29怒りの王子
王子に挑戦状を突き付けて後、ついにこちらの位置がバレた。
『重力震! ワープ反応!』
スピーカーからママスカヤの声が放たれ、基地内の照明が赤に変わり、明らかな危機状態を示した。
「ワープだって?」
聞いていないぞとイオは顔を顰めた。
隣を走るヴィルダが教える。
「一般では使用禁止されてるから、速度で比べれば潜次元航法《Dドライブ》よりも下だけど、安全圏航路に縛られない分、自由度の高い空間跳躍法なの」
「俺にはそっちの方が便利そうに聞こえるが?」
「実際便利だけど、交通密集地での衝突事故が多発したから」
「だから、軍艦しか使ってはいけない、になったのか?」
「そう、法規制でそうなってる。後、装置が場所を取るしエネルギーも使うから駆逐艦級からじゃないと運用は無理」
「なるほどな」
説明を聞きながら戦闘機に乗り込む。
ヴィルダが後ろの卵殻に収まると、すぐにエンジンが動いた。
通信機をセンダナルに繋げる。
すでに急造の長期間航行船にセンダナルたちは移動しており、出発の準備が進められている。
「予定通りにやるぞ」
「本当にこちらに戻ってくるのだろうね?」
「ああ、王子を仕留めたらここでのやりたいことは全て終わりだ。追いかけるさ」
元より、イオたちの本来の目的はミーシャが本物であることを認めさせることであり、反乱軍と戦闘することは含まれていない。
そのために必要な動画はすでに銀河帝国中に散らばっており、こうなってしまっては皇帝の権力をフル稼働したところで動画を全て消すことは不可能だ。
なので、用意した動画を全てアップロードした時点でここから逃亡しても良かった。
そうせずに王子に挑戦状まで叩きつけたのは、イオとヴィルダのわがままだ。
「死なないでください!」
「そのつもりはないさ」
ミーシャの言葉に答え、戦闘機はドックから出撃する。
イオ一人ならここで殿を務めて死ぬのも有りだなと思わないでもない。
だが、共に戦うヴィルダを巻き込むわけにもいかない。
「ごめんね、私のわがままだよね」
宙賊基地のドックから飛び出すまでの間に、ワープによる空間排出の際に起こる重力震反応がさらに増えていた。
「なにが?」
「反応からして戦艦級五隻、駆逐艦級二十隻、ちょっと大変そう」
「それなら、こういう喧嘩の売り方をしたのは俺だ。まさか王子が『正々堂々一騎打ちだ!』なんて言うとは思っていないさ」
「ふふ、そうだよね。なにしろ私を振る言葉も自分で言えないようなクズ男だもんね!」
イオたちの会話は途中からオープンチャンネルになっており、ワープアウトしてくる戦艦や駆逐艦にも届けられている。
『戦闘機の人工知能如きが一端の個性を持った振りをするな!』
「なるほど、育ちの良さそうなきれいな声だ」
『む? なんだパイロット?』
「ついでに世間知らずな癖に自分の勝手な考えを『これで世間はよくなる』と信じきって強行してより社会を混乱させるが、そんなことには見向きもせずに勝手にやりきった感を出す身勝手野郎だ」
『貴様は王族になにか恨みでもあるのか⁉︎』
「恨みしかないが……まぁいいさ。王子殿、ご自慢の姫君はちゃんと連れてきたんだろうな?」
『ふんっ! 来てやっただけありがたく思え、この泥棒めが!』
「おやおや? 王子様は自分が捨てた女にも執着するタイプでしたか? それはいただけないなぁ?」
こんな話をしている間に戦艦たちは配置を終え、艦載機が射出されていく。
『そんなわけがあるか! そもそも国家に逆らう罪人如きに、王子が一人で挑むなどありえん!』
「それならそもそも、王族が戦闘機を持つなどというのが、ただの見栄の儀式でしかないな」
王族が前線に立つなどありえない。
それはイオがいた戦場でも同じだ。
そのような状況にあるということは、そうでもしなければ兵士の士気を維持できないという最低の事態を意味しており、イオからしてもお前の首を落として兵士は逃がせよとしか思わない。
戦争責任というのはそういうものだと思うのだが、王族たちのほとんどはそう思ってはいないようだ。
「見栄で使うには俺のヴィルダは高性能すぎたか?」
『貴様ぁ! 私のパイロット技術を疑うかぁ⁉︎』
