33星守のいる戦場
パルミナエル星系国家を含んだ七つの星系国家による反乱は、銀河帝国政府よりP7反乱軍と呼称された。
向こうが名乗っている新生なんたら連邦などという名称は採用しない。
そこにいるのは鎮圧される未来があるだけの賊でしかない。
作戦上呼称が必要であるという事務的理由からP7としただけである。
終了とともに廃棄されるだけの名前。
銀河帝国は彼らにその程度の価値しか置いていなかった。
その戦場にはとある事情で六隻もの星守専用艦が投入されることとなった。
これは反乱軍の戦力を警戒してのことではなく、別の要件で出動したものだが、それが解決した後も事態の早期沈静化を六隻が主導して行うこととなった。
星守No.55バルバ・ローツ・バルバロン。
星守No.118ミッテーシャ・ユグラン。
星守No.167サンファン・ジン。
星守No.199テララ・テトラ。
四人の星守が真空の戦場を蹂躙する。
独自の装甲である星殻装攻を纏い、宇宙を駆ける。
星殻装攻は基本となるシールド発生機とスラスターを兼ね備えたウィング以外は自由に兵装を交換することができる仕様のため、星守ごとにその姿が違っている。
とはいえ、敵兵がその姿を見るのは死ぬときのみである。
『はい、げっきつ〜い!』
両腕にはめたパルスレーザーガトリングからの連射で戦艦のシールドを飽和させ、破壊の雨を降らせる。
そんな光景を生み出す存在は、明るい声を帝国軍用の通信チャンネルに放つ。
『テララは無駄が多い』
『まぁまぁ、バルバさん。テララもよくやってますから』
この場で年長者であるバルバの苦々しい呟きを、若いサンファンが宥める。
『我らには結晶刃がある。それだけで問題ないだろうに』
『まぁまぁ、継戦能力を考慮してのことですから』
『それで一隻を落とす時間が長くなっては……』
『まぁまぁまぁまぁ』
そんな二人は宇宙でのんびりとしているわけではない。
反乱軍のレーダーにも捕捉しきれない速度で移動し、戦艦を人が持つサイズの結晶刃で切り裂き、撃墜させていく。
イオの持つアクセンブル社による模倣品ではない、本物の結晶刃はそれだけの破壊エネルギーを有している。
『ジジイは煩くて嫌』
五隻の駆逐艦を流れるような連続斬りで真っ二つにした上でそう呟いたのはミッテーシャだ。
『なんだとう!』
『まぁまぁ』
『他の奴らにイライラしてる暇があったら、さっさと終わらせて、《《二桁ナンバー様》》』
『あははははは! ミッテーシャちゃん、きっつーい』
『あんたが遅いのは変わらない事実だから、テララ』
『ぎゃあっ!』
『ぐぬぬぬぬ!』
『まぁまぁまぁまぁ!』
『征くぞ』
『『っ!』』
突然に割り込んできた言葉に、四人の星守が緊張した様子を見せた。
『前衛艦隊の排除御苦労である。これより後方艦隊の旗艦に向かい、王を確保する』
『『御意っ!』』
それぞれの星守専用艦五隻の砲撃と四人の星守だけで、反乱軍の前衛艦隊をわずか十分足らずで蹂躙し機能不全の状況にまで追い落とした。
星守No.05 カリスティア・ファーラ・ダグワーレン。
自身の専用艦で戦況を眺めていたカリスティアは、艦橋から専用の射出口に移動し、出撃する。
電磁加速射出されたカリスティアは、即座に自身のスラスターによって加速。いまだ前衛艦隊の崩壊という事実を受け止めきれていない後方艦隊に到着すると、すでに判明している旗艦の艦橋に飛び込んだ。
真空と繋がった艦橋は吸い出される大気のために大混乱となった。
だが、ともに外へと放り出される乗員は少ない。
座席についていた者は緊急用のベルトが、立っていた者も軍靴に備えられている装置によって床と張り付き、なんとか周囲にしがみつく時間を稼ぐことができた。
