37買い物
P7反乱軍の勢力圏内にあるアクセンブル社の支社は二つとなる。
つまり、パルミナエル支社とセファタタ支社だ。
パルミナエル支社の脱出は完了しているので、残るはセファタタ支社のみとなる。
「リーンガロ星系を経由してからバーンズ星系の支社に向かうのがベストでしょう」
支社コロニーからの撤収作業を進めつつ、脱出路の話し合いも行われていく。
パルミナエル支社もそうだったが、合流地点はバーンズ支社となっている。
「カリスティア皇女がD事故事件の捜査と明言したということは、P7反乱軍鎮圧の最後まで星守がいることはないということでしょうな」
「バーンズ支社には、すでに周辺の星系国家から発注が殺到しているそうだよ。あちらに行っても君らの仕事がなくなることはないから、安心したまえ」
「嬉しい未来図ですね」
センダナルの言葉に、セファタタ支社長がわずかに頬を緩めて笑った。
「ならばここの資材は可能な限り運んでいきたいのですが……司令、どこまで可能ですかな?」
「そう多くは無理だな。なにしろ船が足りん。傭兵と商人ギルドには声をかけて輸送と護衛任務を受けてくれる船を募集しているが、どれだけ集まることか」
「なるほど……とはいえ、このコロニーに多くを残して去るのは、なにやら業腹ですし」
頭を抱える彼らに一つの連絡がやってくるのはもう少し先のことだ。
イオは哨戒任務として支社コロニーの周辺を飛び回っていた。
「パルミナエル星系のときより状況は悪そうだな」
あちこちにある偵察用のドローンを破壊しながらイオは呟いた。
「それはね、あっちは星守たちが短期決戦したから」
「だな。だが、その星守たちはこっちに来ていない」
「バーンズ星系の交易コロニーで起こしたD事故の捜査をしてるみたいよ。帝国にとっては反乱よりもそっちの捜査の方が重要だから」
「そうなのか?」
「反乱なんて帝国内では『いつも何処かで起きていること』でしかないからね。それよりも、交通の安全性の担保にもなる故意的なD事故発生の予防の方が重要。徹底的に厳しくやるでしょうね。前に見せたでしょ、罰を受けた人たちの動画」
「晒し首よりも効果的だろうな」
あんなものが誰にでも見られるなんてと……見せられたイオは顔を顰めたが、想定するあらゆる人生の終わり方で、アレだけは絶対に避けたいとは思った。
そしてそれが犯罪の抑止力になっているのであれば、たしかに効果的だ。
「罰は恐怖として存在しなくては意味がないのよ」
「その意見には賛成だがね」
三百以上の星系国家を支配する銀河帝国にとって、帝国を支持する大多数が幸せになるのであれば、残りは不幸になってもかまわないという政治思想が罷り通っている。
多少の冤罪などかまわないのだろう。
冤罪で魔王呼ばわりされたり、欠陥品扱いされたこの二者にとっても、それを全面的に批判することはできない。
もちろん、自分たちに災禍が降り注ぐことになれば徹底的に抵抗するつもりではあるが……。
「となると、これからどうするのか?」
また偵察ドローンを見つけたのでパルスレーザーで破壊しておく。
「まぁ、そろそろなにか動くんじゃないかな? あ、ここで担当宙域は完了だよ。帰ろうか」
「そうだな。通信を入れておいてくれ」
「了解!」
ヴィルダの予想が当たるかどうかはともかくとして、退屈な任務は戦闘機の搭乗時間を増やし、操縦に慣れることにも繋がる。
そう悪くもない時間だとイオは思っていた。
支社コロニーに到着したことでイオたちの活動拠点は星守であるフォクサの専用艦サンジョウから、現在は支社コロニーに移っていた。
工房艦グランダラの艦載機という扱いになっているので、そこに機体を収める。メンテナンスはヴィルダが制御する修理ボットに任せ、イオたちは休息の時間をコロニー内で過ごすことにした。
コロニー内は脱出の準備で忙しいが、かといってすぐにできるものでもない以上、普段通りに日常を送っている場所も各所に点在する。