「いやいや、王族のやることは敗戦の責任をその首で取ることだ。それ以外はポンコツでも十分。ちゃんと有能な家臣を配置しているならね。大丈夫だよ? 君がポンコツでも誰も気にしない。王より上の帝国がなんとかしてくれるシステムがあるんだから」
『殺せぇ!』
ダンロイド王子の叫びと共に戦艦と駆逐艦の主砲が火を吹いた。
真空を貫く光条の列をするりとかわし、戦闘機は相手へと突っ込んでいく。
「王子のいる旗艦がどれかわかるか?」
「ええとね、あの奥。マーキングしておくね」
「頼む」
神経同調操縦状態のイオの視界に旗艦の位置が記される。
しかし、辿り着くには主砲の雨とこちらに群がってくる艦載機たちをどうにかしなければならない。
「まずは……」
すでに一対多になるのはわかっていたのだから、そこら中に仕掛けは施してあるイオだった。
艦載機の群れに追いかけられ、戦闘機は旗艦への直進コースは断念するしかない。
大きく弧を描き、宙賊基地の周辺にある小惑星帯の中に飛び込んでいく。
それを追いかけて、戦艦たちも包囲網を敷く形で小惑星帯の中に入っていく。
小惑星の一つが駆逐艦のシールドに触れた。
反発の衝撃が放電現象となって散っていく中、小惑星から剥離した欠片が駆逐艦に接近していく。
慣性に反した動きであるが、シールドはその性質上、設定した質量や熱量以下のものは素通りさせてしまう。
慣性までは感知していない。
その欠片に混ざった球状の金属体たちのことは見逃し、船体に張り付かせることとなった。
途端、警報がその駆逐艦に鳴り響く。
『船体の一部に異常熱量! 爆発、移乗攻撃の可能性!』
艦内にその警報が流れた時には、すでに駆逐艦の各所で爆発が起き、それが入り込んできていた。
イオの球体ゴーレムだ。
センダナルの助言を受けながら改造された球体ゴーレムは、駆逐艦の壁に穴を開ける熱量を発生させて内部に入り込むと、相変わらずの衝撃波を放ち、兵士たちを圧倒していく。
問題点だったレーザーへの防御力も改善され、盾となる球体部分は兵士の持つ携行武器の攻撃をものともしない。
逆に、兵士や戦闘ボットたちは魔法への対策そのものが存在しないため、なす術もなく倒されていく。
「なんだこいつ、なんなんだよー!」
「なんで効かない!」
「携行シールド以外全部無駄だ! シールド持ってこい、壁にするぞ!」
「だ、だめだ。間に合わない!」
「ぎゃあっ!」
そういった悲劇が、駆逐艦だけでなく、戦艦にまで広がっていった。
「駆逐艦十隻、戦艦二隻沈黙!」
「よし」
ヴィルダからの報告を聞いたイオは頷いた。
「上々だな。なら、そろそろ反撃といこう」
逃げ回っていたイオは小惑星の影に飛び込むとともに変形。人型になると機体と小惑星を念動の魔法によって繋ぎ、慣性を殺す。
変形と同時に二つに分かれていた新兵器が一つに繋がり、すぐ側で待機している。
新兵器の名前はアルケミアゲイザー。
それを掴み、構える。
「さあ、まずは大漁を狙うとしよう」
戦闘機を追ってやってきた艦載機の群れに向かって、引き金を引く。
アルケミアゲイザーは、イオの魔法の射程問題を解決するために試作された兵器だ。
魔法の射程を引き上げるには開発者であるセンダナルの知識が足りないが、魔力の源であるマナ粒子をエネルギーとするのは、銀河帝国では基本技術だ。
なのでまずはイオに存在する底なしの魔力を利用することに着目した。
アルケミアゲイザーにはサブジェネレーターが存在し、それにイオの魔力がエネルギー化して充填されている。
攻撃時に機体側のジェネレーターの負荷を軽減することで強力な攻撃を連射することが可能となっている。
また、アルケミアゲイザーは分裂した状態でも攻撃に使用することが可能である、その場合の射撃方式は二つに分かれている。
それは、連結した時にも同様だ。
その一つが拡散砲。
連射された短距離ビームの雨が艦載機の群れに襲いかかり、次々と撃墜されていく。
拡散砲の範囲外には一秒と経たずに逃げ出せたのだが、そのわずかな間に、艦載機の数は二割以下にまで減っており、残ったものも、シールドにエネルギーを使い果たし、もはや戦闘の継続は不可能な状態となっていた。
「なら次は大物狩りだな」
「だね」
慌てて母艦に逃げ帰る艦載機たちを追うため、戦闘機は変形した。




