26対策
星守専用艦からの攻撃から逃れ、工房艦グランダラとの合流に成功したイオたちはなにもない宇宙空間を進んでいた。
安全圏航路から外れた場所を進んでいるのは、座標がはっきりしていない限り捜索するのは難しいという理由と、これからの行動が決まっていないためだ。
潜次元航法《Dドライブ》を使えばその際に生じる波形から、こちらの移動を追うのは容易い。
使うのは目的が決まった後が正しい。
工房艦グランダラのリビングに集まったイオたちは作戦会議を始める。
「さて、これからどうする?」
「このままだとお尋ね者なのだろう?」
「まぁね」
センダナルが曖昧にこの場に問いかけ、イオが現在の問題を確認する。
「それなら話は簡単だ。まずは身の潔白を証明する」
「そうだね。それしかないだろうね」
「問題は方法よね」
「私にできることなら、なんでもします!」
ヴィルダがそう言うと、ミーシャが硬い表情で決意を表明した。
「いや、それはそうしてもらわないと、むしろ我々が困る。しかし問題は、なにをしてもらうかだ」
「ミーシャが本物であることを証明すればいいんだろう?」
「そうだね。だが、データ的な証明は不可能だ」
ミーシャが判定機によって偽物とされたのは、星守専用艦に潜り込んだ何者かによる工作の可能性があるのは、先ほど起きていた戦艦での出来事で高まった。
当初はミーシャを確保しようという動きを見せていたが、先ほどの問答無用の攻撃を見る限り、帝国に引き渡される前に死んでくれればそれでいいと考えを変えたかもしれない。
「データに頼る必要はない。こっちには記憶がある」
「はい。全て覚えています」
「イオはもう考えがある?」
イオが確信している様子であることにセンダナルは気付いて、尋ねた。
「単純な話だ。ミーシャに家族や身近な連中との思い出、しかも公には出ていない家族しか知らないような秘密を喋ってほしい。奴らがやった宣戦布告の動画のように、銀河中の人間が見ることができるようにするんだ」
帝国の関係者だけが見るだけでも効果はあるだろう。
しかし、それでは事情次第では黙殺される可能性があるとイオは恐れた。
そういう事情で切り捨てられたことのあるイオだからこその懸念だが、センダナルもミーシャもその点に関して反対はしなかった。
「ふうむ。なるほどね。しかしそれをやるなら、通信網に干渉する強力な施設が必要になるね。工房艦で作ることも可能だけれど、ちょっと時間がかかるね」
「どれぐらい?」
「資材の問題次第でもあるけど、半年は必要かな? 盗んだ方が早いよ」
「それなら、盗むとしよう」
この宇宙での戦争の受け取られ方はわからないが、戦争なんて長引けば長引くほど周囲に迷惑をかけるのだ。
その恨みが募った状態で動画を配信したとしても、逆効果になる可能性もある。
こういうものは早ければ早いほどいい。
「やれやれ、さらなる罪を重ねることになるか」
「ねぇねぇ、それならここはどう?」
動作だけでため息を吐く箱なセンダナルに、イオの横に座ったヴィルダは彼の目的を達成させるための最善手を求めてすでに検索と演算を行なっていた。
その結果、弾き出された座標をホロモニターに表示させる。
「ここは……」
座標、そしてそこに表示されたコロニーの名前に、センダナルは絶句した。
「あいつら、これに名前を連ねているんだし、こいつら相手なら、罪悪感なんていらないよね」
「そうだな。責任をとってもらおう」
センダナルは頷く。
こうして、工房艦グランダラの目的地は決まった。
パルミナエル星系。
イオとヴィルダが出会った星系だ。
今回の反乱騒動には七つの隣り合った星系国家が関わっている。
その中にパルミナエル星系国家も名を連ねていた。
バーンズ星系国家は反乱の報せを受けて領域ゲートの使用停止を命じたが、その命令が届く前に工房艦グランダラはパルミナエル星系国家へと入ることができた。
そして、一つの船を襲撃した。
……と、表向きにはそうなっているが、実際には撤退作業を行なっていたアクセンブル・パルミナエル支社から必要な資材を受け取っただけである。
内乱の勃発によって身動きが取れなくなった物資を大量に抱えていたパルミナエル支社は、場合によっては反乱軍に徴発されたり安く買い叩かれるだけであるので快く譲ってくれた。
工房艦に入りきらないので複数の輸送船付きにしてくれたぐらいだ。
それらの船はママスカヤが並行してリモート操作している。
「さて、次は発信施設を設置する場所が必要だけれど、どこか心当たりはあるかね?」
「それはもう、あそこしかないだろう」
「そうだね」
センダナルの問いにイオとヴィルダは頷きあう。
そこというのは、ほんの少し前に占拠した宙賊の基地だ。
「通信ができるのであれば、あそこでいいだろう」
「今回手に入れた機材を使えば、あそこでも問題ないよ。ね、博士?」
「そうだね。まぁ、中継機はこっちでも作れるから、それをいくらかばら撒いて、少しでもこちらの居場所を見つけづらくはしないと」
そうと決まれば宙賊基地に向かう。
イオとヴィルダが先行して安全を確認して工房艦と輸送船団を受け入れる。
それからは大忙しだ。
センダナルは工房艦と宙賊基地の生産施設をフル稼働させて必要なものを作っていき、ヴィルダとママスカヤに制御された作業ボットがそれらを組み立て、配置していく。
ミーシャは自身が喋るための原稿を考え、イオはそれの相談に応じる。
それとは別に、イオは宙賊基地の内外に、自分なりの仕込みを行なった。
宙賊基地に残っていた作業艇を使って、周囲にある小惑星を巡り、仕掛けを施していく。
そうこうしているうちに、十日ほどが過ぎ、準備は終わった。
数多く作られたミーシャの動画は、宙賊基地のデータバンクに保存され、アップロードを選択するだけで作戦が開始されるところまで来た。
「さて……これはミーシャの仕事だ」
「そうだね」
イオの言葉にセンダナルも頷き、ミーシャにホロモニターを投げる。
そこにあるアップロードをタッチすれば、作戦開始だ。
「最後の決断は君にするべきだ。君は、敵だけでなく家族にも喧嘩を売ることになるんだから」
「はい」
イオに言われたことをミーシャは否定しなかった。
家族に喧嘩を売る。
原稿を考えている間に、その事実に気付いていた。
そしてミーシャも腹を立てていた。
どうして、たすけに来てくれないのか?
すぐそばにいたのかもしれない。
だけど、来ていない。
実際に来た星守はあんな体たらくだった。
その後にも捜索や連絡を行っているような様子はない。
では、ミーシャは見捨てられたのか?
反乱の広報担当のようになったあの偽物が本物だと信じているのか?
それは、とても腹の立つことだ。
だから、してやったりなことぐらい、やったっていいはずだ。
「いきます!」
ミーシャは覚悟を決め、アップロードをタッチした。
作戦が開始された。




