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冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記  作者: ぎあまん


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38/52

38おにぎり



 大根の漬物はちゃんとたくあんの味がした。

 こうなってくると無性に米が食べたくなったイオだが、残念ながらその店に米はなかった。

 正確にはおにぎりが食べたい。

 だが、フードプリンターのメニューに、なぜかおにぎりはない。

 他の米を使用したメニューは有名どころはあるというのに、なぜおにぎりだけがないのか。

 炊いた米を丸めただけの手抜き品とでも思われたのか、その真相はイオにはわからない。

 通りにあった他の趣味食の店にも米はなかったので、仕方ないので工房艦グランダラに戻ってからフードプリンターにご飯と、ついでに焼き鮭を頼んだ。

 焼き鮭をほぐしてご飯の中に入れて握る。

 焼き鮭のおにぎりを作り、たくあんと一緒に食べる。

 たくあんのぽりぽりとした食感はイオの記憶にある通りで、これのおかげでおにぎりの偽物感が軽減されて満足できた。


「フードプリンターの製品を改造してまでそれが食べたかったの?」

「自然食品には完全加工品にはない郷愁があるな」

「ふうん?」

「まぁ、単なるノスタルジーと、それを落ち着かせるための儀式みたいなものだな。気にするな」

「いいけどね」


 おにぎりを食べ終え、天日干しの野菜をスナックのようにつまみながら酒を飲み、ホロモニターでニュースを確認する。

 P7反乱軍となったセファタタ星系国家と主に戦っているのは、隣接するリーンガロ星系国家軍と帝国艦隊の混成軍となる。

 そして支社の逃亡経路はリーンガロ星系を通過するものが最短……というか他の経路がP7反乱軍の他の勢力圏を通り抜ける方法しかなく、それしかないに等しい状況となっている。


 どうやっても一度や二度はセファタタ星系国家軍と接触することになる。

 そのときにどうするか、いまの戦力で間に合うのか?

 そういうことがセンダナルを含んだ上で話し合われている。

 いっそ、反乱が終わるまでこのコロニーで守りを徹するのもいいのではないかと思うのだが、星守ステラガーダーがパルミナエル星系でD事故の捜査を終えて帝都に帰還した場合、以後の反乱が終了するまでに年単位の時間が必要となる。

 それが一年か十年かは、お互いの武力と知力の衝突次第……それに付き合うというのは、できれば遠慮したいとここにいる多くの者が思っている。

 さて、どうなることやらとニュースを眺めて酒を飲んでいるとセンダナルが戻ってきた。


「面白いことになってきたよ」


 と、センダナルはご機嫌に箱の体を揺らした。

 会長一族であり、本社の部長職ということで会議に呼ばれていたが、そもそもそういうことが苦手というか嫌いなセンダナルである。

 話の流れ次第ではもう自分が呼ばれることはないと喜んでいる。

 どういうことかと聞けば、元ミーシャ、リリスミア第五皇女が活躍したのだと答えが返ってきた。

 此度の反乱を見届けるようにと命令されたリリスミアだが、なにもしないというのはもどかしいし、また腹立たしくもある。

 リリスミアを誘拐し、クローンを作り、場合によっては殺そうとした相手に対して、ただ見届けるなんてできなかった。

 それに共に移動したイオたちが次の行動を決めかねていることにも助け舟を出したいと思った。

 だが、皇女の立場として一企業の撤退をたすけるのは理に合わない。


 しかし、一企業がダメなら複数企業、多くの人々にすればいいのだ。

 帝国は帝国を支持する多数の人々の幸福を守る。

 反乱に加担した星系国家を見捨てて逃げる複数企業の人々が脱出する手助けはいいはずだと、リリスミアを守る星守フォクサを説得し、近隣のコロニーに呼びかけた。

 その結果、いくつかの企業が呼びかけに応じた。


 すでにその件はニュースになっていたようで、別のところを覗けばたしかにその話になっていた。


「酒飲みついでの情報収集は役に立たないな」

「情報収集にはコツがいるよ。君はまだまだだねぇ」


 イオが肩をすくめると、センダナルが得意そうに箱を揺らす。

 ママスカヤがすっとやってきて、イオの前にあった天日干しの野菜スナックを味見する。

 センダナルが気にしたようだ。

 イオはすでに少なくなっていた野菜スナックの隣にいりこを出してみた。


「……」


 ママスカヤは手を伸ばしかけたが、やめた。


「ママスカヤ?」

「それは、食べ物ではありません」

「いや、食べ物だが?」


 実際にイオが口に入れて見せると、アンドロイドに信じられないという顔をされた。

 試しにヴィルダに摘んだいりこを向けると、彼女はそのままパクリと口に入れる。

 機械的な理由で食べられないというわけではないということが証明されたが、ママスカヤは背筋を伸ばしていりこを見ようとしない。

 じりじりと微妙に距離を開け続ける。


「趣味食か。どんな味なんだい?」

「ただの煮干した小魚だよ」

「ふうん。まさか、ママスカヤに苦手なものがあるなんてね。私も知らなかったよ」

「それで、これからどう動くんだ?」

「リーンガロ星系国家軍と反乱軍との戦闘は、帝国駐留艦隊が合流したことで激化した。国内の不穏分子に注意を向ける余裕はなくなったとも言えるからね。星守の先導でここに集結させ、各企業の警備艦隊を合流させてから向かう予定だよ」


 その経路は戦場を横切る形になることは、イオの頭の中にもあった。

 だからこそ、懸念もすぐに浮かぶ。


「それは、場合によっては挟み撃ちの後ろ側の役をやらされることにならないか?」

「その可能性はあるだろうね」


 元々戦争の横を通り抜けようというのだ。

 注意が他にそれてくれただけでも敵対するリーンガロ星系国家軍と帝国駐留艦隊にとってはありがたいことだろう。


「だが、こちらは第五皇女様が率いる脱出艦隊だ。そんな命令をしてくるかな?」

「……たしかに」


 ないかもしれない。

 だが、戦争に確実というものはない。

 そのことをイオはよく知っていた。


「まぁでも、我々が進む道はそこしかないからね。自由への道は険しいのが通例ではないかな?」

「そんなものか」


 支社コロニーで籠城して、目減りしていく物資というストレスメーターを眺め続ける日々を過ごすよりはいいかもしれない。


「なら、俺たちは合流までここでいい子をして待っているのか?」

「いや、戦場の激化のおかげでここの守備に専念する必要も無くなった。リリスミア皇女様の希望もあって、我々も同行することになるそうだ」

「むむっ!」


 リリスミアの希望という言葉にヴィルダが反応してイオの腕に絡みつく。


「星系内の治安は悪化中だ。残っている反乱軍だけでなく宙賊も跋扈している。守りの手数として我々は必要だよ」

「むむむ! でも、あそこはリリスミアだけでなくフォクサもいるし……」


 フォクサがイオに夜這いを仕掛けようとしたことを、ヴィルダは忘れていない。

 リリスミアがイオに好意を寄せているのは誰が見ても明らかだ。

 それらがヴィルダにはとても不満で、そしてその不満はイオにも……いやイオを通した自分にも向けられていた。


 イオが自分に欲情していないのが明らかだからだ。

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