27第五皇女の怒気怒気初放送
「みなさん、初めまして。ダグワール銀河帝国第五皇女リリスミア・ファーラ・ダグワーレンです」
銀河帝国中の動画配信サイト、動画バンク、ニュースサイトにアカウントなしで強制的にアップロードされたこの動画の中で、ミーシャは最初にイオたちに会った時の格好で挨拶した。
下手に衣装を豪華にする必要はない。
むしろ、持ち出した衣装を着ていることの方が、見る者が見れば本物であるという証拠になるとヴィルダやママスカヤが意見した結果だ。
「多くの方にとっては初めましてではないかもしれません。まだ成人していない私は帝室広報の仕事をしておりませんので。本来ならそのはずで、なにより、私自身はいまでもそのつもりです。なぜなら、先日、七つの星系国家の連名で行われた反乱行為において、私がその宣戦布告役をやるという事態がありましたが、あれは私のニセモノによるものだからです」
硬い表情のままミーシャは喋り続ける。
内乱の放送に登場したニセモノは余裕を持って演技たっぷりに喋っていた。
それに比べれば、ミーシャの態度にはどこか稚拙な雰囲気がある。
「私は……にシエン星系国家にいる叔母様のお見舞いに向かう船で何者かの襲撃に遭い、気が付いた時には救護カプセルの中で、とある方にたすけられておりました。それから幾度かの襲撃に遭いました。中でもバーンズ星系の交易コロニーではD事故が起こる緊急事態の中で襲撃されるというようなこともありました。その後、アクセンブル・バーンズ支社コロニーでは星守の専用艦スタッフに判別機によって生体認証を受けましたが、その結果、私がニセモノだと言われてしまったのです。そしてその日に内乱の報せを聞き、あの動画を見ることになりました」
ニセモノと判定されたことは秘密にするべきかという意見もあったが、これにはイオが反対した。
敵側にとっては突きやすい弱点は、先にこちらで見せておけば、弱点にすることはできない。その判定に異議を唱えた者になれるという主張だ。
「成人の儀を受けておらず、いまだ正式な帝位継承権を所持していない私にどれほどの政治的影響力があるのかわかりませんが、私の身が帝国を乱す理由として使われるのは我慢なりません。故に、私は我が身の潔白を証明するため、こうして強引に皆様に動画を提供することにいたしました。これ以後は私が私、リリスミアであることを証明するための行為となります。これ以後もいくつもの動画をアップロードする予定です。どうか皆様、私の言葉を探してください」
一度目のアップロードは成功した。
だが、第二弾、第三弾と続けていけば、どこかは妨害や対策を行うことだろう。
そのため、視聴者は全てを聞くことができないかもしれない。
そうするために、自分で探させるのだ。
「どんなことを話すのか、その触りだけでもここでお話ししますね。まず、私のお父様である皇帝陛下は、二年ほど前に皇妃様と私のお母様であるイザミア第二妃にとても怒られていました。その理由はタタガタ星系国家……では、続きはこの後の動画で」
そこで第一弾の動画は終わった。
「少々えげつなくないかな、これは?」
第一弾の放送が終わったところで、センダナルは心配気な雰囲気を見せてイオを見た。
「原稿を作っているときは楽しかったがね。いざ実行するとなると、不思議と私にないはずの胃が痛くなるんだけど?」
さらに動画編集のときも含めて何度も内容は確認した。
しかし、実際にアップした後には、その時になかった心配というものが不意に持ち上がってくるものだ。
制作に集中すればするほど、第三者的視点というものが置いてけぼりになる。センダナルはそれを心配した。
だが、イオは平気な顔だ。
「いいんだよ。俺の知っている民衆はまじめに政治を考えているような連中じゃない。自分の生活に関わらないなら、政治なんてどうでもいいだろう?」
