24ふくれっ面ミーシャ
イオが笑うと、なぜかセンダナルが微妙な沈黙をし、ママスカヤが「計算を間違えました」と小さく言った。
そしてそのまま、部屋を出ていった。
よくわからずにイオが首を傾げていると再びチャイムが鳴り、次に現れたのはミーシャだった。
なぜか、ふくれっ面だった。
「なんで私が来る前に機嫌を直しているんですか?」
「いや、なんでって……」
「恋に迷う女の子の気持ちも考えてあげてって、説得しようと思っていたのに……」
「いや、それでは説得されないかな」
「なんでですか⁉︎ イオ様に人の心はないんですか⁉︎」
「一般の女心なんて知らん」
「……はは〜ん、つまりイオ様は地雷系女子が好きってことですね。粘着チャクチャクされてリスカ跡とか見せびらかすタイプが好きなんですね」
「そんな奴が目の前にいたらリスカから失血死まで何分かかるか観察するな」
「じゃあどうしたいんですか⁉︎」
「とりあえず、キャラが崩壊しているぞ、ミーシャ」
「うう……私はいままさにキャラ崩壊の危機なんですからね」
「どういうことだ?」
ここでようやく、イオは工房が包囲されていた理由を聞くことができた。
コックピットの改造とアンドロイド体の準備が終わり、霊子頭脳の積み替えが行われたすぐ後、支社コロニーに星守の専用艦が到着したことが知らされた。
これでたすかると思ったミーシャたちだったが、やってきた星守配下の兵士たちは機械による本人確認を行い、偽物だと断じて捕まえようとした。
それを止めたのがヴィルダだ。
手に入れたばかりのアンドロイド体で兵士たちを薙ぎ倒し、戦闘ドローンを起動して工房での籠城を開始したのだ。
星守が支社長との交渉に向かわなかったり、イオがのんびりと移動していたら、工房は落ちていたことだろう。
本当にギリギリの状態だった。
「私が……私が偽物って……なんで? 私は、本物ですよ? 本物なのに……」
そして、自分の問題を再認識したことで、ミーシャの精神もまた自身が崖っぷちにいるのだと思い出さされた。
不安に揺れるミーシャに、イオは手を伸ばし、頭を撫でた。
「よくがんばったな」
「なんですかそれ……私、なにもがんばれてないじゃないですか」
「諦めてない」
絶望的な状況をイオはいくらでも経験している。
そんな中で心が壊れずにいるということ、それ自体がすでに立派なのだとイオは知っている。
「解決してやるとは言えないが、俺が生きている限りは守ってやる」
「うう……ありがとう、ございます」
泣き出したミーシャを慰めていると、彼女は気絶するように眠ってしまった。
ベッドに寝かせてから部屋を出る。
センダナルとママスカヤは生活空間にあるリビングで誰かと通信をしていた。
モニターに表示されているのは、支社長だ。
かなり顔色が悪そうな支社長との会話の内容は外には聞こえないようになっているようだ。
通信が終わるのを待っているとママスカヤがこちらにやってきた。
「ヴィルダなら、コックピットの中にいます」
「ああ、たすかった」
「仲直りしてくださいね」
「子供の機嫌の取り方は知らないぞ」
「素直に許していただければ、それで良いかと」
「なら、いいけどな」
工房に移動して、中央に鎮座する戦闘機に近づく。
その隣に置かれているのは、もしかして小惑星帯に行く前に話していた新兵器か?
気にはなるが、その話は後だ。タラップを上るがコックピットハッチは開いていなかった。
ノックをする。
返事はない。
「ヴィルダ、俺だ」
声をかけても返事はない。
「もう、怒ってない……は、嘘だが」
「嘘なの⁉︎」
「反応早いな」
「うっ」
声は耳にはめた通信機から聞こえている。
開ける気はまだないようなので、イオはタラップに腰掛けて話しかけることにした。
「とりあえず、最初に言うことがあるよな?」
「……ごめんなさい」
「ん、わかった。もうするなよ」
「はい。……この姿、変えたほうがいい?」
「その姿は、俺にとって大事なものだ。捨てるなんて、許さない」
「わかった。このままにする」
「その姿、どうだ?」
「うん、可愛いと思う」
「そうだな。俺が知っているその姿の持ち主はもっと大人だったが……我儘で身勝手で自分勝手で、大変な奴だった」
「褒めてない!」
「顔と頭だけはいいんだ」
「なんか酷い言い方だよそれ‼︎」
「まぁ、事実なんだ」
そのまま、イオは『フィーリーアのひどい事件簿』をいくつか披露した。
実験のための素材が欲しいからと敵国の鉱山所有地に潜入したり、わけのわからない装備のテストを実戦でやらせたり……。
「そんな人がよかったの? イオって……ドM?」
「はは……まぁそんなあいつのおかげで、知らない場所にいきなり連れてこられてもそのことを悩んでる暇がなくてよかったのかもしれないな」
とはいえ、異世界の状況そのものはさらに終わっていたのだから、最下位決定戦のような比べ合いでしかないのかもしれない。
それでも、イオにとってはフィーリーアとの日々は救いになっていた。
あるいはとも思う。
招魂の儀式を主導したのはフィーリーアだが、まさか異世界から魂がやってくるとは思わなかったと言っていた。
だからこそ、そのことに責任を感じて……いや、まさか、あのフィーリーアが?
「イオ?」
「……いや、なんでもない。それより、俺はいつまでここで放置なんだ?」
「あ、ごめん」
コックピットハッチが開いた。
中に入るとイオの座るシートの後ろに卵を半分にしたような、半球体の物が追加されていた。
球体の殻がスライドして開き、ヴィルダが姿を見せる。
額にマキナクリスタルがある以外では、人間との違いがわからない。
やはり、フィーリーアに似ているとイオは思った。
だが、似ているだけで全く同じではないと、改めて見てみるとすぐにわかった。
子供になったフィーリーアという解釈もできる容姿だが、あの性格が表情から滲み出ていない。
フィーリーアのことを思い出せば出すほど、この姿は違うのだと思えるようになってきた。
「うん、お前はヴィルダだ」
「え?」
「ヴィルダだ」
「あっ、うん。え、えへへへ……ありがとう」
「ああ、これからもよろしくな。相棒」
「うんっ!」
そういうことでイオとヴィルダは元の鞘に戻った。




