全てをなぞり終えた時には、薄い紫の紋様がゴーレムコアを飾っていた。
「これだけは自動化できないのが辛いな」
緊張を吐き出して、イオが呟く。
「これってゴーレムの制御系ってことなのよね?」
「そうだな。ロボットの行動サンプリングであるとか、そういう部分を司っている」
「人工知能ぐらいの働きはするの?」
「ううん、判断が難しいな。命令がなければなにもしないという意味なら、人工知能ぐらいはあるかもしれない。あまり応用は効かないが」
「ゴーレムの体を持った機械知性はいないんだ」
「いないな」
人工知能と機械知性の違いを『自主性』を持っているかどうかで判断するなら、いないとイオは断言する。
死霊魔法の領域でなら、魂をゴーレムに避難させるファンタジー版サイボーグのようなことはできるのかもしれない。
いや、錬金術によって作られた人工生命体の魂として収められているイオもまた、そういう存在なのだろう。
しかし、機械知性はそういうものではない。
プログラムより発生し、人工知能が機能拡張の末に進化したもの……それが機械知性だ。
「魂を錬成できなかったから、奴らは俺の魂を召喚した。人工的な魂はないからつまり機械知性もいない……ということだよな?」
「うん、そうだね」
そんな問答をしながら、できたばかりのゴーレムコアを球体ゴーレムにはめ込む。
感応物質を使用したゴーレムコアを作るのも、そのゴーレムを運用することも初めてではないので、失敗は想定していなかった。
「その技術も謎よね」
球体ゴーレムをアイテムボックスに収めているとヴィルダがそんなことを言う。
「そう見えるかもしれないが……他の次元に潜って高速移動するなんて概念を実現させているんだから、いずれは開発されるんじゃないか?」
「ううん、そうかも?」
と、ヴィルダが首を傾げていると、休憩室に警報音が走った。
『トラクタービームに捕捉されました。潜次元航法は三十秒後に強制終了します』
「よし、出番だ」
「うん!」
イオたちは休憩室を飛び出し、戦闘機に乗り込む。
「潜次元航法終了と同時に出る」
『了解しました。ドックハッチ開放準備』
イオたちの行なっている巡回方法は単純だ。
囮である。
潜次元航法中の船を感知する方法はあるが、民間で手に入るようなものでわかるのは質量や個体数程度である。
工房艦グランダラは、規模としては中型から大型の輸送艦のサイズぐらいだ。
そのため護衛をケチった商船か、反乱勢力から逃げ出す民間人たちを乗せた船かと思われやすい。
宙賊にとっては獲物が自分から狩場にやってきたぐらいに思っていることだろう。
実際には違うのだが。
『潜次元航法終了します。ドックハッチ開放完了』
「出るぞ」
工房艦から戦闘機が出撃する。
『あ? 輸送船じゃないぞ?』
『なんか飛び出してきた!』
『軍艦か?』
『戦闘機?』
『一機だけじゃなぁ!』
『工房艦を知らんのか! 無知どもめ!』
オープンチャンネルから宙賊たちが好き放題に喋っているのが聞こえてくる。
最後のはセンダナルだ。
「敵は四か」
「全部フリゲート級。ツギハギの改造船ばっかり。ザ・小物宙賊って感じ」
「それなら、例の性能試験をしてみるか」
「え?」
「宙間戦闘での魔法運用を俺も色々考えているんで……な!」
神経同調操縦がイオの決意に反応して宙賊艦に迫る。
ジェネレーターの限界まで増設されたレーザー砲が迎撃のために連射されるが、戦闘機に当たることはなかった。
『なぁ⁉︎』
『速い!』
本来ならすれ違いざまにパルスレーザーの連射で一隻か二隻も沈めているところだが、代わりに機体底部に黒い穴が開き、宙賊艦たちに向けて吐き出した。
それらは宙賊艦の脆弱なシールドを無視して船の装甲に張り付き、次の瞬間には大穴を開けて侵入した。
球体ゴーレムたちである。
『なんだ?』
『ぎゃあっ!』
『戦闘ボットに入られた⁉︎』
『いつの間に⁉︎』
オープンチャンネルに悲鳴が響く。
「入れたのは一体ずつ。一体だけが感応物質を使った特製だ。戦闘記録そのものは宙賊艦に監視カメラ的なものががあることを期待することになるが……」
「うわぁ、えぐーい」
本来なら高速で移動する乗り物とタイミングを合わせてアイテムボックスを開けて投射するなんて方法は至難の業だ。だが、神経同調操縦によって戦闘機を自身の体のように扱うことができるため、至難からちょっと難しい程度にまで難易度を落とすことができた。
「その調査はセンダナルに任せよう。物資は回収するんだろう?」
「だねぇ、タダ働きは嫌だもんね」
すでに工房艦からは回収用のドローンが射出されている。
イオたちは帰還するために旋回した。