排出された者は、運が悪いか安全対策を行った愚か者だけだ。
そうしている間に艦橋に空いた穴は飛び出してきた修理ボットによって埋められ、大気の流出は終わる。
嵐の去った後には王の前に立つカリスティアという姿が追加されることなった。
「だ、第三皇女」
「パルミナエル星系国王。最終勧告である。降伏せよ。さもなくば皆殺しだ」
アルビノの白い顔は端正であり、注がれる視線は氷のように冷たい。
「わ、我々はどうなる?」
「? 帝国法を見よ。貴様らの運命は決まっている」
「こ、交渉を!」
「生ぬるいことを言うな。お前たちはすでに反乱以上の罪を犯した。故意にD事故を起こした罪を忘れるな」
銀河帝国法では、反乱よりもD事故を故意に起こしたことの方が罪が重い。
D事故を起こすと計画した者、準備に関係した者、計画を知りながら通報しなかった者、実行した者……その全ての者が等しく死刑よりも重い罰を受けることになり、そして、それがどのような罰なのか、望めば誰でも見られる状態で公開されることとなる。
《《こうなりたくなければD事故を起こすなど考えるな。》》
銀河帝国帝室、そして帝国政府の強いメッセージが込められている。
何度か非人道的だと撤廃を求める運動が起きているが、帝室も帝国政府も一度として意見を翻したことはない。
テロを計画し、帝国社会の平穏を乱す者に、どうして帝国がその人権を保証しなければならないのか?
その時の答えも変わらない。
「貴様ら反乱軍の星系国家王族、軍首脳部、軍幹部、生産関係者、実行部隊とその候補部隊。全てが対象だ」
カリスティアの宣言は交渉としては悪手でしかない。
追い詰められた者、その災禍がどこまで及ぶのかわからない……そんな状況で降伏する者などいない。
捕まれば死よりも酷い目に遭うとわかっているのなら、死ぬまで争うと決めることの方が自然ではなかろうか。
しかし、そんなことはカリスティアにはわかっている。
ここに来たのは、ただ、罰を受ける者の代表の顔を確保するためでしかないのだから。
「抗うのならばそうするがいい。だが、貴様は連れていく。ビームの光で蒸発できるなど夢想するな。貴様これより、永遠の苦痛の中で帝国の歴史を眺めていくのだからな」
「い、嫌だ」
「そんなことを言うな。息子が向こうでお前を待っているぞ」
「嫌だぁっ!」
王がレーザーガンを抜いてカリスティアに向けた。
いや、向けようとした。
そう動作しようとした時には、すでに王の腕は胴体に繋がっていなかった。
いつの間にか実体化した結晶刃が両腕を切り落としていたのだ。
「ぎゃあっ!」
一拍遅れて現実に気付いた王の悲鳴が響く中、カリスティアは捕獲用のシールドキャプチャーを展開し、王を包む。
それから、王の座っていた座席にある通信機を手に取る。
「通信士、全艦に繋げよ」
「は、はい!」
カリスティアの言葉に、通信士は逆らえなかった。
「聞けっ反乱軍! 第三皇女カリスティア・ファーラ・ダグワーレンである! 貴様たちの王はすでに我が手にある。以後も抗いたければ抗うがいい。だが、我らは反乱軍の鎮圧ではなく、計画的D事故の捜査を主体に行動していることをここに宣言する。関係なき者はいますぐに降伏することを勧める。抗えば抗うほど貴様らは容疑者としてポイントを稼いでいくことになる。その事実を忘れるな!」
通信を終えると、カリスティアは王の入ったシールドキャプチャーを持って、再び艦橋に穴を開けて外に出ると自身の戦艦に戻ったのだった。
パルミナエル星系の反乱軍は、最終的に内部分裂によって崩壊した。




