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冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記  作者: ぎあまん


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16/24

16無重力逃走劇



 無重力となった世界で、先導役になっていた男の死体が漂っていく。


「せっかくの下準備が無駄になった」


 男の後で襲いかかってきた攻撃を結界で受け止めながら、イオは呟いた。

 パワードスーツはレーザーガンよりもはるかに高出力のブラスターを抱えて、無重力の中を飛んでいる。

 プラズマ弾を放つブラスターライフルは、弾速はレーザーに劣るものの、そこに込められた破壊力は携行用のレーザーガンよりもはるかに優れている。

 対人戦ではパワードスーツの装甲を破壊する目的で使われることが多く、レーザーガンしか持っていないイオを相手にするには過剰戦力と言えるだろう。

 だが、現実では吐き出されたプラズマ弾は全て、イオの結界によって弾かれてしまっている。


「これは、なんなんですか?」


 イオに抱えられたままのミーシャも、目の前の状況が理解できずに混乱している。

 一緒にいたのだから、そんな高性能な個人用シールド発生機を装備していないことなどわかっている。

 なにより、ブラスターライフルの破壊力を前にすればそんな個人用シールドだって、もうとっくに限界を迎えて消滅しているはずだが、目の前にある不可視の障壁はプラズマ弾の爆発を受けても小揺るぎもしていないように見える。


「詳しい説明は後だ」


 好き放題に撃たれ、その反動で無重力空間を遊泳しているのだが、イオの目は冷静に状況を把握するために動かされていた。

 連中の目的がいまだにミーシャの誘拐であるのなら、あの装備は明らかに過剰だ。一緒にミーシャが死んでもおかしくないような攻撃をやり続けている。

 では、目的を誘拐から殺害に変更したのか?

 だとすれば元の目的はなんだったのか?

