30危機に駆けつけるのは
駆逐艦に肉薄した戦闘機は、瞬時に人型に変形して結晶刃を叩きつける。
内部で解放された破壊エネルギーは駆逐艦のダメージコントロールを易々と噛みちぎり、炎を放って真っ二つに折れた。
補給を終えたいくばくかの艦載機や、まだ生きている駆逐艦や戦艦が砲撃を放った時には、すでに戦闘機形態に移行し、その場から脱出している。
折り重なった光条は駆逐艦の残骸を蒸発させるだけだった。
「なんなんだあいつは!」
旗艦の艦橋で様子を見ていたダンロイド王子は叫び、怒りをひじ掛けに叩きつけた。
たかが戦闘機一機。
こちらは戦艦五隻に駆逐艦を二十隻、さらに艦載機が五十機。
宙賊基地に多少の防衛兵器が残っていようと、そんなものは大した意味もなく羽虫のように叩き潰すことのできる戦力のはずだった。
過剰戦力のはずだったのだ。
奴らは王子である自分を愚弄したことを後悔しながら死んでいく。
己の身分を絶対だと勘違いして、護衛もわずかに外に出るような愚かな皇女もろとも宇宙のチリになるはずだった。
自分は違う。
王子という己の身分を理解しているから、あれだけの愚弄をされようとも一騎打ちなどという愚かなことをせず、大軍で攻めるという手段を行うのだ。
そのつもりだった。
しかし現実は、戦艦三隻、駆逐艦十五隻、艦載機もほぼ全滅という状況に追い込まれ、減少は未だ続いている。
こちらの攻撃はかすりもしない。
人の反射神経を遥かに凌駕した高速で動き回り、攻撃は正確に刺さり、こちらの攻撃は当たらない。
「あんなものではない。あんなものではなかったはずだ」
ダンロイドも戦闘機のテストを見学している。
自身で乗ってはいないが、テストパイロットが動かしているものを見た。
あの時点では普通の戦闘機よりも少々性能がいい、という程度にしか見えなかった。
アクセンブル社の開発者たちはよくやっている、とは思っていた。自身の子供の頃の願望であった人型ロボに乗りたいという希望を叶えるため、人型への変形機能を有する戦闘機を開発し、そんな重荷にしかならない機能を持ちながら、普通の戦闘機よりも高性能に仕上げたのだから。
だが結局、人型での立ち回りや変形機構は重荷にしかならないと判断し、現在の情勢もあって、別の兵器企業の戦闘機を受け取ることにした。
その時に、少々無茶な手段をしたという自覚もある。
それで恨みを買ったとしても、もとよりパルミナエル星系国家を含んだ計画にアクセンブル社はすでに弾かれているのだから、知ったことではないという思いもあって、無理を通した。
そんな王子にとって小さなことでしかなかった選択が、いまこうして牙を剥いてくるとは……。
「王子」
「なんだ⁉︎」
悔しさに唸っていると、艦長が近づいてきた。
通信士から連絡を受けた彼は、直接、王子へとその内容を耳打ちする。
「そうか」
その内容を聞いて、王子は噛み締めていた歯を解放し、ニヤリと笑った。
「これが戦争だ」
そんな王子の見るモニターの中で戦闘機は必死に旗艦に近づけまいと奮闘する艦載機たちをかわし様のパルスレーザーで落とし、飛行形態でのアルケミアゲイザーの狙撃モードを戦艦に当てた。
分離した状態ではサブジェネレーターも分割されているため、威力は連結時よりも落ちてしまう。
戦艦のシールドを抜くことはできたが、ダメージコントロールが間に合い、撃沈というわけにはいかなかった。
「チッ」
「でも、まだこっちは余裕だよ」
「そうだな。まぁ、じっくりとわからせてやっていれば、奴が一騎打ちで一発逆転とか言い出すかもな」
「それを言い出したら本気の無能だね」
「そうだが、その方がこちらとしてはスッキリするんじゃないか?」
「そうだけど……」
そうなる可能性よりもここで撤退を選択する可能性の方が高い。
ヴィルダがそう思っていると、オープンチャンネルから王子の声が響いた。
『ATXのパイロット! 戦闘を停止しろ!』
「なにをふざけたことを……」
『リリスミア皇女のニセモノを乗せたオンボロ船を確保した! それでもか‼︎』
「っ!」
「イオ、本当だ。ママスカヤから通信。クルーザー級五隻に包囲されたって」
「別働隊か。有能な部下がいたようだ」
『停止しろ! さもなくばオンボロ船を撃破する!』
「イオ!」
「仕方ない」
シールドは解除せず、動きを止める。
たちまち艦載機たちに取り囲まれ、その外側で生き残った駆逐艦と戦艦が包囲の位置につく。
「イオ、ごめんなさい」
「なに、俺の作戦ミスだ。こっちこそ悪い」
「ううん、これは私の意地のせいだもん」
先ほどからの攻撃で、戦艦といえど一撃で現在の戦闘機のシールドを破ることはできないということはわかっていたが、とはいえ多数の艦からの収束攻撃となればそれも不可能だろう。
瞬く間に蒸発する未来がすぐそこに迫っていた。
「智に働けば角が立つ、情に棹せば流される、意地を通せば窮屈だ」
「え?」
「昔の文豪作品の一節だ」
これは知性や感情や意地のどれかに頼って生きるのはしんどいという意味に使われている。
どれかに固執するのではなく、全てをその場その場でうまく使っていくのが上策なのだろう。
だが、とイオは思う。
「意地は身を滅ぼすこともあるが、意地も張れなければ生きている意味もなし。通さなければばならないときもある。いまがそのときだっただけだ」
「イオ」
「それに、まだ負けたわけでもない」
死ぬその瞬間まで、負けと決まったわけではない。
調子のいい時は『英雄』と呼び、情勢が変われば『魔王』と呼んでイオルード・ティンバーラインは処分された。
だが、イオはまだ死なず、こうして一万年後の宇宙にいる。
死ななければ、その先になにがあるかわからない。
あの世界で手に入らなかった仲間もいる。
『ふははは! さらばだ!』
王子の哄笑がオープンチャンネルに響き、一斉射撃の命令が下ろうとしたそのとき……。
別の方向から複数の光条が走り、戦艦や駆逐艦を掠めていった。
だが、射出方向を見ても、なんの姿もない。
戦闘機のセンサーを自分の知覚として受け止めているイオの目に映っていないのだ。
つまりそれは、《《まだここにいない》》ということになる。
「なんだ?」
「重力震! ワープ反応! これってもしかしてワープ砲撃?」
「ワープ砲撃?」
「砲撃を先行させる戦場技術。だけどこんなのが可能な戦艦なんて……」
ヴィルダが全てを言う前に、その姿が現れた。
現れたのは五隻。
全てが1kmクラスの戦艦。
全てが白い戦艦。
白い戦艦は、パルミナエル星系国家側の軍を包囲する形で出現した。
「星守専用艦」
ヴィルダが呟いた。
『星守No.05カリスティア・ファーラ・ダグワーレンである! パルミナエル星系国家軍、直ちに艦の機関を停止させよ。さもなくば殲滅する!』
勇ましい女性の声がオープンチャンネルから届けられた。




