39性道徳がずれている
ヴィルダのアンドロイド体の外見は、イオの思い出の女性を参考にして作った。
無許可での行為だったためにイオの怒りを買ったが、いまは許されている。
ただ、そのことを気にして、夜にイオの部屋に行くことを躊躇しているわけではない。
むしろ、積極的に通っている。
だが、その度に追い返されてしまっている。
少女と見間違うほどに小さな体ではその気にならないと言われて、ヴィルダはショックだった。
だが、これ以上大きくすると戦闘機の卵殻に収まらなくなってしまう。
だからこのサイズなのは仕方がないと、イオだってわかっている。
わかっているが、それとこれとは話が別だ。
「義務感でするようなことではない」とまで言われると、ヴィルダも「ぐぬぬ」とうめくしかない。
そしてヴィルダは知ってしまった。
ママスカヤが時々、イオの部屋に入っていることを。
大抵の監視カメラに侵入できる自信のあるヴィルダだが、さすがに定期メンテナンス時にまで行動できない。ママスカヤにそのタイミングを狙われていたので、いままで気付かなかった。
「どういうこと⁉︎」
「どうどう」
「がるるる」と唸るヴィルダをママスカヤは冷静に宥めた。
「私の契約は知っているでしょう?」
「え? ああ、感覚フィードバック?」
「そう」
「え? あれ?」
「つまり、実質博士も一緒している」
「博士ぇぇぇぇ‼︎」
センダナルが呼び出された。
「別にいいじゃないか。彼の棒だって四六時中どこかの穴に埋まっているわけでもなし」
呼び出されたセンダナルは「しょうもない」とマニピュレーターを動かした。
「そういう問題じゃない! 私がしてないのに! 二人ばっかり、ずるい!」
「ずるいと言われても、それこそ彼の性癖の問題は私たちにはどうしようもありませんし」
「なら、ママスカヤみたいにちょっと肉あまりボディにするかい?」
カチン。
「……肉どころか骨すらない博士も本来は対象外ですものね?」
カチン。
二人が火花を散らし始めるが、「そんなことはどうでもいい!」とヴィルダは叫ぶ。
「どうにかしてイオが私に欲情するように方法を考えるのよ!」
「性癖の矯正かぁ」
「それはちょっと……」
「なんで?」
「「いまのイケイケな攻められ方がいい感じなので」」
「うきぃぃぃぃっ!」
ついに、ヴィルダが猿になった。
ちなみにの話だが、銀河帝国において結婚はそこまで厳粛な契約ではない。
コロニーなどの狭い社会から外に出ないような人々は一夫一妻を選びがちだが、宇宙船での移動が多い人々はそうでもない。
一夫一妻、一夫多妻、多夫一妻、多夫多妻、自由に選び放題だ。
もちろん恋人関係にしてもそうで、一期一会を地で行くような人生の多い宇宙民は、もっとカジュアルに出会いを楽しむ。
避妊処置は完璧であり、女性側ばかりが肉体的負担をするようなこともない。
受精卵を取り出し子宮カプセルで育成する体外妊娠も普通に存在し、両親ともに別の場所に移動してしまい、アンドロイドに育てられて死ぬまで両親に会わないという人生もそう珍しくない。
浮気、不倫などの扱いも、西暦二千年代の地球とは大きく違う。
つまり、一人のアンドロイドとだけ夜を過ごすイオは、どちらかといえば性にストイックであると思われても仕方がない。
また、実年齢ではなく体格だけを見て嫌悪するような人種は、性差別主義者と断じられ嫌われる。
そういう姿のアンドロイドがいるからだけでなく、狭いところで作業するために遺伝的に体が小さくなった人種なども存在するためだ。
とはいえ、性癖として拒否されているにも関わらずそれを強要することは男女問わず強姦であり、犯罪であることは変わらない。
アンドロイドであるヴィルダは、人よりも法に対して詳しいために性癖として拒否されてしまうとなにもできない。
だが、したい。
イオとしたい。
その思いは切実だ。
「いっそ、体を取り替えてみるかい?」
センダナルがマニピュレーターをヴィルダとママスカヤの間で行ったり来たりする。
つまり、ヴィルダの頭脳をママスカヤの体に搭載してみるかと言っているのだ。
「ぐぐぐ……」
それは現在のヴィルダにとって最良の解決方法のように思える。
だが、このボディを選んだ矜持もある。
このボディでイオにすごいことをしたい。
あんなことやこんなことがしたい!
されたい!
「ああ、でもでも!」
悩ましく頭を抱えるヴィルダを見て、センダナルは顎に手をやる仕草を再現した。
「う〜ん?」
なにかおかしい。
と考えて、ママスカヤを見た。
「そういえば、ヴィルダの頭脳には性関係の技術とかインストールしてあったっけ?」
ヴィルダは元々、戦闘機の操縦を補佐する目的で設定された機械知性だ。
霊子頭脳という特殊な技術試験が行われているが、通常のアンドロイドとして必要なアプリケーションがインストールされていたわけではない。
人間体に移しても普通に動いていたので、失念してしまっていた。
「……いえ、履歴を調べる限り、その記録はありません」
「ああ」
ママスカヤの答えで、センダナルはヴィルダの精神状態がどういうものか理解した。
「つまりはあれか、エンタメデータでしか性を知らない思春期状態か」
「そんな的確な指摘はいらない!」
ヴィルダが顔を隠して現実を拒否する。
しかしそれなら精神年齢的に完全に未成年であり、アンドロイド的なロリ案件となってしまう。
余計にイオと過ごさせるわけにはいかない。
「なら、これはあれだ……擬似体験してみるしかないんじゃないか?」
「擬似体験?」
「ママスカヤの感覚フィードバック、ヴィルダも体験してみるか?」
「私はかまいません」
「……ごくり」
センダナルの提案、ママスカヤの了承。
ヴィルダが生唾を飲み込んで悩んだ結果……。
そして、一晩が過ぎた。
「……」
ヴィルダはまだポーッとしている。
「いやぁ、昨日も激しかったねぇ」
「朝食の席でそんな話をするな」
大興奮のセンダナルを前に、イオは渋い顔でサンドイッチを食べ、コーヒーを飲む。
「……」
ヴィルダはまだポーッとしている。
「どうかしたのか?」
「っ!」
コーヒーのお代わりをするために立ち上がったイオを見て、ヴィルダは震えた。
そして、イオの一点を見て、それから自分のお腹を撫で、顔を真っ赤にすると慌てて食堂を出ていく。
「なんなんだ?」
「いやぁ、ヴィルダはまだまだ子供だということさ」
「まぁ、そうだろうな」
よくわからないことを言うセンダナルに、イオは首を傾げた。