「それはまぁそうだろうね。今回の内乱だって、近くの星系国家はいろいろ困ることになるだろうが、ほとんどの星系国家にとってはほぼ影響のない話だ」
なにしろ銀河帝国は広大なのだからと、センダナルは言い、イオは頷いた。
「なら、興味のない連中にもこちらの訴えを耳に傾けさせるにはスキャンダルが一番だ。有名人の醜聞はみんな好きだろ?」
「みんなではないと思うけど、まぁ、有名人の人生に興味があるのはそうだろうね」
「銀河帝国一番の有名人一家の知られざる私生活を、本物の皇女様が赤裸々に語るんだ。これ以上のインパクトはない」
「ううん、何度聞いても否定できない。皇帝侮辱罪を適用されないことを祈るよ」
「そのときは、俺を切り捨てればいいさ」
気軽にそう言ったイオに、センダナルは一瞬だが沈黙した。
「……インパクトという点で気が付いたんだが、反乱軍もそれを狙ったのかもね」
「なに?」
「皇女様を旗頭にした件だよ。自分たちの反乱が銀河帝国の日常に埋没して潰されないよう、大々的に宣伝して、帝国のどこかで同じように反乱を計画している星系国家の扇動を目的にしているのではないかってね」
センダナルの言葉をイオは少しだけ考え、その可能性はあると認めた。
しかし、それだけであるなら弱いな、とも思った。
放送の中でミーシャが言っていたように、反乱に絶対必要な要素でないのであれば、皇女誘拐とクローンを使って旗頭にするなんて無駄にも程がある。
大義名分が必要だったとしても、それはもっとわかりやすく星系国家とその民の利益のためとかでもいいはずだ。
それをわざわざ皇女に言わせる理由が、ただのインパクトだけでいいのか?
「もしそうだったとしたら、俺ならただの宣伝ではなくて合図の意味も含めるな。すでに共謀している連中に向けて、『俺たちは始めたぞ、お前たちはどうだ?』って感じでね」
「なるほど。それもあるかもしれないね。ああ、そうだ」
「なんだ?」
「前の経験から来ているのだろうけれど、君はあまり私たちを信用していないね」
「……」
「今回のことで君を切り捨てるなんてしないさ。君は私の恩人でヴィルダの相棒なのだから」
「恩人?」
「戦闘機を使いこなしてくれた。作品に失敗作や実験作は付きものとはいえ、だからといってそれを無碍に捨てるなどできればしたくないよ。有効に、そしてそれ以上に使いこなしてくれる者がいれば、これ以上の喜びはない。だから、君は恩人だ。なにより……」
と、イオは右腕に重みを感じた。
そちらを見れば、怒った顔のヴィルダが腕に絡み付いていた。
「そんなことをしたら、ヴィルダに恨まれてしまう」
「そう!」
とヴィルダが強く頷く。
「イオと出会えなかったら、私はあんな奴につけられた『イラナイモノ』って烙印を捨てられなかった。イオがいなかったら、私はラヴァナール異常重力帯でエネルギー切れになって、スクラップの仲間入りをしてた。イオがいないなんて、私は嫌だよ」
「そうか」
「私もです」
ミーシャも名乗り出るように、立ち上がった。
「イオ様がいなければ、洗脳でもされて本物の反乱の首謀者にされていたかもしれないですし、もっと酷いことになっていたかもしれません。イオ様は私を救ってくれました。そんなあなたを見捨てるなんてあり得ません」
「そうか」
「博士の姿を見て驚いたり、付き合いを控える方も多い中、イオ様はそんな人もいるかぐらいの感覚で受け入れてくださいました。そのような方を失うわけにはいきません。微力ながらお手伝いいたします」
「ああ」
皆からの視線にイオは短く返すだけしかできなかった。
「ヴィルダ、センダナル、ミーシャ、ママスカヤ……最初に出会ったのがあんたらなのが、俺の幸運だ」
掠れるような声で名前を呼び、そう告げた。




