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冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記  作者: ぎあまん


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23/53

23生後半年



 イオが怒っている。

 それは誰の目から見ても明らかだった。

 だが、どうして怒っているのかはわからない。

 ただ、ヴィルダに対して「やったな?」と言ったことだけはわかっている。

 それをヴィルダは否定しなかった。

 ただ、顔を青ざめさせて俯き、イオは黙って工房の奥に入っていった。おそらく自室に向かったのだろう。


「さて……」


 イオが工房の奥に消えたのを見送ったセンダナルは、マニピュレーターを操り、腰に手をやるような仕草をしてヴィルダに向き直った。


「話してもらおうか?」

「……はい」


 ヴィルダはポツリポツリと説明を始めた。

 その前に、まずどうしてヴィルダがアンドロイドの体を得たのかの経緯の話となる。

 センダナルがヴィルダに提案したアイデア、それがヴィルダの霊子頭脳をアンドロイドに積み替えた上での新システムだった。元々の機体の方の受取人である王子の手に渡る際に通常の陽電子頭脳に積み替えられる予定だったので、その作業自体は難しくない。

 問題は、戦闘機との連携だ。

 ヴィルダ自身も人型に変形するこの機体を自身の本体と認識しているので、完全に切り離すわけにはいかない。

 だが、アンドロイドに頭脳を移した後の遠隔接続では速度に問題が生じる。

 それは一秒にも満たない、コンマナノ秒の世界での遅延だが、人型可変戦闘機としてその遅延は致命的であると、すでにイオが操縦したデータが証明している。

 では、どうするか?

 そのために霊子頭脳が積まれていたコックピット後部を改造し、アンドロイド体を収納するカプセルを設置した。

 アンドロイド体が少女のサイズになってしまったのは設計上の限界だ。

 そこまでの変更アイデアを改良計画として図面を描き、実施する。

 実作業は工房に入ってから行われたのだが、イオのいない十日の間で終わらせることができたのは、工業用プリンターがそれだけ優秀であるためだ。


 さて、前置きはそれぐらいにして、ヴィルダの容姿に関してである。

 アンドロイド体は、サイズという制限以外はヴィルダの自由にさせた。

 その上でヴィルダが気にしたのは、イオがどう思うかである。

 だから、イオの好みを彼の潜在意識に介入して尋ねた。

 HMDでシミュレーター訓練を行っていたときに、脳波に介入してイオの記憶を刺激した。

 イオが最も異性として意識したことのある女性を思い出させるように。

 そうして、イオが気付かない間にフィーリーアの外見情報をヴィルダは手に入れてしまった。


「イオは喜んでくれると思ったのに……」


 ヴィルダが眼球掃除用の液体を涙のようにボタボタと零す。そんな機能はないはずだがと、センダナルとママスカヤは視線を交わした。

 霊子頭脳の未知数の部分が、人間体を得て開花しようとしている。

 同時に、ヴィルダがなにをやらかしてしまったのかも理解した。

 ミーシャもそれを理解して「ああ……」と天を仰いだ。自分のことも重大事となっているのだが、それはそれとして、ヴィルダのやらかしの方が現実感があった。


 それからはセンダナルとママスカヤ、そしてミーシャの三者で相談する。


「どうする?」

「どうしましょう?」

「元カノか初恋の相手かわかりませんが、その姿になるというのはきついですね」

「そうだ。しかも、誰にも話していないことを暴いたんだ。これは怒って当然だ」


 とはいえ……とセンダナルは身内として弁護したい気持ちはある。


「話をして理解を得るしかないのではないでしょうか?」


 ママスカヤが正論を突き刺してくる。

 それしかないのはわかるが……しかし誰が行く?

