36謎物質と合流
謎物質が光った。
「んん?」
イオはなにか記憶に引っ掛かるものがあった。
だが、すぐには思い出せない。
すぐそこにあるのに、きっかけがない。
釣り針もないのに大魚の影に糸を垂らしているようなもどかしさに難しい顔をしていると、ヴィルダが謎物質に手を伸ばした。
イオの手の隣に置く。
指と指がわずかに重なっていた。
ヴィルダは内心で『うふふ〜イオと接触〜』程度にしか考えていなかったが、結果はそれ以上だった。
「ふわっ!」
「ヴィルダ?」
「な、な、なにこれぇぇ? なにか、キラキラが私の中に〜〜」
「あっ!」
キラキラが私の中に。
それで思い出した。
「感応物質か?」
「官能物質? なんだかエッチな?」
「……いい加減に手を離せ」
ふらふらと酔うように体を揺らすヴィルダの手を感応物質から離す。
それでもふらふらとしていたが、一分とかからずに元に戻った。
「ふわぁ! なんだったの?」
「感応物質。思考操作、無詠唱、並列起動などの思念系補助に必要な希少物質だ。こんなでかい塊なんて見たことがないから、そうだと思わなかった」
「なら、さっきの私に起きたことは?」
「こいつを介して、探査魔法がヴィルダの中に入ったんだろうな」
魔力というただのエネルギーではなく、魔法式によって変質したそれがヴィルダの中に入ってなにかの影響を及ぼしたのだろうとイオは結論付けた。
だが、なにが起きたのかまではわからない。
「なにかおかしなことはないか?」
「ううん、わかんない? とりあえず自己診断してみてるけど、いまのところはなにもないよ」
「それならいいが」
「ていうか、知っているってことは、イオ、これを扱ったことがあるの?」
「ああ」
前の世界ではイオからの命令を受け取り行動する反射速度を上げさせるために、最精鋭のゴーレムたちには使用していた。
それらは全て、最後の戦いと勇者によって破壊されてしまったが。
「これだけあれば、もっと強いゴーレムが作れるってこと?」
「……一万体分のゴーレムコアが作れそうだが」
しかし、そんなことをしたらセンダナルが怒りそうだ。
「ああそうだ」
「?」
「こいつの形を整えるにはコツがいるんだが」
と、イオは再び感応物質に手を伸ばし専用の魔法を使った。
再び光ったかと思うと、形を変える。
「おおおおお!」
ヴィルダが見ている前で、デコボコの球状だった感応物質が見る間に球体ゴーレムの姿に変わっていった。
「専用の魔法があるんだが、それを浴びせた状態で形を想像するとそれに変化する」
「すごい!」
イオは説明したが、このサイズの感応物質を扱ったのは初めてだ。
思い通りの姿になってちょっと感動していると、ヴィルダがまた手を伸ばした。
「私もやる!」
「おい」
またさっきのようなことにならないかと心配したが、今度はそうならずそれどころかイオよりも早い速度で感応物質の形を変化させていった。
そして出来上がったのは……。
「俺か?」
「うん!」
それとヴィルダだ。
二人の立像が出来上がった。
余った分は台座として使用されている。
「よし、これはこのまま置いておこう。センダナルが起きたときにきっと驚く」
「だよね」
イオの言葉にヴィルダも賛同し、それはそのままにした。
十時間の睡眠の後、ここにやってきたセンダナルの絶叫は予想通りだった。
ただしそれ以後、イオは暇な時間の全てをセンダナルの研究に付き合わされることになったのだった。
セファタタ星系のアクセンブル支社所属の警備艦隊は戦闘状態にあった。
この星系にも支社が所有するコロニーがあるのだが、反乱軍の艦隊がこれを包囲していたのだ。
「けっこう被害が出てるよ」
「みたいだな。すぐに出るぞ」
「うん!」
すぐにドックに移動し戦闘機で出撃する。
フォクサは出撃しない。
いまのフォクサは反乱軍の顛末を見守るリリスミアの護衛なのだ。
