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冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記  作者: ぎあまん


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02王種ドラゴンからのプレゼント

ここから三人称でいくよー



 ヴィルダが目指したのはラヴァナール異常重力地帯と呼ばれる宙域だ。

 発生はおよそ一万年前だという調査結果が出ており、ダグワーレン銀河帝国がこの辺りに版図を拡大したときにはすでに存在していた。

 ブラックホールのような明確な存在があるわけでもないのに、異常な重力の発生が連続するため、潜次元航法(Dドライブ)が使えない場所として人々に嫌われ、開発の手も届いていない。

 また、資源目当ての採掘船や未知を求める冒険船までもやって来ないのは、この宙域が宇宙怪獣の大量生息地だからだ。


 宇宙怪獣。

 宇宙空間に存在するマナ粒子を主食とする多様な宙間棲息生物たちは、タンパク質などを持つ重力下生物由来の物質を非常に好む種が多いため、人類そのものの敵として見られている。


 パイロットを乗せていないヴィルダはそんな宇宙怪獣たちにとって、ただの漂流物に過ぎなかった。

 度々発生する強力な重力波に吸い寄せられた小惑星などが周囲に漂う中、ヴィルダはスラスターへのエネルギーを最低限にし、自ら漂流物の一部となる。

 センサーは宇宙怪獣を捉えている。

 小惑星を喰らって増えていくメタルビースト。

 布のように長く薄くなって漂い続け、獲物が近づくと巻き付いて侵食するクロスミミック。

 大量の群れで遊泳し、獲物に対してはその数の暴力で嵐のように襲いかかるダーツストーム。

 そんな小物たちを発見し、観察しているとみつけた。


「ああ、美しい」


 思わずヴィルダはコックピット内のスピーカーで音声を発してしまった。

 周辺の小惑星をかき集めてできた玉座でまどろむかのように丸まっているのは宇宙怪獣たちの王種の一体、オブシディアンドラゴンだ。

 全長にしておよそ10kmというところだろう。

 蛇のように長い胴体。暗黒宇宙の中で輝く黒い鱗。凛々しい頭部。

 マナ粒子由来のエネルギーを噴射させる翼骨は、いまは折り畳まれ胴体にぴたりと寄り添っている。

 そんなオブシディアンドラゴンの前に流れ着くヴィルダは、戦闘機形態でわずか15mほどしかない。

 実物を見たことのない象と蟻という対比の言葉を思い出しながら、漂流物に擬態して流れていく。


《ほう、おもしろいエネルギーを纏っているね》


 いきなり、通信機能にそんなメッセージが流れ込んで来て、ヴィルダは混乱した。


《なるほど、生命由来のエネルギーをそのように模倣したのか、人間はおもしろいことを考えつくなぁ》


 どこからこのメッセージが?

 送信元を探ると、それはすぐに判明した。

 すぐ近くにいる。オブシディアンドラゴンがそうだ。


《思考する機械の新たな種か。君、名前は?》

《ヴィルダです》


 恐々と返信してみる。眠っていたと思っていたオブシディアンドラゴンの瞼が開き、赤い瞳がヴィルダの機体を眺めている。

 潜次元航法さえも可能だと言われている王種であれば、人語を解し、通信機能を模倣するぐらいなんてことないのかもしれない。


《ヴィルダか。存在は面白いけど、君はまだまだおもしろい話がないねぇ》

《すいません。生まれたてなもので》


 返事をしながら、ヴィルダは内心で震えた。実際にそんな機能があれば本当に機体が震えていたかもしれない。

 おもしろい話がない?

 それはつまり、ヴィルダの製造からここに辿り着くまでの経緯をすでに理解しているということなのか?

 見ただけで?

 一体どのような調査方法なのか?

 そのことが気になって質問をしてみたいのだけれど、迂闊な発言がどのような運命を招くのかわからないため、機体保守の機能が働き、なにも言えなかった。

 その間に新たなメッセージが届けられる。


《君にプレゼントをあげよう》


 そのメッセージを受け取ったと同時に、オブシディアンドラゴンとヴィルダの間に、突如としてそれが現れた。

 赤い宝石だ。

 楕円に近い形をしており、長軸部分で3mほどだ。

 棺のようにも見えるそれはゆっくりとヴィルダの前に辿り着き、光学センサーがより詳細にそれを確認すると、内部になんと人がいた。

 ルビーにも似た結晶体は内部にもしっかりと満ちているようで、中の人間が生きていないことは明らかだ。


《それは、僕がここで生まれた時から一緒にいた宝物だよ。勝手に兄さんと呼んでいる》

《兄さん?》

《兄さんの話は面白くて、その知識と技術は大変に面白い。いまの僕があるのは兄さんのおかげだ》


 ヴィルダは混乱したままだった。

 宝石の中に収められた死者の記憶を見続けていたと?

 その知識が面白いと?

 いや、10km級のドラゴン系王種が生きた時間とは一体どれほどなのか?


《僕は七千年ぐらいかな? ちなみに兄さんはもっと前からここにいたみたいだよ。たぶん、君たちがラヴァナール異常重力帯と呼ぶこの場所が誕生したときには、もういたんじゃないかな?》


 当たり前のように思考を読み取られてしまったが、もうそこには反応しないように心がける。

 オブシディアンドラゴンの言葉を信じるなら、一万年前となる。

 一万年前にはここに銀河帝国の手は届いていなかった。

 なら、この人物は銀河帝国以外の人類ということになる?


《どうして、こんなものを?》

《いい加減、兄さんも自由になってもいいんじゃないかなって。いや、僕が兄離れするためかな?》


 クスクスと、奇妙な音が機内を反射する。

 オブシディアンドラゴンの気分が宇宙空間を漂い、機内で音の形となったようだ。強力な精神波がそれを可能としている。

 オブシディアンドラゴンがそうと考えれば、戦艦の装甲を貫通し、精神波だけで皆殺しができるのかもしれない。その可能性がヴィルダを恐怖させる。


《これは予感だけど、君と兄さんなら、きっと面白い冒険をすると思うんだ。だから兄さんをよろしくね》


 そう言った次の瞬間。赤い宝石の反応が消えた。

 どこにと探す前に、新たな反応が現れる。

 それはコックピット内。そこに、赤い宝石の棺から脱出した人間が現れ、搭乗席に腰掛けていた。


《そしていつか、その話を僕にしに来てほしいな》

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