 そういう謎解きは後回しにするとして……。


「まずは……再利用から始めよう」


 指先に集めていた魔力を解き放つ。

 パワードスーツの一団はイオたちの防御力には驚きながらも、無重力でなにもできなくなっていると判断し、ほぼ直進で近づいて来ていた。

 その途中に先ほど撃ち殺した仲間の死体があるのだが、横を通り抜けた時に異常が起きた。

 死体だったそれが突然に一人に抱きつき、爆発した。

 イオが施した裏切った時用の制裁処置だったのだが、こんな形で再利用されることになった。

 抱きつかれた一人はパワードスーツの中に浸透した爆発の衝撃でもみくちゃにされ、複数の骨折と内臓に深刻なダメージを負って動けなくなる。

 周りにいた仲間はその爆発で突き飛ばされただけだが、突然の隊列の乱れが混乱を呼び、イオたちを居場所を見失うこととなった。


「くそっ! 罠か⁉︎」

「どこに行った⁉︎」


 目標を探すパワードスーツたちが次に見たのは、無重力の中をスラスターもなく進んでいくイオたちの姿だった。

 飛行の魔法なのだが、そんなことは彼らにはわからない。


「スラスターを隠し持っていた?」

「どこにだ?」

「生身に見えたが? 戦闘アンドロイドかサイボーグだったのか?」

「くそっ追うぞ!」


 パワードスーツたちが追いかけてくるのを確認し、イオは不敵に笑った。


「一人は脱落か。それでもスーツが壊れたようには見えなかった。けっこう硬いな」

「パワードスーツにもいろいろありますが、あれはおそらく海兵隊が使うレベルのものかと思われます」

「海兵隊?」

「はい、戦場で戦艦や敵地に乗り込んだりするような特殊な任務をこなす、エリートたちです」

「なるほど」


 宇宙《《船》》だし、宇宙を星の海と呼んだりもするし、海兵隊という呼び方もそこまでおかしくはないのかと納得する。


「あの、イオさん、これからどうなさるのですか?」

「さて、少し対処に悩んでいたんだが、まぁ……ここなら目撃者も少ないだろうし、いたとしてもあのアクマとやらのせいになりそうだし……」


 アクマは立っているだけで破壊領域を増やしている。

 ただ、黒い巨人でしかなかった姿が徐々に変化している。

 黒の部分が少なくなり、色が生まれ、単純だったシルエットにも突起物などが現れている。

 いまだにこちらの世界に完全に出現していないようだとイオは判断した。

 完全に姿を現したら、どれだけの破壊を起こすのか。

 そうなる前に、安全地帯に移動するべく、イオは決断した。


 思い切りやってみようと。


「これから起こることについて、質問なんかは後で受け付ける」

「え?」

「じゃあ、いってみようか!」


 飛行魔法の速度を上げる。

 大きく弧を描き、パワードスーツたちの背後に回り込む。


「お返しだ」


 雷撃の魔法が空中に線を引き、パワードスーツに纏わりつく。

 魔法抵抗とは違う硬い感触は、スーツに込められた絶縁機能によるものだろう。

 だが、魔法は自然現象を模してはいるが、根本的なところで自然現象とは別のものだ。


「そんなものはあちらにもある」


 自然の電気に対抗するための処方はいくらでもあった。

 それでも電気に関する魔法が攻撃魔法として存在し続けたのは、自然現象を模した魔法がいくつも存在するのは、魔力という存在が自然現象を超越するからだ。


「な、なぁっ!」

「なんで、放電現象ごときが!」

「ぐああああああっ!」


 パワードスーツが次々と爆発していく。


「やはり、脆いな」


 自然現象に対しての対処は完璧かもしれないが、魔法抵抗という意味ではないに等しい。


「イ、イオ様?」

「さて、逃げるか」

「質問は……まだ後ですか?」

「そうだな」


 飛行魔法の方向を転換し、イオは通信機からの情報に耳を傾けた。

 先ほどから静かなヴィルダだが、その裏でちゃんと脱出計画を実行させていた。

 すでに襲撃者たちが脱出するために用意していただろう物は使えない。

 炎はあちこちに広がっていて、そんなものを探す余裕もない。


 そして……。


 WOOOOOOOOOOooooooonnnnnn。


 アクマの咆哮がコロニーの壁を引き裂く。

 姿が変わり、本格的にこの世界に出現した。


「イオ様!」

「あいつにも挑戦してやりたいが……」

「やめてください! 戦力が足りません!」

「かもしれないな」


 魔法を使うことに関してもここまで慎重に段階を踏んできたイオである。他次元の存在を相手に、護衛対象を連れて突貫するような無謀はするはずもなかった。


「なら、戦力と合流するとしよう」

「え?」


 イオの言葉に合わせて、コロニーの一角が爆発した。

 今度ははっきりと外に穴が空き、内部の空気が外へと吐き出され。その流れに従ってイオたちも外へと出た。

 宇宙空間でもイオの結界は有効に働き、緊急機密リングが動き出すことはなかった。

 そして、すぐそこに工房艦グランダラの姿があった。


 D事故が発生し、アクマが出現した段階で、港湾区画では緊急出港許可が下りヴィルダたちは工房艦グランダラを動かしていた。

 その後、イオたちに近い場所を求めて移動し、このタイミングを測っていた。

 イオたちが無事に襲撃者の脱出手段で宇宙に出られればよし。そうできなかった場合は、こうしてコロニー外壁を破壊するつもりだった。

 実際に外壁は崩壊し、イオたちは外に出た。

 飛行魔法は宇宙空間でも問題なく働き、工房艦グランダラに入ることができた。


「感動だ!」


 除染作業などを済ませたイオたちを出迎えたセンダナルは、大興奮で箱をガシャガシャと揺らす。


「個人が宇宙空間を自力で移動したぞ! これぞ真に人類が至るべき到達点じゃないか! 素晴らしい! まったく素晴らしい! 生命工学に鞍替えしたくなるほどだ!」

「お褒めに預かり感謝だ。だが、どうなっているんだ?」

「もちろん、逃げ出しているさ。アクマなんて災厄に付き合う必要はない。ここの星系軍に任せるさ」

「事態が深刻化すれば、近隣に駐留している星守ステラガーダーも応援に来るでしょう」

「なら、その時まであいつは暴れ放題か」


 未練のようなものがイオの心に尾を引かせる。

 イオの中にこのコロニーの被害に対しての正義感がなかったわけではない。

 だが、それ以上になにかが、イオをアクマに引き寄せているかのように感じた。

 こういう感触は封印される前に幾度か経験したことがある。

 人間との戦い以外の、超常的存在との戦いでのことだ。


「いや……まさか」

「イオ様?」

「ミーシャ。あのアクマ、星守はどうやって倒すんだ?」

「それは……」

「星守といえば結晶刃による特攻戦術だよ」


 言い淀むミーシャの代わりにセンダナルが説明した。


「専用のパワードスーツ、星殻装攻ステラアーマーで宇宙を駆け、結晶刃を使って個人で戦艦さえも両断するのが星守というものだよ」

「なるほど、ならつまり、俺とヴィルダでもやれるってことだな」

「ふむ……いや、それは……やる気なのかい?」

「俺は逃げてもいいと思ってるんだが……」

「大変!」


 スピーカーからヴィルダの声が響いた。


「アクマが私たちを追いかけてる!」

「やっぱりそうか」

「イオ君?」

「イオ様?」

「あいつに目を付けられた感触がしてたんでね」


 胸に張り付く未練のようなこの感触は、超常の存在が獲物に付ける印と同じだ。


「アクマに目を付けられるって、ううん、やっぱり君は興味が尽きないな」

「私のイオだもん!」


 スピーカーから聞こえるヴィルダのドヤ声にイオの頬が緩む。

 一人で魔法を使うのもいいが、ここは宇宙だ。

 封印前と同じことを続ける必要はない。

 一人ではなく、二人でやるのだと、イオはスピーカーに向けて拳を向けた。


「ああ、やるぞ相棒。アクマとやらに格の違いを見せてやろう」

「うん!」


 


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