反乱軍が目の前にいるとはいえ、一企業とのいざこざのために戦いに出ることはない。
ただ、戦艦を攻撃されると話は別になるが、こんなことでリリスミアを危険に晒すこともない。
「ヴィルダ。警備艦隊に知らせて識別信号を合わせてくれ」
「うん」
「でかいのから狩っていくぞ」
「おうっ!」
セファタタ星系の艦隊は背後からたった一機で接近してくる戦闘機の存在にすぐ気付いた。
多少は速いようだが、それでも戦闘機だ。
防衛用の艦載機を後方に展開すれば終わる話だ。
それよりも逃げ出そうとする愚かな企業に鉄槌を下し、その財産を奪うことに集中……。
「艦載機全滅!」
「なにぃ⁉︎」
まさかの報告に艦長が驚いて確認したときには、その戦闘機はすでに間近に接近しており、結晶刃の一撃が戦艦を叩き割った。
「一つ!」
戦艦が落ちたことで反乱軍も戦闘機に注目したが、もはや遅い。
照準も間に合わない速度で飛び回り、戦闘機と人型の形態を巧みに使いわけるこの存在に言いように翻弄されるだけであった。
「ふたーつ!」
火力に優れた戦艦と駆逐艦が後方で砲撃支援をし、機動力のある巡洋艦やフリーゲート級の船が警備艦隊の陣形を乱している。
戦闘機はそんな反乱軍を後背から突いた。
戦艦までの間を防ぐ存在は艦載機しかない。
「三つ!」
大挙して追いかけてくる艦載機は、戦艦の爆発を目隠しにして持ち替えたアルケミアゲイザーの拡散砲を受けてほとんどを破壊された。
さらに狙撃モードに変更し、その場から戦艦を狙う。
放たれた光条は二隻の戦艦を貫通し、沈めたのだった。
「合わせていつーつ!」
楽しそうなヴィルダの声が響く。
そのときには反乱軍の通信は撤退の声で溢れかえっていた。
追撃することなく工房艦グランダラでやって来たセンダナルと合流してから警備艦隊へと向かう。
「セファタタ支社警備艦隊の司令官パドー・オンバッハ准将です。センダナル開発部長。この度の救援に感謝します!」
「いやいや、そちらが無事でなによりだよ」
モニター越しに畏まる司令官にセンダナルはマニピュレーターをひらひらと振った。
「それから……君が噂のイオルード君か。凄まじい戦闘能力だ。たすかった」
「お役に立ててなによりです」
モニター越しに目が合い、イオも儀礼的に返事をする。
その後、支社長も通信に参加し、そのまま会議の流れとなった。
「さて、本社の決定でP7反乱軍の勢力圏にある我が社の社員と施設は全て撤退することとなったが、現状はどうかな?」
「進捗はよろしくありませんな。早期から反乱軍はこちらを押さえるために部隊を派遣しておりましたが、今回ついに戦艦まで従えて来ました。そちらの救援があと数日遅ければ、警備艦隊は全滅し、セファタタ星系支社の財産は奪われていたでしょう」
「面白くない話だね。私たちのせいでうちが嫌われすぎたかな?」
「その可能性は否定できませんね。ただ、同じように反乱軍の勢力圏から撤退する企業にも接収部隊が向かっているという話もありますので……」
「軍事企業のうちが後回しにされる理由はないと思うがね」
「むう……」
センダナルの冷静な指摘に司令官が唸る。
「パルミナエル星系はどうだったのでしょうか?」
「あちらはねぇ。星守が大暴れしていたから企業に手を回している余裕はなかったよ。すぐに終わった」
「それはなによりですな」
「星守といえば、同行されているようですが」
「あれの助力は期待しない方がいいね。なにしろ皇女様の護衛をしておられるから」
「皇女様!」
「というと、あの話題の第五皇女様ですかな?」
「そうだよ」
「よいですなぁ、私、あの動画を大変気に入りました。皇帝陛下も元気な娘さんの姿にホッとしておられたことでしょう」
「私もです。第五皇女様のファンになりましたよ」
リリスミアの話題は緊張続きの二人にとっていい息抜きとなったようだ。