ヴィルダは形として食事の振りはできるが、それで栄養を取っているわけでもない。かといって必要のない食事につき合わせるのも悪いと思ったイオは、露店で適当に買ったジャンクフードを齧りながら通りを歩いた。
「別にいいのに」
ヴィルダが食事の店に入らないことを気にしている。
だが、イオは構わない。
「俺の気分の問題だよ。それに、別に味が悪いわけでもないし」
実際、ハンバーガーめいたジャンクフードは美味かった。
中に挟まっているパテは大豆ミートよりは肉っぽいナニカだが、味は良い。フードカートリッジに入っている同じ素材を使用してサラダから肉料理、魚料理までなんでも生成するフードプリンターに慣れていれば、これぐらいの味の差はなんでもないものとなってしまった。
西暦二千年代の地球、剣と魔法の異世界、そして宇宙を開拓する銀河帝国と三つの文明を渡り歩いたイオだが、食べ物の質は地球>異世界>銀河帝国となると評価している。
ただし、銀河帝国の食文化は味覚への刺激のコツを完全に把握していて、決定的に不味いというものは存在しないし、フードプリンターから生成されたものであれば、どんなものを食べていても栄養の偏りが起きることはない。
自然に存在する空間のほとんどが人間が生存するのに適していないという状況で生きるには、あらゆるものが効率化されていなければならないのかもしれない。
そんなことを考えながら、イオは当て所なくウィンドショッピングに興じる。
どちらかといえば観光の趣の方が強い。
戦闘機のコックピットで目を覚ましてからここまでの時間を、ほとんど船の中で過ごした。
普通に人が暮らしている場所に降り立ち、その様子を見ることさえも初めてのようなものだ。
バーン星系で二つのコロニーに入ったが、片方はD事故が起こり、もう片方は星守に襲撃されて、まともに見物することもできなかった。
いまも平常時とは言い難いが、それでもあのときより見物の余裕がある。
服飾店、雑貨、音楽や映画などのエンタメデータ、簡易医療などの店舗が並ぶ中に趣味食という店を見つけた。
「趣味食?」
「ええとね。フードプリンターを使わない自然な食べ物の店だね。でも多くは保存食のはずだよ」
「なるほど」
窓から見える中の光景には飲食店のようなテーブルはない。
そして、そのショーウィンドウに飾られているのは、明らかな魚の干物であったり、ジャーキーめいた肉色の板だったりした。
「面白そうだ」
「え? 入るの?」
「見るだけだけどな」
ドアを開けて中に入ると、独特な匂いが鼻を撫でた。
海産物の匂い、そして天日干しされた野菜の匂いもある。そういうものが混ざって、独特な臭気となっていた。
フードカートリッジはプリンターを通すまでそう言った匂いを発さないように作られているので、こういう匂いは懐かしくさえあった。
「ううん、不思議な匂い」
「匂いがわかるのか?」
「一応、情報として? 不快とかそういうのは特にないよ」
ママスカヤが食べた感覚をセンダナルと共有したりするのだから、匂いを感知することもできて当たり前か。
そう思い直し、改めて店内を見物する。
見たことがあるような魚の干物、ジャーキー、えびせんのように焼き付けたものや、魚単体を焼き潰した物と色々ある。
野菜類も切り干しされた大根やニンジンのようなものがあるが、こちらはスナック感覚で食べられるように調整されているものが多い。
真空パックされた漬物のようなものがあってイオは驚いた。
「発酵食品は船内に持ち込めるのか?」
ガスの発生や発酵菌の問題でダメなのではなかったか? と首を傾げる。
「発酵? もうそういうのはしていないよ。発酵の結果を再現することができるから、これはそういう技術を利用しているんだね」
「なるほどな」
納得すると、味の方が気になったのでいくつかを買うことにした。