 そんな気まずい役、誰だって嫌だ。


「順序としては博士、それからミーシャ様がいいでしょう。イオ様が情報を整理するたすけにもなるかと」

「ああ、そうだな。そちらの方も時間がない。……そうするしかないか」


 そういうわけで、センダナルとママスカヤがまずはイオの部屋に向かった。


 イオはベッドに転がり、頭を冷やしていた。

 いまはそんな時ではない。きな臭い状況で、思春期のような感情に行動を振り回している場合ではない。

 とはわかっているのだが、ヴィルダのあの姿はどうしても思い出してしまう。


 フィーリーア。

 イオの魂を召喚した計画の責任者で、天才錬金術師。

 そして王女。

 腹が立つほどに現実離れした美貌だが、その手入れは侍女に任せて錬金術の研究で汚れることを全く厭わない。

 理知的な天真爛漫という厄介な性格。

 イオの体をメンテナンスと称していろんなことをするし、ゴーレム兵団のテストだからと無茶なものを寄越して運用させようとしたりするし、研究のためならイオの命などなんとも思っていないようなひどい奴だった。

 だが、イオに心を開いていた。

 子供のような所有欲を発露させて困らせたりもした。

 しかしそれでも、楽しい時間だった。

 多くの戦友を失った。もう誰も失いたくないとゴーレム兵団を考え付き、実行した。

 フィーリーアは、最後に失ってしまった戦友だ。


 イオたちの計画を嗅ぎつけた敵国の破壊工作によって、フィーリーアは死んでしまった。


「この防壁式なら、解呪を通さない。お前のためのお前の軍団がこれで作れるぞ。さあ、お前の思う平和を作ってみせて。そうしたら、そこで私は、お前に……」


 なにを言おうとしていたのか、その答えをイオは二度と得ることはない。

 だからその先を考えて、そんなことはフィーリーアは言わないと否定し、考えては否定し、否定し……もうなにもわからなくなって、考えることをやめた。

 そうしてフィーリーアのことを思い出さなくなっていたというのに、思い出してしまった。

 しかも、サイズの違いはあれど思い出させる姿が現実のものとなってしまった。


「まったく、面倒なことをしてくれる」


 イオがそう愚痴っていると、チャイムが鳴った。


「やあ、話をさせてくれないかな?」


 センダナルとママスカヤだ。

 イオは呼吸を落ち着けると、ドアを開けた。


「まずは謝罪を、ヴィルダがやらかしてしまってすまないね」

「いや……」

「言い訳になってしまうが、ヴィルダがどうしてそんなことができたのか、私にもわからないんだ」

「なに?」

「霊子頭脳はいまだ未知の存在だ。ヴィルダの行動がその全てを解き明かしていくことになるだろうが、それはつまりなにが起こるかわからないということでもある」


 なにが起こるかわからない。

 そう聞いて呆れると共に、イオはまたフィーリーアのことを思い出してしまった。

 そうだな、彼女はなにを仕出かすかわからないんだった。

 研究のためなら、どんなことだって実行してみようとする。

 イオも止める側や収拾する側によく回らされたものだ。


「だが、ヴィルダはただイオに気に入られたいという思いであの姿を選んだのだということはわかってほしい」

「ああ、それは、そうなんだろうな」


 だが、ヴィルダのあの姿は、どうしてもフィーリーアのことを思い出させてしまう。

 そのことをどうするべきか。

 いや……そうか、《《なにを仕出かすかわからない》》か。

 これは、イオの中に存在するフィーリーアの記憶が仕出かしたこと、そういう風に考えることもできるのではないか?


 そんな風にイオの中で強引な解釈が進もうとしている時、ママスカヤがそれを後押しするようなことを言った。


「それに、ヴィルダはまだ誕生して半年です。経験が圧倒的に不足した子供であることも、どうかご考慮していただけたらと思います」

「半年?」

「はい」

「ん? ああ、そうだ。霊子頭脳が完成したのは本当に最近でね。あの機体に搭載していたのも、その演算速度を買ってのものだったからで」

「《《子供》》か」


 そう聞いて、イオは笑った。

 そうだ。ヴィルダの姿は、まるでフィーリーアの子供みたいじゃないかと思ったのだ。


「なら、仕方ないな」

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